2012年度 惑星大気・電離圏セミナー



■場所 :A棟5F会議室 (変更の場合は赤字)
■時間 :金曜16:30- (変更の場合は赤字)
■連絡先:八津川友輔(2bmjm018[at]mail.tokai-u.jp)


開催日時・場所 発表者 (所属・身分)
1/25 (Fri) 16:30- 5F会議室 金尾美穂(OD)
 
概要:
 
1/18 (Fri) 16:30- 6F会議室 高橋文穂(PD)
GOSATの現状と最新成果  
概要:
 地球の温暖化・寒冷化については、昨年、 太陽観測衛星「ひので」が太陽北極磁場の反転 を観測してから、にわかにまた予測が困難な 状況に至っている。気温変化予測が不確かな 要因として、1)雲・エアロゾルの影響が不明、 2)長周期で起こる気温・海水温の変動(太平洋 10年規模振動(PDO)や北極振動)などが正しく Model化されていない、3)太陽活動・地球磁場 の影響をモデル化する事が困難、などが挙げら れる。この予測精度を向上させる為には、観測 データの蓄積を図り、科学的に「真相」を探し 求めて行く努力が必要である。本発表では、 来週の1/23で打ち上げ後5年目を迎えるGOSAT の現状と最新成果について、概説する。  
1/11 (Fri) 16:30- 5F会議室 Yeon Joo Lee(PD)
The radiative forcing of the upper cloud layer in the Venus mesosphere.  
概要:
The thick clouds of Venus are located from ~48 km to ~70 km altitude. As these clouds cover the globe completely with large opacity, they play an important role in the radiative energy balance. Especially the upper cloud layer, above ~60 km altitude, is a significant factor for both thermal emission and incoming solar radiation. Around 76 % of solar insolation is reflected back into space by the clouds, and ~12 % of solar flux is absorbed by unknown UV absorbers in the upper cloud layer. Also, the clouds absorb a large fraction of the outgoing thermal emission from the hot surface and deep atmosphere, making them the second strongest greenhouse agent in the Venus atmosphere. The cloud tops determine the outgoing emissions to space by their own temperatures. Since many observations have revealed various upper cloud layer structures, the radiative energy balance in the Venus mesosphere can be affected by changes in the upper cloud layer structure. Therefore knowing the radiative energy balance is important for a better understanding of many unsolved problems in the upper cloud layer, e.g., strong horizontal retrograde winds (super-rotation), temperature inversion layer (cold collar), and polar vortex. This presentation will focus on the effects of various upper cloud layer structures on thermal cooling and solar heating, as a part of my study on the global radiative energy distribution.  
12/14 (Fri) 10:30- 5F会議室 渡辺 歩佳(M1)
Heating of atmosphere by propagating acoustic wave  
概要:
