ヒューストン出張記  
松岡 彩子

 

6月12日から14日の3日間に、NASA ジョンソンスペースセンターにほど近い Universities Space Research Association にある Lunar and Planetary Institute で開かれた Concepts and Approaches for Mars Exploration という会議に出席した。これは、2018年から始まる火星探査に有利な打ち上げウィンドウや更に長期のスパンにおいて、NASA 主導の火星ミッションはどのような探査を行うべきか、研究者や技術者がアイデアや技術開発報告を持ちより、最後に提言をまとめるという趣旨の会議であった。

日本の将来の火星大気散逸観測を検討しているワーキンググループの代表という立場の私は、グループで考えている計画の宣伝をし、アメリカの火星探査計画の動向を知り、国際協力の可能性を探る目的で参加した。一方アメリカの研究者にとってはまさに、自分の計画を直接的にアピールする場である。約390件の講演申し込みがあったそうだが、選別されて実際に発表されたのは半分以下の170件であった。更に、登壇する者しか参加出来ないという制限があり、その代わり発表は全てライブストリームでリアルタイム配信された。149人の参加者のうち141人がアメリカからで、その実に6割が NASA と JPL からだった。アメリカ外からは8人で、内訳は EU 4人、カナダ2人、ロシア 1人、日本 1人だった。

170件もの講演を3日間で行わなければならないので、セッションは探査技術、有人探査、科学目的とミッション構想の3つに分かれて進んだ。一つ一つの講演に割り当てられた時間はきっかり10分で時間厳守、質問は個別にローカルで、議論は別に設けられたディスカッションタイムで行うというスタイルだった。私は普段、英語の口頭講演のスライドの分量は、割り当てられた時間から一枚/分とした枚数を上限としている。同じ計算だと今回は10枚が上限だったのだが、共著の方々に相談しながら準備を進めるうちに13枚になってしまった。内容も盛りだくさんで、どこかで言い淀んだら即、時間オーバーなので、行きの飛行機の中から練習を始めた。あんなに練習したのはおそらく学生の時以来だろう。ちなみに全ての講演はこちら で視聴できる。私の発表は、Science and Mission Concepts Breakout Group の Day 1 Session 2 Part 2 の2番目。

オバマ大統領の2010年の演説「2030年代中頃には火星軌道にアメリカ人を送りこむ」が背景としてあるので、会議全体としては、将来の有人探査に役立つミッション、具体的にはサンプルリターンやピンポイントのランディング技術の話が多かった。資源探査としての地下水の調査の話は、惑星環境科学との接点も多く、純粋に理学的な研究と、人類のフロンティアの拡大活動との関係について考えさせられた。

さて仕事の話ばかりになったが、今回の出張報告は仕事以外についてはほとんど何も書くことがない。というのも、掛け値なしの話、空港とホテルと会議場以外の場所へ行っていない(移動手段が無いので行けなかった)し、海外では良くある小さな問題以外は特に大きなトラブルも無かったためである。時間が無かったので仕方ないが、ホテルから3キロしか離れていないジョンソンスペースセンターのビジターセンターくらいは行ってみたかった。外気温33℃、湿度80%では、時間があっても歩いて行くことは難しく、タクシーを呼んでも来るまでに最低30分はかかる。もしまたここに来る機会があれば、まずは柔軟に移動できる手段をしっかり確保したいと思った。

 

 

picture

 

編集:小路 真史 2012/7/4