惑星磁気圏研究会


男くさい環境で育ってきたと自負している.

高校は,男子校だった.
夏季の授業は上半身裸でもOK,というリベラルな先生もいたし,
特別授業と称してオトナな話をしてくれる先生もいた.

女性の先生にはいささか不憫な環境のように思われたが,
実際には どうもそうではないらしく,
「女子高に比べたら男子校は天国よ」と,
職歴の長い女性の先生は言っていた.

女子への飢えを共有する野郎どもの間には,いわく言い難い団結間が生まれる.
もう一度,15歳に戻って高校を選びなおしてよい,と言われても,
やはり男子校を選ぶかもしれない.

が,その一方で,人格形成に多大な影響があるであろう
多感な10代中盤ー後半に, 女人禁制の環境に身を置くことで,
人生における掛けがえのない何かを
永遠に手に入れ損ねてしまったような
不安感,焦燥感は否めない.
一生ぬぐえない後悔のような念がつきまとう.

雑誌やインターネットの記事を見ると,
「男子校出身で姉・妹のいない男子は,女性を理想化・美化しすぎるのでご注意」
「教育が必要」
などと書かれたりする.

余計なお世話だ.

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写真:チーズフォンデュ.パンとポテトだけでこのチーズを平らげるのは正直しんどかった.


大学にうつってからも,学部の四年間,男女比は9:1だった.
これがリハビリにはちょうど良い比率だったのか,
あるいはやはり10%は少なすぎて,
真人間に更生されるチャンスを 永遠に逃してしまったのかは,
よくわからない.

研究者の男女比は,やはり5:5からほど遠いが,
幸い,いまの職場では,秘書さんや一般職の方が多く,
男女比はそれほど悪くない.

が,いまさら,手遅れである.
もう,心の奥のやわらかいところにできた歪みは,
一生取り除けないだろう.

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写真:肉.おいしいんだけど、量は半分でいいんだよな..


そんな育ちだけに,今回の研究会は異色であった.

惑星電磁気圏をアクティブに研究している人たちが
スイス・ベルンの専用会議施設に集い,
近年の進捗を確認し合うとともにそれを1冊の本にまとめる,
という研究会なのだが,
女子率が30%に達していた.

この女子率の高さは,惑星電磁気圏研究分野の特色であり,
理系,特に物理系分野の中ではなかなかに異例と思われる.

「惑星研究分野は,どうしてこんなに女子率が高いんだ?」
「うーん,惑星研究って,パッと見,魅力的に映るからじゃないかしら?」
「ん?じゃぁ,男子は,パッと見,魅力的でないものに興味を持つってこと?」
「ていうか,つまらない事でしょ,男子の好きなことって.」

そう,われわれ男子は,つまらない事にロマンを求めている.
ガラクタの山の中に,宝を探している.
あるいは,ガラクタの山が,男子にとっては特別な宝に見えて,
それを眺めて楽しんでいるのかもしれない.

あるいは,本当は,宝など求めていなくて,
ガラクタの山を血眼になって ひっくり返し,引っ掻き回し,
そうして力尽きてリングの隅で
真っ白な灰になる事を望んでいるだけなのかもしれない.

だから,たいていの場合,結婚生活というのは
男子が新婦にモノを捨てさせられるところからはじまる.

「もう使わないでしょ,それ.捨ててよ.」
「使うとか使わないとかの問題じゃないんだよ」
「じゃあ,なんなの」
「おれの思い出,これまでの人生が詰まってるんだよ」
「はぁ?じゃぁ何,そういうアイテムがないと,思い出を掘り起こせないわけ?
  ていうか,そんなの出して来たことないじゃない.」
「いや,出して眺めるとか,そういうことじゃなくて,持っているという事が 大事なわけで...」

かくして,大事なガラクタの大半は処分され,
かろうじて廃棄を免れた10%は,実家の押入れの奥に眠ることになる.

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写真:たまねぎフェスティバル.たまたまやってた.けっこう,盛大でした.


男子校出身の男子は,オトコだらけのぬるい世界で生きてきたために,
特に女子に対して弱いかもしれない.

今回の研究集会で発表された内容は, 参加者全員の共著として,
一冊の本になる予定である.
編集作業の過程では,参加者同士で内容の吟味・取捨選択が行われる.
自分が大事だと思っているところを,あっさり女子に切り捨てられないよう,
せいぜい抵抗してみます.

 

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