 高周波数の波は観測が難しいとされ、大気を伝播する波の観測としては 低周波数の波がほとんどである。しかし音波のような高周波数の波は低周 波数の波に比べて分子拡散による影響が小さく、より高い高度へ到達でき る。そのため大気上端で何らかの影響を与えていると考えられる。 そこで、音波の鉛直伝播特性について数値計算を用いて理解することを 研究の目的とする。 今回は、木星熱圏での音波による大気加熱について先行研究(Schubert et al.)を紹介する。この論文では、数値計算により音波伝播が木星の熱 圏に与える影響を求めている。その結果によると、音波伝播による効果の 合計はすべての高度で大気を熱していることになる。これにより、音波は 木星の大気上端が高温であることの原因のひとつになりうることがわかった。 これらの結果をふまえて今後の研究方針をまとめた。  
12/7 (Fri) 16:30- 5F会議室 山崎 敦(助教)
SPRINT-A開発の現状その2  
概要:
 来年夏季の打上げを目指して開発中の小型科学衛星一号機SPRINT-Aは 総合試験を開始し、来週からシステム熱真空試験に突入します これまで実施した試験結果と校正試験結果についてと 今後の予定について報告します  
11/30 (Fri) 16:30- 5F会議室 阿部 琢美(准教授)
電離圏カスプ領域でのプラズマイレギュラリティの観測  
概要:
 観測ロケット、EISCATレーダ、光学観測機器を中核として電離圏カスプ領域に 顕著な電子密度イレギュラリティの発生メカニズムの解明を目的としたICI-2 キャンペーンが2008年12月にノルウェーにて実施され、密度擾乱域と降下電子 領域の空間的対応やReversed Flow Event(RFE)との関連性についての貴重なデ ータが得られた。より本質的な理解を得るために第2弾としてICI-3キャンペ ーンが2011年12月に行われた。ICI-3の目的は、1)カスプ領域電子密度擾乱の 発生メカニズム解明、2)密度擾乱発生に対するRFEやpolar cap patchが果たす 役割、3) RFEの成因、を解明することにある。 ICI-3キャンペーンはICI-2と同様に観測ロケット、EISCATレーダ、全天カメラ を中核的観測手段として行われた。プラズマイレギュラリティに係わる現象の 本質的な解明のためにはロケットによるその場での直接観測が必要であり、科 学観測機器を搭載したロケットに電離圏カスプ領域を通過させ、電離圏電子、 降下電子、電磁場の変動等の現象の解明に本質的なデータが得ることで、我々 の理解が進展すると期待される。特に本実験でキーとなる物理パラメータはカ スプ領域における電子密度イレギュラリティ、降下電子スペクトル、沿磁力線 電流、電磁場変動である。 搭載測定器の中で固定バイアスプローブは電子密度およびその擾乱の測定を目 的としている。この測定器の取得データの解析からは次のような結果が得られ た。 1)ロケットは期待通り電子密度擾乱の存在する領域を通過した。 2)ロケット搭載の固定バイアスプローブはフライト中に断続的に電子密度擾  乱を観測。 3)ロケットが通過した領域にはRFEが存在していた(EISCATレーダ観測) 4)ロケットの軌道上に継続的して630nmの発光が観測された(全天カメラ観測) 5)擾乱の激しい領域では10mスケールの変動が増大し、HFレーダの後方散乱波  を作り出す要因になり得る。 今回の発表では固定バイアスプローブが取得した電子密度擾乱データを中心に 全天カメラやEISCATレーダ等の地上観測設備により得られたオーロラ発光分布 プラズマ対流パターン等のデータをもとに、ICI-3キャンペーン観測で新たに わかった事柄について報告を行なう。  
11/16 (Fri) 16:30- 5F会議室 八津川 友輔(M1)
S-310-40号機搭載用固定バイアスプローブによる電子密度観測  
概要:
 電子温度と電子密度は電離圏プラズマの基本的特性を表すパラメータとして重要である.これまで電離圏プラズマの観測は,ロケ ットや衛星,地上からのレーダにより行われてきたが,未だ空間変化や時間変化について不明な事が多い. 観測ロケットS-310-40号機は,夜間電離圏において中波帯電波の異常伝搬を引き起こす高密度プラズマ層の発生メカニズムを解明することを 目的として,2011年12月19日23時48分00秒(JST)に宇宙航空研究開発機構の内之浦宇宙空間観測所から上下角76度で打ち上げられた.ロケット には6種類の観測機器が搭載されたが,その中で固定バイアスプローブ(Fixed Bias Probe)は,高時間分解能をもつ測定器で,微小スケール の電離圏プラズマ密度擾乱を観測するのに適している.  FBPは,直径3cmの球プローブに固定バイアス電圧を印加した時にプローブに流れる電流を測定している.プローブはロケット頭頂部に2つ 搭載され,一方には+4V,他方には-3Vの固定バイアス電圧を印加し,それぞれ電子電流とイオン電流を測定するようになっている.FBPのプロ ーブは,ロケット打ち上げの62秒後に,ウェークの影響を出来るだけ避けるためにロケット機軸と垂直方向に展開されるブームの先端に取り 付けられた.また,大きな電子密度変化に対応できるよう,低利得と高利得の異なる2チャンネルの電流検出回路を用いることによりプローブ 電流には広いダイナミックレンジが確保されている.  ロケット搭載機器による観測の結果,打ち上げ時には高度100km付近に背景よりも高い電子密度をもつ層が存在していたことがわか った.これは何らかの理由により,夜間に電離圏E層高度で電子密度が増加していたことを意味している. 本研究ではFBPの観測データを用いて,観測された高電子密度層のスポラディックE層との類似点と相違点.特に高電子密度層の空間スケール の比較を行うことで電子密度増加現象の原因の解明を進めている.  
