修士論文発表要旨
衛星搭載用デジタル方式フラックスゲート磁力計の検討・開発
東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻修士2年
岡田和之
Development
of a Digital Fluxgate Magnetometer for Space Missions
Kazuyuki Okada
宇宙空間での磁場観測
宇宙空間には大規模な磁場構造がある. 惑星間空間磁場や地球などの固有磁場がそれと相互作用することによって形成する磁気圏などが挙げられる. また, 磁場で満たされた宇宙空間にある粒子はプラズマ状態であり常に磁場と相互作用しながら運動するため,
プラズマ観測において磁場観測は必須であると言える.
磁力計のデジタル方式化
宇宙プラズマにおいて重要な物理量である磁場のDC〜数Hz, 数十Hzの変動成分を観測するためにこれまで用いられて来たのがフラックスゲート磁力計である. 本研究ではこれまでアナログ方式を用いて製作されていたフラックスゲート磁力計のデジタル方式化について検討した.
デジタル方式化による長所には
・
アナログ素子の数が減り省電力・省スペース・軽量となる.
・
アナログ回路と比べて温度変化・経年変化によるドリフトが少ない.
・
ソフトウェアのみによるダイナミックレンジの切り替えが可能となる.
などが考えられ, 本研究が成功することにより将来のミッションとして予想される遠方の外惑星へのin situ観測や多点同時観測に向けてさらなる性能の強化を目指すことができる.
デジタル信号処理と伝達関数による設計
本研究では 離散的フーリエ変換を用いたデジタル信号処理の方法について検討した. 量子化のサンプリング周波数を調整することにより, AD変換前のアナログ信号がアナログ回路の温度変化によるドリフトを受けても磁力計の振幅特性が変化しないことを示した(図1, 図2). これは既存のアナログ磁力計だけでなく, 過去のデジタル磁力計(Auster et al.,
[1995])よりもすぐれている点である. 本研究ではデジタル信号処理をフラックスゲート磁力計の伝達関数に組み込み, デジタル磁力計のループレスポンスを設計した.
図1離散的フーリエ変換を用いた信号処理における振幅特性. 横軸はアナログ回路の温度変化によりアナログ信号が受ける位相の変化,
縦軸はデジタル信号処理部の振幅特性. 位相が変化すると振幅特性も変化している.
図2 サンプリング周波数を図1の2倍にした場合の離散的フーリエ変換の振幅特性,
位相の変化に対して振幅特性を一定として確保できる.
特性評価試験
検討した信号処理や伝達関数による周波数特性の設計が妥当であるか評価するために, アナログI/Oボードとパーソナルコンピューターを用いて実際にデジタル磁力計を製作し(図3), 特性評価試験を行った. 較正用のコイルで任意の磁場を作成し,
製作した磁力計で較正用磁場を測定することにより周波数特性を測定した.
図3 製作した磁力計の回路部(左図). 磁力計センサー部と較正用コイル(右図).
測定結果
測定によって得られた結果を図4, 図5に示した. 図4は測定によって得られた振幅特性(赤)と設計値(緑線)である. 測定の誤差内に設計値は収まっていたため, デジタル磁力計の設計に成功していたと言える.
図5
は測定によって得られた位相特性(赤)と設計値(緑線)である. 測定結果はほぼ設計値を満たしているが10 Hz以上では若干ズレが生じている. 本研究において, このズレは測定系に由来する1ms 程度の時間遅れによるものと示唆された.
図4 振幅特性の比較. 赤プロットは実験値, 緑線は設計値を表す
図5 位相特性の比較. 赤プロットは実験値, 緑線は設計値を表す
まとめ
本研究により
・
磁力計信号処理のデジタル方式化
・
デジタル磁力計の周波数特性の設計
がほぼ達成された. 本研究により今後は実際の衛星搭載を想定したonboard素子を用いた設計に入ることが可能となる.
Auster et al., Meas.Sci.Thecnol, Vol.6, pp477-481, 1995