パリ出張記  
村上 豪

 

2012年4月30日から5月18日まで水星探査機搭載機器の開発のためパリ郊外にある研究所へ3週間ほど滞在してきました。ベピ・コロンボ計画は日欧共同で進められている水星探査計画で、2015年に2機の探査機を打ち上げ2022年に水星へ到着させる予定です。そのうち水星表層探査機(MPO)に搭載される紫外線分光器(PHEBUS)はフランスが主導となりロシア・日本などと協力して開発を進めている観測装置で、水星表層大気の成分や分布などを調べるのが目的です。ちなみにPHEBUSとはフランス語でギリシア神話に登場する太陽神(アポロン)のことを指しているそうです。

今回はPHEBUSの中で日本が開発を担当している2種類の装置、極端紫外光(EUV)検出器と遠紫外光(FUV)検出器をフランスが開発する分光器本体に組み込み、動作を確認することが目的でした。我々の検出器はデジカメでいうところのCCD素子にあたり、観測の質を決める非常に重要な部位の一つです。この検出器たちは日本での開発時から数えきれないトラブルに見舞われており(本レポートでは割愛)、改良に改良を重ねてようやくフランスへ送り出されたものです。かと思えば、やっとたどりついたフランスで今度は税関トラブルのため空港で足止めされ…。日本はGW真っ最中だったり時差の都合で日本の業者と連絡が取れなかったりと、危うくパリで3週間待ちぼうけを食らう寸前でした。

関係者の尽力もありようやく検出器が届くと、輸送後の動作チェックを済ませいよいよ分光器本体への組み込み作業です。5月はフランスでも祝日の多い月で多くのメンバーが連休を取る中、PHEBUSの開発リーダーであるジャンリュックと2人きりでの深夜までの作業の末、とうとう分光器を完成させることができました。精神と時の部屋のようなクリーンルームで過ごした10時間(注:下界では152日間に相当)…ジャンリュックとの間には固い絆が生まれた気がします。ありがとうジャンリュック!その後の動作チェックもうまくいき、なんとか自分の役目を果たして帰国の途へつくことができました。

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ちなみに今回完成させたのはPHEBUSの性能評価モデルで、設計や性能は実際に衛星に搭載するフライトモデルとほぼ同等です。性能評価モデルを振動・衝撃・熱真空・電磁場などの様々な環境試験にて評価した後、いよいよ最終型となるフライトモデルの製作に入ります。学部4年生の頃から関わり始めたこの観測装置もようやくゴールが見えてきました。フライトモデルを持ち込む際のパリ出張記では「何のトラブルもなくパリの街を満喫してきました!」と書けるよう祈るばかりです。

今回のパリ出張は3週間と過去最長の海外滞在となりました。晩御飯にはスーパーをよく利用し、買って帰ったサラダや生ハムとともに赤ワインを一杯…というのがお気に入りです(というかほぼ毎日同じメニュー、ただし帰国間近には日本から持ち込んだペヤングが大活躍)。ところで今回の渡仏中には、フランス大統領交代という貴重な瞬間にも立ち会うことができました。日曜日にたまたま凱旋門に出かけていたら、突然周りの人々が歓声を挙げ始め街中の車からもクラクションが…すぐ隣で海外ニュースの生中継まで始まり、危うく記念撮影中のまぬけな日本人の姿が全世界に配信されるところでした。日本の政権交代とは全く異なる空気を肌で感じて物思いつつ、そそくさと次の観光地であるエッフェル塔へと向かいました。

 

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編集:小路 真史 2012/6/18