11/9 (Fri) 16:30- 5F会議室 榎本 孝之(M1)
HOPS装置による金星の偏光撮像観測  
概要:
 Hansen and Hovenier(1974)は1960年代の地上観測による金星の偏光 データを用い、金星上層の雲が濃硫酸の液滴である事を突き止めた。また Kawabata et al.(1980)はPioneer Venus Orbiter(PVO)に搭載されたOrbiter Cloud Photopolarimeter(OCPP)により得られた2次元の偏光データを用い、 上層ヘイズの特性には局所的な違いや長期的な変動がある事を指摘している。 このように、金星上層の雲特性に関する情報を得るため方法として偏光 データが有用であることが分かる。またその動態や原因を追及するためにも 同様な手段でモニターしていく必要がある。  そのモチベーションのもと、惑星の2次元偏光度マップを捉える事の出来る HOPS(Hida Optical Polarimetry System)装置を用い、今年8月と10月に京都大学 飛騨天文台にて観測を行った。本セミナーではその結果と先述の先行研究の 紹介を行い、今後の研究方針について発表する。  
11/2 (Fri) 16:30- 5F会議室 佐藤 毅彦(教授)
これまでの火星探査ミッション概観  
概要:
 火星はその興味深さや深宇宙探査のステップとしての位置づけなど、 さまざまな理由からこれまでおびただしい数の探査が行われている。 それらの全体像(どのような目的の探査で、どのような成果が得られ たか)をきちんと把握することは、将来の火星探査を考える上で欠か せない基礎知識である。本セミナーでは、これまでの火星探査ミッシ ョンを網羅的に概観する。  
10/26 (Fri) 16:30- 5F会議室 小郷原 一智(PD)
火星大気の時空間スペクトル解析  
概要:
 火星大気中における大気波動をMGS/TESの観測結果から検出する。 分散関係との比較を容易にし、「何波」か見当をつけるために時空間スペ クトル解析を行う。本発表ではその初期解析結果を発表する。 温度観測結果を規則正しい格子に再配置してから解析するのではなく、 salby (1982a,b)に基づいて観測点の位置と観測値をそのまま用いる。 これにより、1日周期ケルビン波も検出可能となる。 また、スペクトル解析を行ったことのない人のため、スペクトル解析の 基礎事項も簡単に解説する。 なお、本研究の基礎は大島亮さんによって行われた。  
10/16 (Tue) 16:30- 5F会議室 樋口 武人(M2)
金星の雲層における対流の数値実験  
概要:
 金星は高度約45-70kmに存在する濃硫酸の雲に覆われている。この雲は入射する太陽光の 約80%を反射し、金星のエネルギー収支において大きな役割を果たしている。雲を構成する 硫酸は大気中の二酸化硫黄と水蒸気をもとに光化学的に合成されると考えられている。その一 方、VEGABalloon観測により高度55km付近にて対流に伴うと考えられる鉛直風が観測された。 また、電波掩蔽観測により得られた気温分布から雲層下部50-55km付近に中立成層があること が知られており、対流活動の存在を示唆している。この対流は下層大気からの上向き熱放射が 雲底で吸収されることで生じていると考えられる。  雲層内の対流は雲の下に分布する硫酸蒸気を巻き上げて新たに硫酸の凝結をもたらし、金星 の雲を維持する働きを持つとともに、硫酸の材料物質となる水蒸気と二酸化炭素を雲層の上部 へ輸送する。したがって、金星の雲システムを理解するには雲層内の対流を理解することが不 可欠である。  Baker et al. [1998,2000]は、金星の雲層高度における対流の数値実験を行い、対流層の上 下にある安定層にプリュームが貫入するなどの特徴的なプロセスを議論した。しかし、本来は 放射輸送によって雲層を出入りする熱流束をモデル境界からの拡散によって表現していること が問題点として挙げられ、特に雲頂付近では良い近似であるとはいえない。金星の雲層におけ る対流の基本構造を決める要因を理解するためには、より現実的な放射強制をもとにした対流 計算を行う必要がある。  本研究では、非静力学な気象モデルCReSS [Tsuboki and Sakakibara, 2007]を使って金星の 雲層における対流の性質を探る。硫酸の凝結・蒸発に伴う潜熱に寄与は小さいので、ここでは 乾燥対流を扱う。短波放射による加熱はTomasko et al. [1980]を基にした全球平均加熱率を与 え、長波放射による加熱・冷却は池田[2010]が上記の加熱率をもとに1次元放射対流平衡計算 から算出したものを与えた。これによって計算された対流のアスペクト比は約1 : 2となり、対 流に伴う鉛直風速は1 - 3m/s程度となった。本発表では、対流が運ぶ熱フラックスの計算や異 なる数値粘性での計算をもとにして、今回の結果の妥当性について述べる。そして異なるローカ ルタイで対流の基本的性質がどのように変化するのか、ここまでの計算結果をもとに議論を行う。  
