スタッフ出張報告
守備的布陣のAOGS インド
中村 琢磨
サッカー程優れたスポーツはなく、世界中誰もが愛するに値すると思う人は多いかもしれないが、サッカーは退屈なスポーツだと感じる人もまた多い。中村は後者だ。後者の人達の中で最も共感できる理由が、点が入らない、ということだと思う。バスケットボールのように激しく点が積み重なることのないサッカーは、戦術等無知な状態で90分見続けるのは厳しい。ところが、そんなサッカー退屈派の人達も2つに分類される。4年に一度の「あの」大会を見るミーハーな人とそうでない硬派な人だ。中村はもちろん前者だ…。ここ数週間世間に流され、やれメッシやれ本田と、去年まで知らなかった名前を連呼して見てしまった。しかし、今大会はただ見るのではなく、なぜ世界で200カ国以上の国が参加し熱狂するのか、少しでも理解しよう心掛けた。そして得た中村の勝手な解釈としては、なかなか点が入らないシステムがあえて設定されていることで確率通りに事が運ばないところが逆に面白いのだと思う。どの国でもやり方次第で強豪国にも対抗できるので、どの国も国を挙げて熱狂するに値する試合が可能となる。「退屈」さが応援を介して面白さへと変化しているのだと思う。さらに、最後まで勝ち残り優勝する国はなんだかんだ言ってもある程度確率通りになることも大事だと思う。弱い国の国民も強い国の国民も楽しめるし、確率をめぐる戦略を紐解こうとする自称サッカー通も満足できる、巧妙なシステムだ。さらに今大会では、弱い国が勝つためには、「守備的布陣」引いて少しでも相手がゴールする確率を減らして少ない確率の自分達のゴールの奇跡を待つ、という戦略が定石であることを知った。この戦略を成功させると、日本のような弱い国でも善戦でき国中で盛り上がることができる。しかし、この戦略はただでさえ低いゴールの確率をさらに低めるものであるため、当該国民意外の人から「退屈」な試合という感想を持たれてしまうと思う。云々…。
というくだらない文章は、「あの」大会開催中にインドで開かれたAOGSについて、極めて「退屈」な出張報告しか書けそうにないことへの言い訳です…。インドという活気ある強豪国を訪れるに辺り、海外経験や生命力という観点で弱小である中村が「守備的」に走り過ぎた結果、何の事件もない「退屈」な出張になってしまいました。
今回のAOGSはインドのハイデラバードという都市の中の国際会議場で行われました。期間は7月5日(月)から9日(金)までの1週間で6日から最終日まで参加しました。この会議場はハイテックシティというIT関連の企業の集まる地区内に位置し、5つ星ホテルを併設するインドで最も大きい国際会議場です。出発前に多くの人から、インドでの面白い話を期待しているというジョークを受けて怖気づいてしまった中村は、まず会場直結のこのホテルをきっちり予約しました。空港からホテルへの送迎も事前に予約し、無難にホテルに着いた後は、参加全日程をホテルと会場のみで過ごし、食事は火の通ったもののみを食べ、歯磨きをペットボトルのミネラル水で行うのはもちろん、手の消毒スプレーでこまめに消毒する、という徹底ぶりでした。学会開催期間中の夜に行われた「あの」大会の準決勝も、持ち込んだ煎餅を食べながら部屋でひっそりテレビ観戦しました。一緒に参加した海外初経験の学生U君が、空き時間を利用して観光や街へ繰り出すという「シュート」を積極的に打ち、他のホテルへ宿泊していた助教のYさんが、専属ドライバーを見つけツクツクを乗り回すという「スーパーゴール」を決めているのを横目に、ホテルのレストランで無難なチーズピザを食べたりしてひたすら守備を固めていました。結果、最後までシュートを打つことすらできず試合を終え、内容的には負けに等しいスコアドローでした。とはいえ、どんな試合内容であっても負けてはいけないと応援してくれていた家族のみが、頑なな「守備的布陣」で臨んだこの戦いを讃えてくれたので、中村は大満足です。
遺跡を見に行くU君に写真を撮って来てくれと頼んだ、パンフレットに乗っていた
レパクシィという遺跡(左)と、実際にU君がタクシーの運転手に連れて行かれた
レパクシィ(右)。
U君がレパクシィというデパートに連れていかれている頃に、中村がホテルの
レストランンで食べていたチーズピザです。見た目通りの味でした。
そんな過剰なまでの守備的布陣で過ごしたため、中村自身がインドを体感することはできなかったのですが、例えばYさんの話を聞くと、ツクツクの運賃にしても無意味にぼったくろうとするのではなく、学会会場への往復をお願いした場合、行き帰り分だけでなくドライバーが往復する分を考えるとその2倍になるのでその分を請求したりと市民レベルに数学的思考が感じられ、民族の秘めた才能と底力に感嘆しました。カースト制度には言及しませんが、このような国が経済や産業また理学分野で成長するのは必然かな、と思います。
学会の内容としては、日本のKaguya、インドのChandrayan-1など、国際的に多くの国が宇宙開発を前向きに進める中で、火星・木星とこれから計画される惑星探査では国際協力がより生産的に進められそうで、分野の世界的なおそらく前向きな流れが感じられました。この中で、日本の将来それに携わるべき若い世代は他人事と眺めてはいけないのだろうな、と思いつつ、それにふさわしい力・言語力をつけなければそこに入っていく資格はないとも感じ、何か自分に煮え切らない気持ち悪さを残しながらの帰国となりました。また、初めてAOGSに参加してみて、AGU・EGUに屈せずAOGSの存在感を高めることがアジア人として必要なのではないか、とも感じました。仕事としての成果発表の場としてAGU・EGU関連のみに重きを置くことは個人としては無駄なく効率よく世界へアピールできていいと思いますが、一方で、アジア人としては、自分の出身地への誇りの低さを示すことになってしまうのではないかとも思ってしまいます。個人的にがっかりだった選挙も重なったこともあって個人・組織・国と様々な視点で研究活動について考えることができてとてもよい時期に参加できた充実した学会でもありました。これもスコアドローへの言い訳ですが…。