進学を希望する学生へ

● はじめに

このグループが研究対象とする宇宙プラズマは馴染みがないし、目に見えないし、なかなかピンと来ないかもしれない。でも、実はオーロラは地球周辺宇宙空間のプラズマの効果なのですよ、と言うと多くの人が「えっ」と思って興味を持つだろう。目に見えないものが、実は、面白い現象の原因だということは、その仕組みを理解していくうえでいろいろと工夫が要求されるという、研究をしていく上では「楽しい」ハードルが設定されている。宇宙プラズマは「地上の」常識が通用しない世界であるが、だからこそ宇宙空間ならではの魅惑的な現象が展開するわけだし、その物理を理解していく研究作業には、当たり前でないことを当たり前にしていくワクワク感が伴うのだ。

宇宙プラズマとは、要するに、電磁場を感じて運動する荷電粒子が多数いて、それらが動いた結果、宇宙空間において電流密度の空間分布が変化して、それがマクスウエル方程式の項としてあるものだから電磁場の時間発展に影響する。このように「更新されたステージ」の電磁場を感じて、また、荷電粒子の運動が変化し、… を繰り返す系のことだ。ルールは簡単だが、無数の、しかも、イオンと電子という質量が3ケタ以上も異なる粒子種からなること、さらに、これらの粒子がたがいに衝突することなく電磁場を介してのみ相互作用すること、これらのことから、宇宙プラズマの世界には複雑で「地上の常識」が通用しない振る舞いが現れる。

オーロラのムービーを見たことがあるだろう。あれを見て、「この現象を理解するとはどういうことか、400字でまとめよ」と言われたら、どうする?この仮想的な状況設定は、宇宙プラズマの研究現場をうまく喩えていると思う。

根源的ルールは簡単でも出現する振る舞いが複雑な場合、それを理解していく上で重要なことは、ストーリー(ものの見方)を持つということ、それを頭デッカチに信じるのではなく観測データから実証する真摯な態度をとること、その一方で、博物学的詳細に埋もれてしまうのではなくエッセンスを抽出して議論を普遍化する努力を忘れないことが重要である。この研究系では、ストーリーに基づいて将来ミッションを企画し、新しい局面を切り開くようなデータ解析を進める一方で、分野に新しい展開をもたらすデータを取得する観測機器の新規開発を行い、さらに、超大型数値実験も行って普遍的な文脈でも宇宙プラズマのことを考え続けている。そして、「磁場で宇宙を観る」という態度の確立、宇宙のことを考えるときは磁場・プラズマの効果を考えるのが当たり前だよね、という「文化」のレベルまで我々の知見が昇華することが究極目標である。これは、将来、人類がどんどん宇宙進出するようになった時には、宇宙空間の状態は「宇宙天気」という言い方がされるようになっているはずだという問題意識ともリンクする。


さて、具体的な話をしよう。大学院進学、である。院生となれば、上に述べたいずれかの活動とリンクしながら研究生活を送ることになる。

● どこから?

藤本・斎藤は東大院・理学系研究科・地球惑星科学専攻の併任である。また、高島・松岡・篠原は総研大の教員である。というわけで、少なくとも二つの入り口がある。そのほか、専門分野が宇宙・磁気圏プラズマである研究者が在籍する大学院に所属し、その指導教員と相談したうえで、実際にはこのグループで院生生活を送ることも可能である。

● 院試?

受かるためとか、そういう「損得勘定」でなく、ちゃんと勉強して、24時間プラズマのことを考えるための基盤整備をしてください。

● どういう人が向いている?

宇宙好き。このHPを見て興味を持ったひと。子供の頃にラジオを組み立てたひと。計算機好き。ストーリーを考えるのが好きなひと。

● 研究向き・不向き?

ずばり言おう。学部生のみなさんは研究が何であるかを知らない。自分で切り開かなければならない研究作業は、もちろん楽しく、そして、辛く思えることもある。グーグル検索しただけでわかったつもりになったり、やらなければいけないことを得意でないからとサボったり、他人とのコミュニケーションが面倒だと避けたり、近視眼的な損得勘定だけで行動を決定したり、そういう生温い生活とは一線を画すものだ。考え抜いて何かを真に理解した経験があれば、その気持ち良さを知っていれば、たとえ今はサボっていたとしても、研究がもたらす苦しみのあとの楽しみを想像することができるだろう。そして、それは想像以上のものなのだ。誤解を恐れない言い方を敢えてすれば、麻薬だ。また、それら研究上のハードルを突破していく努力は自らを高めるものであり、いずれは「役に立つ」:近視眼的な損得勘定では「損」にしか見えないだろうが。

● どういう生活?

M1は講義・セミナー・研究入門など、弟子入りの段階。M2から研究三昧の生活。大学に比べて周囲に「大人」が多いので、そこでのコミュニケーションをうまく活かせるひとは大きく伸びる可能性が高い。成果が出れば海外で開催される国際学会での発表機会や海外の大学・研究所との研究交流のための短期・中期滞在などもある。


学生生活の一例

ここでは、東京大学大学院理学研究科に所属した場合の生活について説明します。東京大学大学院では卒業単位として通常の講義も含まれているため、宇宙研の学生も東京大学本郷キャンパスでの講義を受講しています。多くの人は修士1年のうちに卒業単位を揃えます。
しかし、本郷と宇宙研の行き来は少し面倒(片道1時間30分)なので、多くの修士1年が、できる限り本郷での講義を特定の曜日に固め、本郷で講義を受ける曜日と、宇宙研で研究をする曜日を分けています。下は、時間割の一例です。

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STPセミナーでは、発表者が自分の研究についてプレゼンテーションを行います。また、 輪読セミナーでは、本研究系に所属するM1が週に一人順番に教科書を読み、その内容を発表します。

宇宙研にいるその他の時間は基本的に研究や勉強をしています。
宇宙研には多くの学生やPD、スタッフの方がいます。修士課程の学生は、最新の研究結果にセミナーなどで触れることができ、研究について有意義なアドバイスを頂けるという、非常に恵まれた環境にあります。

その他、セミナーの後に宇宙研敷地内のグラウンドでフットサルをすることもあります。やはり運動すると心身ともに元気になります。


<執筆: 藤本正樹・富永祐 編集: 富永祐・田中健太郎>