10/12 (Fri) 16:30- 5F会議室 山本 博基(PD)
非保存型セミラグランジュ法による物質移流計算:補間法とフィルタ  
概要:
 地球大気において水やオゾンは潜熱や放射過程を通して、大気大循環に大きな影響を与えている。 金星においては硫酸、火星ではダストがそれぞれ重要な役割を果たしている。 これらの物質は、その場で生成・消滅するだけでなく、風に流されて移動する。 よって、大気の数値モデルにおいては、物質移流を精度よく計算することが不可欠である。 本発表では、物質移流の計算手法の1つである非保存型セミラグランジュ法について述べる。 また、同手法内で使われる様々な補間法とフィルタについて、それぞれ比較しながら議論する。  
10/5 (Fri) 16:30- 5F会議室 宮本 麻由(M2)
「あかつき」の電波掩蔽観測による太陽コロナの電子密度変動のスペクトル解析  
概要:
 近年、コロナ加熱のメカニズムとして波動の寄与が考えられている。Alfven波がエネルギー輸送の点で注目されている一方で、音波は光 球や彩層などの太陽表面を出るとすぐに衝撃波を作り散逸してしまうためコロナに伝搬しにくいと考えられている。しかし、太陽表面と比 べ観測例は限られているがコロナ中でも音波は観測されている。コロナ中の音波は下方から伝搬して来たと考える以外に、下方から伝播し て来たAlfven波によってその場で生成されたと考えることもでき、いずれの過程においてもコロナのエネルギー収支に重要な役割を果たす 可能性がある。  現在太陽周回軌道を航行中の金星探査機「あかつき」は2011年6月6日-7月8日にかけて、太陽コロナの電波掩蔽観測を行った。これは地上 局から見て探査機が太陽の背後へ入出する際、探査機から送信された電波が太陽コロナを通過し地上局に届くことを利用した観測で、電波 の受信周波数(位相)変動や強度の時間変化を解析することで太陽風中の電子密度変動や太陽風速度の情報を得ることができる。今回「あか つき」は太陽中心から1.5-20.5Rs(太陽半径)という、これまであまり観測されていない太陽近傍の観測を行った。  本研究ではこの電子密度変動データをスペクトル解析し、コロナ中の音波の密度振幅とエネルギーフラックスの推定することで、音波の 性質の距離依存性やコロナ加熱への寄与を考察する。  
9/28 (Fri) 16:30- 5F会議室 安藤 紘基(D3)
電波掩蔽で見た金星の極渦について  
概要:
 Pioneer Venus 搭載の赤外カメラによる金星極域の撮像で、極を3日程度で周回する ダイポール構造が捉えられた。そして、この現象が主に順圧不安定によって生成・維持 されていることが理論的に示唆された。だがそれの鉛直構造ないしは立体構造が 不明瞭であるため、理論の妥当性が十分に検討できていない。近年では、 Venus Express の赤外・紫外カメラにより、金星の極域にあるダイポール構造が幾度も 撮像されているものの、得られるのは殆ど水平方向の情報であり、未だに手掛かりが 掴めていない。 電波掩蔽は、高分解・高精度で鉛直方向の温度を測定できる。そこで、金星の極渦 付近を集中的に観測して得られた温度分布を選び出し、それらの平均値からの残差を 高度ごとに並べた。その結果、高度方向に位相があまり変わらない周期的な変動を 捉えた。これは、順圧不安定のような鉛直方向にはあまり伝搬しない波動を、 世界で初めて捉えた可能性がある。本発表では、結果を明示すると共に、今後の 解析方針に関して述べたい。  
9/21 (Fri) 16:30- 5F会議室 今村剛(准教授)
ホログラフィー法による電波掩蔽データの解析に向けて  
概要:
 惑星大気の電波掩蔽観測においては通常、宇宙機と受信局を結ぶ電波を 一本の光線とみなして幾何光学を適用し、受信信号のドップラーシフトから 光線の屈折を復元して大気の屈折率の高度分布を求める。この方法は簡便 であるが、大気中の異なる経路を通った複数の電波が同時に受信される場合 (マルチパス)にはうまく解が求まらない、電波の経路が有限の広がりを 持つことにより鉛直分解能が制限される、といった問題がある。 これらを解決すべく、受信信号の複素振幅の時系列データを用いて電波 伝搬を解く新たな手法が考案され、実用化されつつある。本セミナーでは 原理と実例を紹介し、「あかつき」への応用の展望を述べる。  
8/3 (Fri) 17:00- 5F会議室 金尾 美穂(OD)
 
概要:
 
7/20 (Fri) 16:30- 5F会議室 高橋 文穂(PD)
