スタッフ出張報告
Around the world in three weeks
藤本 正樹
世界一周チケットの旅である(カメラを忘れた。なので画像はなし):
1.成田〜サンフランシスコ〜ワシントンDC
2.ハンツヴィル(アラバマ)〜ワシントンDC
3.アムステルダム〜チューリッヒ〜バンコク
4.台北〜成田(台湾語クイズあり)
●10・22
久し(一ヶ月)ぶりの成田で、なんとなく居心地よく感じている自分に苦笑する。ANA便でサンフランシスコへ。普段はUAのエコノミープラスなので、…う〜ん、狭いじゃあないか。機内で、丸山さんの「科学者9割」を読み、最初のうちは宇宙線→雲なんて話だったのでノリノリだったが、最後は石油枯渇の話になって、ちょっと落ち込む。で、気分転換に「Get Smart」というバカバカしい映画を見る。バカバカしい中にも風刺があり、アン・ハサウエイも出ているということで、機内鑑賞向きというのだろう。そういえば、「プラダ」は機内で5回は見た。また、これまで見た最強の機内映画は「Tokyo Drift」(原作「頭文字D」)だろう。 BARTでバークレイの定宿へ。フロントで顔見知りのRonと大統領選挙の話をする。共和党副大統領候補に関して「不適格もいいとこ、国民をナメやがって。だけど、共和党コア支持層の心情には訴えるものがあるんだよね。」
●10・23
UCバークレイの宇宙科学研究所(SSL)に行く。午前中にかぐやMAP結果紹介のセミナー。ウケまくりだぞ、齋藤。「月面でのプロトン反射」という「新発見」にまつわる「齋藤・藤本vs田中・笠原ネタ」というのがあるのだが、これも、当然、ウケる。一方で、衛星ポテンシャルは?なんて突っ込みも受け、本気の聴衆(Lunar Prospectorデータ解析のJasper Halekasもいたし)の前で話をしたんだという充実感がある。昼食時は質問攻めにあう。
午後はTHEMISデータ解析に関する打ち合わせでUCLAとテレコン、同用件でJim McFaddenと懇談など。こっちが確実につっこんでおきたいことがあるのだが、彼は自分の話をしたがるタイプの人間、対人技術が必要とされる場面。んま、どうってことないんだが。夕食はTai Phanと高級ヴェトナム料理。バークレイで研究できて家族にも恵まれ、「オレは幸せだぁ」だってさ。
●10・24
午前の最初、THEMISのPIであるVassilis Angelopoulosと再びテレコン。どんな話題でも気持ちよく会話ができる人間というのがいるよな、といつも思う。昼は、カレッジ通りにあるミャンマー料理「ナンヤン」へ。ここの焼豚ガーリック・ヌードルは、汁無し麺部門でおそらくは世界最高だと思う。UCB滞在中には必ず一度は行くことにしている。
この日は、THEMISデータ解析・CLUSTERデータ解析に関する意見交換をする。THEMISのMP捕捉のためのトリガーがうまくいっていること、なのでMPでの分布関数4秒値が120個連続で取得されたケースがあることなどを聞き、その中のフロー反転例をTai Phanと一緒に検証する。また、CLUSTERで尾部ジェット中の電磁場のパワースペクトルからホイッスラー乱流の存在を証明した、というようなシブい話もJonathan Eastwoodから聞く。電場は大事だよな。また、御大Bob Linに呼び出され、STEREO衛星搭載高エネルギー観測機器で太陽圏境界からのENAを捉えた話、かぐや結果にヒントを得てSTEREOが月近傍を飛んだ時のデータを見直すこと、この技術をSCOPE・Cross-Scaleと同時にプラズマシート撮像に使えないかという話をする。原理だけを説明しておくと、星間ヘリウム原子がほぼ一様に地球周辺(というか、太陽系)空間を満たすのだが、これのプロトンとの電荷交換反応断面積はプロトンエネルギーが10~25keVのときに顕著なピークがある、つまり、平板なキャンパスにプラズマシートのプロトンの模様が描かれる、ということだ。
夜は、Phan一家と子供連れOKの地元密着パブでチーズバーガーとエール、アイスを食べながらの散歩で〆る。カルフォルニア、晴れた夕暮れ、気持ちのよい気温。こういうことが、年に何度かはあるわけで、自分が幸せかどうかは知らんが、ユニークな人生だとは思う瞬間。
●10・25
