ノルウェー出張記(下) -ノルウェイの森編-
写真:ホッキョクグマと対面.
平凡な少年時代だったと思う.
はみ出していたところもあったが,それでも
周りの皆と同じようなものを追いかけていたのは,
つまり自分に自信がなかったのだと思う.
小学生のときにはビックリマンシールを集め,
ミニ四駆を走らせた.
中学生になるとバスケットボール部に入り,
村上春樹のノルウェイの森を読み,
ビートルズのNorwegian woodを聴いた.
典型的な,日本の中学生.
村上春樹とビートルズ,どちらが先だったかは,
もう,思い出せない.
しかしどちらとも,浅く長い付き合いが続いている.
バスケットボールとも,高校卒業以来,浅い付き合いがかろうじて続いている.
大学生になると,すこし自信がついたのだろうか
(この年頃の自信を過信と呼ぶ,ということに気付いたのは
もっと後の事である),
あまり他人のやらない事を
やりたいと思うようになり,
高校まで続けたバスケットボールから離れて
ヨットに転向した.
これを皮切りに,あまり他人のいないところへ向かう習性が
少し強くなった.
大学院進学に際して,気象学や地震学といったわかりやすい学問でなく
宇宙プラズマという分野を選んだのも,その一例である.
そうやって他人のいないところへ向かって行って,
気付いたら,今回,北の最果ての地で3週間過ごす事になっていた.
Svalbard諸島はノルウェーの領土だが,本土の遥か北に位置しており,
スカンジナビア航空の機内誌の地図にも載っていなかった.
その島の,Ny-Alesundという地は,人類の住む場所としては
最北の地だそうである.
写真:小屋,山,月.
人が住むと言っても,居るのは自然科学の研究のため数カ月から1-2年
滞在する人たちと,それをサポートする施設の被雇用者
(事務員やコックなど)のみである.一般居住者はいない.
バスケットゴールはあっても,1on1の相手すらいない.
北極までたった1200kmの場所である(ちなみに東京-沖縄間距離は1550km).
もちろん冬期に日は昇らない.
もちろん病院もない.
もちろん,森と呼べるような樹木もなかった.
頭上,真上に見える北斗七星を見ていると,
思えば遠くまで来たものだ,と本当に思った.
とても感慨深い.
とはいえ,そんな地球の果てみたいな所に行く事を
最初から目論んで,この分野に足を踏み入れたわけではない.
人の世の様々な流れがあって,その中で色々な人のそれぞれの
営みがあって,その中で今回たまたま,そんな辺鄙なところに
行く事になったのである.
これも,とても感慨深い.
特に,野に近い生活をしていると
(なにせ,ホッキョクグマが出没するため鉄砲を持たねば
500mと出歩けないところである),
普段,いかに自分が社会の中で生きているかという事を実感する.
とても感慨深い.
写真:ロケット打上げの図.
この冬,Svalbard諸島のNy-Alesundから観測ロケットが打ち上げられた.
ノルウェーのグループが計画した,ICI-3ロケット.
その打上げ作業の勉強(と手伝い)のため,
わざわざ遥けき僻地まで飛んだわけである.
エキゾチックな体験だった.
ロケットは無事打ち上がり,JAXAの担当した機器も
きれいなデータを取得した.
たった10分たらずの寿命の間にロケットから
生のデータがドゥルルルルと送られてくるのを見ると,
普段見ている処理済みの衛星データとは
異なる趣があるのを,感じずにはいられなかった.
写真:滞在中にはクリスマスパーティが開かれた.