GOSATプロダクト現状とデータ利用研究  
概要:
2009年1月に打ち上げられた温室効果ガス観測技術衛星GOSAT(いぶき)は、 順調に観測を続けている。今回の発表では、昨年まで、データ品質として最 大の問題であったバイアスの問題が大きな改善をみせたのでデータプロダク ト現状を、検証の観点から詳述し、併せて、データ利用研究的な観点から、 トピックス的に解説を試みる。  
7/13 (Fri) 16:30- 5F会議室 山田 学(PD)
 
概要:
 
7/6 (Fri) 16:30- 5F会議室 今村 剛 (准教授)
大気の音波加熱  
概要:
惑星大気と太陽大気の中を鉛直伝搬する長周期音波の話題を紹介する。 太陽コロナにおいては光球起源の磁気音波がある割合でエネルギー供給を 担っている可能性がある。昨年実施した「あかつき」による太陽コロナの 電波掩蔽では音波と推察される密度変動がとらえられており、コロナ中の 音波伝播に関する新たな知見が得られつつある。地球を含む惑星の大気では これまで音波の役割はあまり注目されていないが、地震で励起された音波が 電離圏に変動をもたらすことが知られており、また激しい積雲対流から 射出された音波が熱圏に無視できない加熱をもたらすことが幾つかの事例 研究で示唆されている。ここではさらに、音波による熱圏の加熱が惑星の 進化のある段階で重要な役割を果たす可能性についても考えてみる。  
6/29 (Fri) 16:30- 5F会議室 阿部 琢美 (准教授)
浮遊する飛翔体電位上でのラングミューアプローブ測定 
概要:
観測ロケットや衛星の電位は構体の表面に入射する正負荷電粒子の フラックスや表面からの光電子の量によって支配される。 本発表ではまず電離圏高度を飛翔する観測ロケットや衛星電位の変化の 例を紹介し、電位変動の原因について述べる。 いっぽう、飛翔体上でアクティブな実験を行った場合には、この種の要 素で生じる以上の大きな電位変動が起きる場合がある。 例えば、観測ロケットS-520-25号機ではエレクトロダイナミック テザー実験として、伸展した導電テザーとブーム間に100Vオーダーの 高電圧を印加したがこの場合にはロケット電位が大きく変動したことが 確認された。将来計画として検討されているテザー衛星実験でも同様に 大きな衛星電位変動が生じることが予想される。 このように大きく電位が変動する飛翔体上でラングミューア計測を行って も基準電位がプラズマ電位と大きく異なるため、有意なデータを取得する ことが出来ない。我々は、このように大きな電位変動が予想される飛翔体 上で電子温度・電子密度の測定を可能にするプローブの開発を行っている。 本発表では機器開発の現状について紹介を行う。  
6/22 (Fri) 16:30- 5F会議室 山本博基(PD)
博士論文『惑星大気スーパーローテーションの力学に関する研究 ー自転軸対称な理論モデルの構築と数値実験ー』の紹介 
概要:
 惑星大気大循環の1形態である,自転を追い越す向きの惑星規模の高速東西風「スーパーローテーション」の力学を,理想化された自転 軸対称な大気の基礎方程式系をもとに,理論的・数値的に研究した.理論モデルを構築することで,スーパーローテーションの強度と力学 的平衡状態を見積もり,広いパラメータ範囲で,その妥当性を数値実験で確かめた.  基礎方程式系として,自転軸対称なプシネスク流体のプリミティブ方程式系を用いた.放射による加熱・冷却は赤道対称なニュートン加 熱・冷却で与え,非軸対称な擾乱による運動量輸送の東西平均効果は強い水平渦拡散として与えた.このような系では,子午面循環と水平 拡散が角運動量を赤道上空に供給するため,スーパーローテーションが生成・維持される.この機構は,ギーラシメカニズムと呼ばれてい る.  この基礎方程式系に,風速と温位の分布と定常状態を仮定することで,惑星大気大循環を特徴づける4つの無次元量-スーパーローテー ション強度(S),地表付近の南北風速を代表的風速としたロスビー数(RvB),大気上端の南北風速を代表的風速としたロスビー数(RvT),鉛直 平均温位場の極・赤道間温位差の放射対流平衡温位場のそれに対する割合(*:ギリシャ文字の小文字のベータ)-を未知数とした連立4元代数方程式で記述される理論モデ ルを構築した.さらに,この連立方程式から,Sに関する5次方程式を導出し,その唯一の正の解(St)を,スーパーローテーション強度の理 論的見積もりとした.  基礎方程式系を十分な解像度で離散化した数値モデルを用いて,時間発展計算を行い,広いパラメータ範囲で,定常状態の数値解を得た .数値解から計算したスーパーローテーション強度(Sn)を,Stと比較したところ,その相対誤差は50%未満であった.これは外部条件に よってSnが5桁程変化していることに比べて非常に小さく,Stがよい見積もりであることを示している.  
