スタッフ出張報告

2015年6月23日-30日 IUGGプラハ
長谷川 洋

今回のIUGG(International Union of Geodesy and Geophysics)に参加することは三年前にはほぼ決まっていた。 IUGGの一部門IAGA(International Association of Geomagnetism and Aeronomy)の名物セッションであるレポーターレヴューで、 2年前のIAGAと今回の総会の2回をセットとして講演するよう依頼されていたからである。レポーターレヴューセッションでは、 Division III(磁気圏分野)に限っていえば、過去2年間に出版された関連論文を総括し、そのハイライトなどを紹介する。 IAGA部門のみの会合が4年毎に(前回は2013年にメキシコのメリダで)開催され、IUGGの全体会合が4年毎に開催されるので、 2年毎に行われる。各分野の全体の動向をまとめて知ることができる、聴衆にとってはありがたいセッションである。 磁気圏において鍵となる領域や現象である、「磁気圏尾部」、「オーロラの物理」、「超低周波数(ULF)波動」、 「波動粒子相互作用」、「磁気圏界面・境界層」、「大規模ダイナミクス」、「惑星磁気圏」のおのおのの分野の代表者、 計7名が招待講演を行うことになっており、「磁気圏界面・境界層」の代表者として報告するのが今回の出張の目的だった。

 

自分の発表はさておき、今回の学会では10年ぶりくらいにここまで感激するという講演を聴いた。 U.S. Geophysical SurveyのThomas Casadevallによる、「Volcanic Ash and Aviation Safety」と題目のユニオンレクチャーでの講演である。 普段飛行機に乗っているだけでは考えもしないが、火山灰や噴出物が航空便の運行などにどのような影響を与え、 その損害を軽減するためにどのような研究開発を行ったり、対策をとったりしているかという内容。多くの火山は環太平洋帯に分布しているため、 長距離国際線に影響を与えやすいとか、言われてみれば当たり前の内容もあったりしたが、聴衆の五感や頭にすっと入ってくる形でプレゼンテーションが 行われていた。磁気嵐時の通信障害や放射線被ばくを回避・軽減するために、商用航空便が航路を変えることがあるという宇宙天気関連の話は、 我々の分野ではよく聞くが、それの火山バージョンと考えればよいのかもしれない。

 

チェコ共和国を旅行するのは初めてだったが、思ったよりずっとストレスのない出張となった。 プラハの地下鉄は時間通りに数分ごとにやってくるという点では日本と似ていたが、関東圏のラッシュ時のような混雑はない。 物価は西ヨーロッパや日本よりも安く、ランチは五百円から千円で食べられるところが幾つもあった。チェコ人は英語も普通に話してくれるので、 コミュニケーションにも困らない。英語が聞き取れているのに母国語で返してくる、プライドの高いフランス人などとは違う。「チェックプリーズ」 (お勘定お願い)と言ったら、「チェック?」(チェコ語で?)と冗談で切り返してくるレストランのサーバーも。 何よりポスドク時代に数か月滞在したドイツと雰囲気が似ていることもあり、食べ物やビールに愛着を持つことができた。 街並みやホテルの部屋の作りもドイツなどと似ており、時差ボケにもさほど苦しめられることなく快適に過ごすことができた。 あえて不快な点を指摘すれば、タバコを吸っている人が多いことと、観光客があまりにも多く、街を気分よく歩くことができない場所もあることぐらいか。

出張の直前にオーストリアのグラーツでは、2008年の秋葉原通り魔事件にかなり似た無差別殺傷事件が発生した。 現在グラーツで研究している中村琢磨氏はその日はたまたまウィーンに行っていて、家族はみな無事だったとか。 日本に帰ってきてみれば、東海道新幹線で火災死亡事故が発生したり、箱根山で小規模な噴火があったりしたというニュース。 無事に元気に旅を終えられたことを実感し、感謝する出張であった。

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写真1.ミュシャ(チェコ語ではムハと読む)美術館の建物の窓は、彼のリトグラフの一作品がデザインされたものとなっていた。中学生の頃だったか、美術部のイベントとしてミュシャ展を観に行ったことがあり、強い印象が残っていた。プラハにミュシャ美術館があるからには行ってみなければと思った。

 

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写真2.プラハで誕生日を迎えた翌日の金曜日の夜、旧市街のある教会でクラシックのミニコンサートを聴き、その後一人で入ったレストランで食べた豚のスペアリブ。「新世界より」(下校時間になるとかかる、あの曲)のドヴォルザークや、抒情的な「モルダウ」のスメタナがチェコ人だということは、ガイドブックを読んで思い出した。

 

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写真3.レポーターレヴューの発表を終えた後、よく晴れた日曜日の夜、旧市街のあるレストランで。左から、Timo Pitkanen(Umea Univ.)、Maria Hamrin(Umea Univ.)、「ULF波動」についてレポーターレヴュー講演を行ったAndreas Keiling(U.C. Berkeley)の奥さんのバーバラ。

 

編集:浜田恵美子 2015/07/03