出張レポート

2月投稿分への修正 - 6月 水星探査会議 
藤本 正樹

 

2011年2月のパリ会議は、(MFのキャリアにおいて?)一つの頂点だったのだろう。その後、いくつかの大きな変化(あるいは、問題の顕在化)があったので、前回投稿分は修正しておく必要がある。要は、イケイケという雰囲気ではないのは残念だが、だからと言ってやめてしまうわけではあるまい、だ。

3・11に震災があったことは言うまでもないし、それが日本という国の形を変えるだろうということに比べれば小さい話だが、惑星探査の世界にショックが走ったという意味で、その直前に出されたPlanetary Decadal Survey の内容に触れないわけにはいかない。木星探査EJSM・JEOのコストについて、JPLの見積もりは30億ドル、独立に見積ったら47億ドル、25億ドルまで圧縮する見通しが立てばミッションを実施することを推奨する、というものだった。火星生命探査に関しても同様、とにかく、「夢のビッグ・ミッション」に関しては厳しく、「サイエンティストよ、目を覚ませ。新聞を読め。世界は不況なのだぜ。」というメッセージが濃厚である。

3・11以前から日本の財政はおかしくなってはいたのだが、日本のコミュニティでは、NASA/ESAと肩を並べるべくISASのミッションはより大きくなるのだろう、という感じ方が多かったと思う。しかし、顔を洗って考え直してみれば、これは【科学者】の奢りだったとしか思えない。そういう期待を持ってミッション・コンセプトを持つことはよいことだし、いつもそうすべきだが、その一方で、そうでなければ何もできないという、勝ち目もないのに頑な態度を取るには間違いだ、という意味である。

 

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写真:水星探査会議は、イタリアのリグリア海に面した小さな町で開催された。南欧の海沿いの小さな町を散歩すると、人生の豊かさとは何か、ということを自然と考える。

 

米国連中はどう考えているか。6月の水星探査関連会議で会った奴らは、あっぱれであった。NASAがアップ・ダウンするのを経験するのは初めてではないもんねぇ、とあっけらかんとしている。冷静に考えれば、「夢のミッション」が出来ないだけであって、サイエンスをしっかりやるという規模のミッションは出来るわけである(ここは、腐ってもNASA、というところだ)。夢を追いつつ現実的対応もしておくという当たり前のことであって、「【科学者】は夢を追うひとたちである」と祭り上げられてあげくに落とされて泣く、なんて阿呆なことにはならないのだ。その意味では、ESAは心配だ。

ちなみに、会議でチラ見させてもらったMESSENGERの周回軌道からの観測結果は、おおおっ、というものであった。「水星磁気圏なんて地球に似ている、サイズが小さいから運動論が効いて面白いとか言っているけど、面倒臭いから、それより、これまでやってきた地球磁気圏を続ける」という輩ですら、むむむ、と思うだろう。サイズ効果はヤバいのである。EJSMに比べれば地味なのだろうが、こういうチャンスを捉えて、研究成果を文化の中へと昇華させていく作業にブーストを加え続けていくのだと思う。

木星探査がすぐにできるかどうかはわからない。だからと言って、最近、力を入れつつある外惑星の研究をやめるつもりはない。やったほうが、面白いからだ。SCOPEですら、小型化すればどうなるかを考え始めている。出来るのであれば、そのほうがよいからだ(それに、カナダも不況だ)。ベピ・コロンボとERGは必ず成功させる必要がある。MMSにも積極関与すべきだ。次々とあるからどれか好きなものを、という雰囲気が少し前にはあったように思えるが、それは奢り以外の何物でもなかった。そして、奢れる者は久しからず、である。

編集: 浜田恵美子 2011/07/07