6/15 (Fri) 16:30- 5F会議室 小郷原 一智 (PD)
Dust haze expansion on Mars:Ensemble simulations 
概要:
火星のダストストームの地域性は、多くの先行研究によって明らかにされてい る。Local dust stormは、中・高緯度で、特に極冠といくつかの大規模な地形の 近くで、頻繁に観測されている。また、春と秋に低緯度においても発生する。 Regional dust stormの地域性もMGS/MOC観測によって明らかにされている。 Regional dust stormは、中緯度において、特にAcidalia平原とユートピア平原 で発生する傾向がある。 Ogohara and Satomura(2011)は、数値シミュレー ションによって火星上のダストヘイズ拡大の地域特性を明らかにした。彼らは火 星全土に分布したダストソースから、ダストを独立に注入し、ダストヘイズの広 がりを比較した。ダストヘイズ拡大のために有利な地域は1)Sirenum-Aonia地 域、2)タルシス東側、3)Arabia平原、4)Elysium Mons東側、5)Acidalia平原で あった。しかし、彼らが行ったシミュレーションは単年のシミュレーションで あったため、これらの領域がダストの拡大にとって気候学的にも有利であるかど うかは、明確ではない。したがって、私は微小擾乱を付加した数10種類の初期値 を準備し、それらを初期値としてOgohara and Satomura (2011)と同じシミュ レーションを行った。これにより、5つの地域が統計的にもダストの拡大に有利 であるかどうかを明らかにすることができる。  
6/8 (Fri) 16:30- 5F会議室 佐藤 毅彦 (教授)
地上からの惑星偏光撮像観測 
概要:
大気や雲に覆われた惑星から反射される光の偏光度測定は、その大気 やエアロソルの性質を推定する有用な情報源である。惑星観測に使え る偏光撮像装置は国内にはほとんどないが、東京理科大学の川端潔教 授を中心としたグループは1999年から、京都大学飛騨天文台65cm屈折 望遠鏡用にHOPSと呼ばれる装置を開発した。2011年3月「あかつき」 金星測光の結果が金星雲の長期的変化を示唆していることを受けて、 HOPS装置を用い金星の偏光度を地上から継続的にモニターする必要が あると考えた。本セミナーでは、惑星偏光観測の歴史・HOPSの概要・ 5月7〜10日に飛騨天文台で実施した観測結果のクイックルックを紹介 する。  
6/1 (Fri) 16:30- 5F会議室 山崎 敦 (助教)
SPRINT-A開発の現状 
概要:
来年夏季の打上げを目指して開発中の小型科学衛星一号機SPRINT-Aは この間一次噛合せ試験が終了しました。秋から総合試験に向けて、 搭載機器単体の環境試験に移行します。ここまでの開発状況と今後の 校正試験について報告します。  
5/18 (Fri) 16:30- 5F会議室 宮本 麻由 (M2)
「あかつき」の太陽コロナ電波掩蔽観測による電子密度変動スペクトルの解析 
概要:
 現在太陽周回軌道を航行中の金星探査機「あかつき」は2011年6月6日-7月8日にかけて、 太陽コロナの電波掩蔽観測を行った。これは地上局から見て探査機が太陽の背後へ入出す る際、探査機から送信された電波が太陽コロナを通過し地上局に届くことを利用した観測 で、電波の受信周波数(位相)や強度の時間変化を解析することで太陽風中の電子密度擾乱 や太陽風速度の情報を得ることができる。特に今回の観測では太陽中心から1.5-20.5 Rs(太陽半径)という、これまであまり観測されていない太陽近傍までカバーすることがで きた。また太陽との距離が特に近い6月24-27日には太陽観測衛星「ひので」との同時観 測も行った。電波経路は太陽の北極域を通過したが、この期間中には目立った極域コロナ ホールはなく、ジェットや噴出現象など目立つ現象も見られなかった。  太陽からの距離に応じた周波数変動のパワースペクトルにおいて5.6Rsより外側の周波 数データからは、標準的な太陽風速度を仮定するとおよそ波長10^3-10^6 kmの電子密度擾乱スペクトルが得られ、乱流のKolmogorov則に近い傾きが見られた。 2.3Rsより内側では波長10^3-10^5kmのスペクトルが得られ、ここでは波長およそ10^4 kmを境に短波長側では急峻、長波長側では平坦化という、遠方とは異なる特徴が見られた。  さらにこのパワースペクトルの変動を解析すると1.5-3.5Rsの範囲でおよそ4分周期の変 動が見つかった。この現象はおよそ30分間連続的に現れることが多く、「あかつき」の移動 距離にしておよそ5×10^3kmであり、コロナ中に存在するストリーム状の密度の濃い領域と サイズのオーダーが一致している。  
