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宇宙で粒子を測る

齋藤義文
JAXA・宇宙科学研究所(ISAS)
宇宙プラズマ研究系・准教授

写真: 齋藤准教授

宇宙で粒子を測ると何がわかる?

地球や太陽系の天体周辺や天体の間に広がる宇宙空間は電子やイオンなどの荷電粒子で満たされています。これらの荷電粒子は太陽風や、地球やその他の天体周辺大気や天体表面から放出された物質が源になっています。太陽風とは太陽から絶え間なく吹き出す、密度数個/cc、速度500 km/s程度の電子とイオン(主成分は水素イオン)です。もちろん天体間の宇宙空間を満たす荷電粒子の密度は非常に低く、1立方センチメートルあたり、数個程度です。(われわれの周りの大気の密度が1立方センチメートルあたり1019個のオーダーであることを考えるとその希薄さがよくわかると思います。) ところがこれらの電子やイオンなどの荷電粒子には驚くほど多くの情報が含まれているのです。例えば、我々の地球に最も近い天体である月には地球とは違って濃い大気も固有の強い磁場もありません。そのような天体は小惑星などを含めると我々の太陽系の中にも数多く存在します。太陽風や太陽光が月の表面に衝突すると、月表面の物質が周囲の宇宙空間に放出されます。放出された物質は、太陽光によって電離されて負の電荷を持つ電子と正イオンになります。このように月周辺の宇宙空間には、月を起源とする荷電粒子が月表面の情報をもって太陽風と同時に存在しているのです。さらに、地球や金星、火星などの大気のある惑星からは、大気が太陽光で電離されて天体周辺空間に逃げ出すという現象も見られます。このように天体周辺の荷電粒子を調べれば、天体自体の情報や天体周辺で起きている様々な現象を理解することができるのです。

粒子観測装置の開発

それではどのようにして宇宙で荷電粒子を測定するのでしょうか?私たちの研究室ではこれらの荷電粒子を宇宙空間で計測するための観測装置を開発しています。観測装置の開発と一口に言っても色々な過程が含まれていますが、その中には計算機による観測装置のシミュレーションとそれに基いた観測装置の設計、観測装置の試作(自分で試験のための電子回路を設計、製作したり、工作機械を使って試験部品をつくることもあります)、設計に基いて作った観測装置に実験室で電子やイオンビームを入射しての試験、実際に人工衛星や観測ロケットに搭載する場合には、ロケット打ち上げ時の環境や、宇宙空間での環境に耐えることができるかどうかを確認するための環境試験などを行います。これらの開発を行うことは決して楽なことではありません。しかし楽でないからこそ、自分で開発に携わった観測装置が無事打ちあがってデータを送ってくると、なかなか体験できない幸福な時間を過ごすことができます。その送られてきたデータから、世界中の誰もまだ見たことのない現象が見つかったりするのですから、これは一度体験したらやめられなくなります。

低エネルギー荷電粒子の観測装置

さて、荷電粒子の測定ですが、荷電粒子は様々なエネルギーを持っており、現状では、測定するエネルギー毎に異なった手法で測定されています。おおまかには数電子ボルト以下の熱的な粒子、数電子ボルトから数十キロ電子ボルト程度の低エネルギー粒子、数十キロ電子ボルトから数百キロ電子ボルト程度の中エネルギー粒子、それらより高い高エネルギー粒子に分かれておりそれぞれのエネルギーに適した観測装置開発が行われています。もちろん将来これらのエネルギー範囲を一つの観測装置でカバーできるような技術が生まれるかも知れません。そのようなことを夢見ながら装置の開発を続けています。

ここではもう少しだけ私が特に開発に携わっている低エネルギー荷電粒子の観測装置について述べたいと思います。低エネルギー粒子観測装置がカバーするエネルギーレンジは、ちょうど太陽風のエネルギーや天体周辺に存在する多くの荷電粒子のエネルギーを含んでいます。ですので、天体周辺の構造や、太陽風が天体とどのように相互作用するかを調べるのには必須の観測装置になります。現在主流となっている計測方法は、静電分析器と呼ばれる静電場を用いた観測装置で、2重の球殻状電極に高電圧を与え、電極の間を通過できる電子やイオンのエネルギーを選別するというもので、観測装置に入射する電子やイオンをエネルギー毎、方向毎に分けて1個1個数を数えるというものです。この、エネルギーを選別する部分の電極の形状には用途に応じて様々なものがあり、それぞれの用途毎に計算機を用いてシミュレーションを行いながら設計を行います。ここには設計者のアイデアを十分に入れることができますので、工作好きな人は楽しめるところだと思います。電子やイオンを1個1個数えるためには電子やイオン1個の持っている電荷を増幅して電子回路で検出できるようにする必要があります。このためには、チャンネルトロン(CEM)やマイクロチャンネルプレート(MCP)と呼ばれる電荷の増幅デバイスを用います。これらの増幅デバイスで増幅された電子雲を電荷収集用の板で受けてそれを電気信号に変換して検出します。この電荷収集の方法にも様々なものがあり、アイデアの出しどころと言えます。その後の検出回路についても用途に応じて様々な方法があり、電子工作の好きな人には活躍できる場面が多くあります。最近ではこの検出回路部分にカスタムアナログASICを使用することもありますので、それらの設計に興味のある人も今後活躍できる場面が増えてくると思います。観測装置を動かすためには、コンピューターでプログラムを組んで制御してやる必要があります。これらのプログラムは、衛星に搭載されたコンピュータのプログラムの場合もあれば、実験室の試験用コンピューターのプログラム場合もあります。プログラム作りの好きな人、特にコンピューターを使ってものを動かすのが好きな人は大いに活躍できます。このように、観測装置の開発は、物作りのいろいろな側面を含んでいますので、いろいろな興味を持った人がそれぞれ活躍できる場面があります。また、それらすべての部分をまとめて一つの観測装置が完成しますので、いろいろなパーツを組み合わせてものを作ることに興味のある人(システムに興味のある人)も楽しめると思います。そしてもちろん最も大切なのは、世界中の誰も行った事のない所の、誰も見たことの無いデータを観測装置で測定してみたいという情熱と好奇心です。この情熱と好奇心さえあれば、観測装置の開発を始めるにあたって物作りの経験は必要ありません。

これから将来、地球外の天体に我々の観測装置が到達します。また、オーロラ上空で我々の観測装置が活躍します。地球磁気圏では、放射線帯の厳しい環境下で我々の観測装置が将来の木星探査につながるデータを送ってくるほか、編隊飛行の衛星が世界最高感度・最高速のデータを取得します。

自分の手で作った観測装置を宇宙へ飛ばしてみませんか?

(執筆: 齋藤義文)