たまには真面目な出張報告を
この度,AOGS-AGUジョイントアセンブリに参加しまし たので,ここにご報告申し上げます.
会議は,シンガポール・セントーサ島で開催されました.
江の島にディズニー施設を載せたようなリゾートアイランドです.
AOGSはアジア・オセアニアの学会ですが,
今回はAGUと
いう米国主宰の学会とのジョイント開催であり,
さらに欧州からの招待講演者も加わって,
幅広い顔ぶれの会議となりました.
この会議から遡ること数か月,
ESAのL-クラスミッションとして木星探査計画JUICEが選定
されました.
総額 1000 億円,木星到着は 2030 年という壮大なミッションであり,
ESAのミ
ッションとはいえ欧州外からも米国や日本といった
諸国からの協力を随所に絡め,人類の総力を結集した計画となる様相です.
私の口頭発表
(1本目)
のセッションでは,
このJUICEミッションの概要が解説されました.
ここ数年,外惑星(木星,土星,天王星,海王星)の研究者は,
Cassini衛星による最新の土星観測データに魅了されてきましたが,
このJUICE計画の本格化により,
木星への回帰と
いう雰囲気が漂いつつあります.
図らずもこれに先立ち木星データを解析し始めていた私
はこのセッションで,
木星磁気圏で観測された磁気リコネクションに関する論文を発表しました.
磁気リコネクションは磁場のエネルギーを
プラズマのエネルギーに変換するプロセスで,
惑星の周辺においては磁気圏内のプラズマ粒子加速や
オーロラ発光といったプラ
ズマ現象を担う中核的な役割を果たすと考えられています.
特に近年,地球磁気圏においては,
リコネクションに伴うジェットの先端での粒子加速や,
ジェット脇腹でのオーロラ電流生成などが観測的に次々に明らかにされてきています.
一方で木星磁気圏研究においては,
リコネクションの発現は指摘されていながらも,
その構造や時間発展の理解は地球
磁気圏に比べ格段に劣るのが現状です.
今回発表した研究結果は,プラズマパラメータが地球と異なる木星磁気圏においても
磁気リコネクションが類似の物理過程を経て起こって
いる事を示唆しており,
磁気リコネクションの普遍的素過程を研究する上で貴重なサンプルであると同時に,
比較惑星磁気圏研究の観点からも,
今後の研究を刺激するものです.
この研究は元来の私の研究テーマのバックグラウンドで進めていた事もあり,
最初に
Galileo衛星のデータに触れてからこの結果を出すまでに
4 年の時間を要しました.
それで
も,Galileoデータ・revisitedという世界潮流を先取りするタイミングで
論文発表にこぎ
つけたのは,重要なデータと論点整理・展開の機会を提供してくれた
共同研究者のおかげ
に他なりません.
一方,私の主要研究テーマに関する論文は,機器開発セッションで発表しました.
この論
文は,日本の放射線帯探査衛星 ERG に搭載する電子検出器(APD)の
性能を評価した結果です.
放射線帯における高エネルギー陽子の照射は,
APD の性能に不可逆な劣化を引き起こす
ことが知られています.
一方,放射線帯での観測に限らず可逆な劣化を引き起こす要因と
しては
APD の温度があります(一般に温度が低いほど高性能)
.
ここで劣化とは計測エネルギーの下限が上昇してしまう事を指します.
我々は実験データと理論計算に基づき,
ERG の
ミッション中に予想される 10 krad 程度の放射線量に対して,
設計要求を満たすエネルギ
ー下限 6 keV 程度を維持するには,
APD を摂氏 10 度程度に維持する必要がある事を明らか
にしました.
APD は今後の地球・惑星探査において広い応用が期待されている素子であり,
その可能性と限界を示す今回の実験結果は
世界中の将来探査の検討において貴重な道標と
なります.
聴衆には,先の JUICE ミッションに APD を使用する検討をしている(?)
海外の研究者もおり,発表後もいくつの議論を交わしました.
しかしながら,惑星研究コミュニティはJUICE ミッションに向けて
複数の国際連合グルー
プが搭載機器候補を提案し選定プロセスを待つ,
という競争状況にあり,競合するグルー
プ間では手の内の探り合いにならぬよう,
奥歯にものの挟まったような議論しかできない
のが現状です.
惑星研究者たちの間に一定の距離感のようなものが存在する,珍しい会議 となりました.
写真:入国審査.かわいい表示は各国9パスポート.
写真:マリーナベイサンズ屋上で夕暮れを見ながらカクテルを.
写真:日没後のマリーナベイサンズからの眺め.
上流階級の目線です.人がゴミのようだ.
写真:小市民の目から見たマリーナベイサンズ.
屋上にはプールもあります.以前,SMAPがCMで歩いていました.
写真:宿泊はセントーサ島内のホテル.
テラスでの朝食にはリスや孔雀も参加.