樋口 武人 (M2)
金星の雲層における対流の数値実験 
概要:
 金星は高度約45-70kmに存在する硫酸の雲に覆われている。過去に行われたVEGAの Balloon観測で、赤道上空高度55 km付近にて対流に伴うと考えられる鉛直風が観測された。 また、電波掩蔽観測により得られた気温分布から雲層中・下部50-55km付近に中立成層があ ることが知られており、対流活動の存在を示唆している。この対流は下層大気からの上向き熱 放射が雲底で吸収されることで生じていると考えられる。Venus Express 探査機搭載Venus Monitoring Cameraの雲頂付近でみられる水平スケールが数100kmにも及ぶセル状の構造も 雲層下部の対流を反映するという説があるが、対流層と雲頂は高度が隔たっているので、関連 は明確でない。  Baker et al.[1998]は、雲層高度での背景密度・温度分布や正味熱流束を仮定して、安定層へ 貫入する対流の2次元の数値実験を行った。しかし、本来は放射輸送によって雲層を出入りする 熱流速を拡散によって表現していることが問題点として挙げられる。金星の雲層における対流の 基本構造を決める要因を理解するためには、より現実的な放射加熱をもとにした対流計算を行う 必要がある。  本研究では、メソスケールの数値気象モデルCReSS[Tsuboki and Sakakibara, 2007]を使って 金星の雲層における対流を計算する。短波放射はBaker et al.[1998]のものと同じであるが、長波 放射は先行研究よりも現実に近い形で与える。そして加熱強制の大きさなどを変化させることで対 流の性質がどのように変化するのか、計算結果をもとに議論を行う。  
5/11 (Fri) 16:30- 5F会議室 安藤 紘基 (D3)
金星大気における重力波の鉛直波数スペクトル 
概要:
Venus Express 電波掩蔽観測で得られた鉛直温度分布から、 波長1.5-15 kmの重力波を抽出し、それの鉛直波数スペクトルを 計算した。また地球気象で構築されてきた飽和理論スペクトルと 比較して、金星大気でも重力波が飽和するか否か調べた。 その結果、高緯度では観測で得られたスペクトルが飽和理論スペクトルに 良く従い、故に重力波が飽和していると思われる。また緯度帯で スペクトル密度の大きさが異なる。これには、雲層中の対流層の厚さや 背景風の高度分布が、緯度によって異なることに起因すると考えられる。  
4/27 (Fri) 16:30- 5F会議室 山本 博基 (PD)
自己紹介 × 研究紹介 〜京大から来た新米ポスドク〜 
概要:
本発表では、自己紹介と併せて、学生時代の研究紹介を行います。 ただし、研究内容に深く入り込むことは避け、発表者がどのような経緯で、 惑星大気に興味を持つようになったかが分かるように、これまでの研究活動を 時系列順で紹介していきます。 学生の方にとっては、本発表が学生時代の過ごし方のひとつの参考になれば幸いです。  
渡邊 歩佳 (M1)
卒業研究紹介(Inflating Skylmion-brane in seven dimensions) 
概要: 物理学で用いられる力は、強い力・弱い力・電磁気力・重力の4つに分けることができる。 この4つの力の大きさを比較すると、重力だけが異常に小さい。この事を階層性問題という。 この問題を解決するためのモデルとしてSkyrmion-braneを用いたものを考える。 今回はその理論的結果を紹介する。
 
榎本 孝之 (M1)
卒業研究の紹介 
概要:
地球大気中のエアロゾルを光学的に計測する機器の一つとしてOPC(Optical Particle Counter)が挙げられる. このような光学機器での散乱の取扱いにおいては,散乱体を球形粒子と仮定して校正を行っているが,実際のエアロゾルのほとんどは非球形である. 球形粒子に直線偏光が入射した場合,散乱光も同じ向きに直線偏光するのに対し,非球形粒子による散乱光は垂直な成分を含むようになる特徴がある. 従来のOPCでは散乱光の偏光まで計測することは出来なかったが,偏光OPC(POPC)では非球形性の指標である偏光解消度を計測することが出来るようになった. 本発表では,形状の分かっている散乱体の偏光解消度の計測と,T-matrix理論による計算との比較を行った結果を紹介する.  
