EPSC@スペイン出張
木村 智樹
9月23日から28日にかけて、欧州惑星科学会議(EPSC)に出席しました。今回の開催地はスペイン・マドリッド。クラシック音楽愛好家Lv15程度の木村の知識だと、スペインといえば、ロドリーゴ、ファリャ、グラナドスの3人の作曲家くらいしか思いつきません。曲は「カルメン」、「セビリアの理髪師」、「スペイン奇想曲」くらい。その他予備知識は殆ど持たないまま、ガイドブックも持たずに突入したスペインでした。
学会会場。敷地内の端々を動く歩道(手すりが泥だらけ)が結んでいるほど大きい。
学会前半の火曜日に、土星研究の進捗を報告しました。近年注目されている、自転周期磁気圏現象の季節変化についてです。欧州惑星コミュニティの中で木村の影が薄いとはいえ、発表後・セッション後の議論は日本の学会より相対的に多く、MOPer(外惑星磁気圏研究者)の方々には多少認知していただけたかと思います。共著者の気まぐれなフランス人からは、その日に限ってたくさんの宿題が出されました。宇宙研の同僚達はどうかというと、Tさんの招待講演は、土星・木星比較セッション中でもかなりの存在感を示していたし、国際フェローのSやAは、既にコミュニティで主役級の働きでした。それにひきかえると、木村は1歩(2歩、3歩?)以上出遅れている感がありますが、協働しつつなんとか追いつきたいところです。
夕食の1風景。グラーツ、フロリダ、北海道の研究者の方々と一緒に。
奇しくも発表日は、木星・土星関係者には大変に重要な審査が宇宙研で行われていました。2020?30年代に実施される欧州将来木星探査計画JUICEミッションの観測機器開発に対して、日本のチームが主体的に参加するための予算獲得審査です。木村は機器開発者ではありませんが、この審査における提案書において、観測目的であるサイエンス部分の執筆などを少し担当させていただきました。各機器取りまとめの皆様においては、一里塚となる大きな審査だったかと思います。この場を借りて、探査を熱望する外惑星野郎の一人として御礼申し上げます。
木村個人のサイエンス、探査に関わる重要局面、両方が一歩進みました。
ここで仕事が終われば、ガイドブックなしの行き当たりばったり観光が楽しめて、めでたしめでたしだったのですが。実は学会中に、土星とは別件で進めている某米国木星探査機のデータ解析に関して、大きな問題が発覚しました。とある主著論文が受理された翌日のことです。天国から地獄です。観測機器固有の問題を含んでいたので、解決のためには急いで機器開発チームの主責任者(PI)に問い合わせしなくてはなりません。ああ、凡ミスだ、しかも学会中なのに…。と、会場で落胆していたら、PIからこの学会に出席中であるとのメールが。急いで探しだして、直接データを見て貰い、当該問題の確認に必要な情報提供を依頼しました。不幸中の幸いといいますか、海外探査機の機器PIにすぐ会えたのは、国際学会ならではの事象だったかなと思います。
失意の中でしたが、学会最終日に重たい心身を引きずって(しかも大雨!)、マドリッドの市街に繰り出しました。数日限りの観光者には、折からの深刻な経済危機の緊張感はそれほど伝わってきません。むしろ賑やかで歴史あるヨーロッパの街並みです。スペインより僕のほうが不況なんじゃないだろうか…。プラド美術館で、ゴヤの「裸のマハ」と「着衣のマハ」の見透かすような視線に少し心を揺さぶられ、ソフィア王妃芸術センターではピカソの「ゲルニカ」の悲壮感と迫力に圧倒されました。ちょっと元気出ました。絵画愛好家Lv0の木村は、ピカソは「記号化」と「抽象化」を見事にやっていて、数学や物理に共通するものがあるのかなぁ、と素人考えをしました。
プラド美術館外観。アフター6はタダ!
市街地の立ち飲み屋さん。マドリッドは内陸なんだけど、エビなど海鮮系が美味。
とにかくいろいろあった一週間でした。3歩進んだけど、3歩退いたような気分です。しかしこれらを教訓として、自分のLvを1つでも上げることがせめてもの責任かと思います。自分の地球物理学者Lvは今いくつぐらいなんだろうか。
編集:小路 真史 (Lv. 1) 2012/10/12