4/20 (Fri) 16:30- 5F会議室 阿部 琢美 (准教授)
電離圏カスプ領域のプラズマイレギュラリティの観測 
概要:
電離圏カスプ領域に顕著な電子密度イレギュラリティの発生メカニズム解明を目指して、 観測ロケット、EISCATレーダー、光学観測機器を中核とするICI-3キャンペーンが2011年 12月に行われた。ICI-3の目的は、1)カスプ領域電子密度擾乱の発生メカニズム解明、 2)密度擾乱発生に対するRFEやpolar cap patchが果たす役割、3) RFEの成因、を解明する ことにある。キーとなる物理パラメータはカスプ領域における電子密度イレギュラリティ、 降下電子、沿磁力線電流、電磁場変動である。これらの測定のためにロケットには、 1)球形固定バイアスプローブ、2)円筒型固定バイアスラングミュアプローブ、3)電界波動 測定器、4) AC/DC磁力計、5)低エネルギー電子計測器、6)姿勢決定システム、の6つの 機器が搭載された。 ロケットは12月3日07:21UTに打上げられ目的通り電離圏カスプの電子密度擾乱域を通過し 電子密度、降下電子スペクトル、電磁場の変動等の直接観測を行った。測定器の中で固定 バイアスプローブは+4Vの電圧を直径2cmの球に印加した時の電子電流から電子密度およ びその擾乱の測定を行うことを目的としている。また、測定器は電子密度にして10の6乗個 /cm-3の範囲をカバーし、さらに高い周波数の電子密度擾乱をピックアップ出来るように バンドパスフィルターをもつAC電流チャンネルを設けている。 本発表では固定バイアスプローブが取得したデータを中心に、これまでの解析から得られた 結果を紹介する。  
小郷原 一智 (PD)
ポスドクがおこがましくも語る数値モデルの基本の「き」 
概要:
数値モデルにあまり馴染みのない方のため、主に大気モデルの力学コアと呼ばれる部分の原理や悩みどころを解説する。 発表は複雑な大気大循環モデルどころか、浅水方程式にすら踏み込まず1次元の移流方程式と拡散方程式に終始する。 予備知識は全く必要としない。正直言って泥臭く、科学的に興奮する内容ではないかもしれないが、研究開発の一助となれば幸いである。  
4/13 (Fri) 16:30- 5F会議室 佐藤 毅彦 (教授)
NIIHAMAプロジェクト 2012-2015 
概要:
木星極域にはH3+イオンの発光によるオーロラが、地上赤外線望遠鏡 で観測することができる。NIIHAMAプロジェクト(Near-Infrared Imager on Hoku keA telescope for Monitoring Auroras)はコンパ クトな赤外線をマウナケア山頂の口径90cm望遠鏡に装着し、木星オー ロラ活動と太陽風の関係などを長期モニターしようとするものである。 これまでの進捗状況と、2012年度から3年間の観測計画・期待される 成果などについて紹介する。  
今村 剛 (准教授)
系外惑星系Gliese 581(論文紹介) 
概要:
赤色矮星Gliese 581は観測により6つの惑星を持つことが報告されており、 これらのうちいくつかは表面に液体の水を持つ'habitable'な惑星である 可能性が指摘されている。これらの惑星の環境をめぐる議論には、惑星形成、 恒星の進化、温室効果、雲物理、大気力学、炭素循環、大気散逸といった、 気候形成に関わるあらゆる話題が集約されている。ここでは惑星大気科学の イントロダクションに代えて、この惑星系を論ずるいくつかの論文を紹介する。