移動日。朝5:30にリムジン(と言っても、タクシーより安い。地元情報のお得な話ってやつだ。)に乗って空港へ。機内で、プレゼンのスライドを仕上げ、「勝負脳」本を読む。一部マルトな部分があるが、だいたいは納得。話題になっているこの種のノウハウ本を読むと、なんとなく自分が考えていることが書いてある。その割には、…。
空港でペイリンのアイオワ演説ライヴを見る。よく聞こえないので内容は判断できない(どうせ渡された原稿だろうし)が、なんとなく魅力的に見えることにちょっと驚いた(巻き髪のアップだったこともあるだろう。弱いのだよ。)。昨日のランチ後の遊び時間に、彼女のことをからかったサタデーナイトライヴのヴィデオクリップを散々見せられていたのだ。やはり、支持者に囲まれ堂々としているときに輝くタイプの人間は成功するのだろう。立派な人間かどうかは別。
●10・26
ハンツヴィル在住の岡君と伝統的アメリカを感じる食堂(他の表現を思いつかない)でランチ。打ち合わせのつもりだったが、具体的案件なし。夜、簡単に軽食だけと思いホテルのバーに行くと、会議参加者につかまりビールを飲むことになる。やはり、大統領選の話題。大学のクラスにいる米軍兵士のこと。また、ロシアのグルジア侵攻についてロシア人につっこむ。
●10・27
自分の役割には、国際共同調整、プロジェクトサイエンティスト、科学外交、研究デザイナー、研究者、といった側面があると自覚する(教育は独立事業ではなく、研究デザインの範囲内という認識)。サイエンスの会議でウケるのは、研究デザイナーとして話をするときであることが多い(前二つの役割のときは、会議そのものが建設的な雰囲気になるよう「演技」する部分がある)。今回は、研究者として「素」の話をした。だから、さほどウケないし、それはわかっていたこと。磁気リコネクション領域のある奇妙な振る舞いが(わかってみればずいぶんあっさりと)理解できたので研究者としては満足だが、そこから大きな展開が見えないという意味でデザイナーとしては失敗とも言える。また、研究者として話すスタイルを忘れてしまったかなという部分もある。「XXがわかった」と伝える楽しみは、もはやあまり感じない。「YYが面白い、お前らもやれば?」にビビビ。
BurchのMMSプレゼンからSCOPE/Cross-Scaleのために使える部分をすかさずメモ。その他、NASA/HQのメンバーと(若手が引っ張る日本のコミュニティという雰囲気を演出しながら)懇談。これらは「国際共同調整」役の部分。
●10・29
移動日。会場を昼前に出るが、その直前、Burchに会ってSCOPEをサポートするレターを書いてもらえるように依頼をする。快諾を得る。なんだ、いい奴じゃん。午後4時過ぎにワシントンに到着、5時過ぎにアムステルダムへ出発。7時間後の到着は朝6:30。
●10・30
気温零度。寒いので手袋をする。紺色のはずなのに黒に見える。どうなってんだ? とにかく列車でライデンの定宿へ。部屋をもらって1時間半の仮眠後、今季初めてタートルネックを着て、ESTECへ。
Cross-Scale会議ではESAが新しい打ち上げ案を出してきて、その場合、磁気圏尾部での観測が日陰になる可能性があるのだがそれでもOKか、そもそも、JAXA側がこの同じ軌道にSCOPE編隊を打てるか、という課題について検討しなければいけないことを確認。この時の相談相手はESOCに所属する若手のフランス人だったが、やる気ばりばりという感じで、印象がよい。早速、工学チーフの津田さんに連絡。Cross-Scale会議はいつも検討課題が出てきて、しんどいといえばしんどいのだが、全世界共同という「誰がどう考えても理想的」な枠組みへと、少なくとも、努力していること、絶対に正しいことをしていることを実感できるという意味では、好きな会議だ。それこそかなり意識的に、頑張っているように見える演出をして振舞っているのだが、それが、その場限りの上滑りなものではなく、芯の部分をドライヴすることに繋がっているのだと考えている。いんちきしてでも、とにかくミッションを打てばよいという「おっさん寝技」を出すこともなく、正面から国際共同を謳うことがミッションの最高の形での実現につながることは快適だ。
オランダで面白いのは、カフェのウェイトレスとのアイコンタクトがやたらに長いことだ。コーヒー一杯で、じいいいい〜っと見つめられたりする。今回もギリシャ料理屋で赤ワインのおかわりを頼んだら同じことが起きた。ホテルのチェックアウト時、目がくりくり南アジア系フロント係の子の顔を見ていたら、同じくじいいいい〜っと見つめられた。
また、自転車とクルマ、クルマとクルマのぎりぎりの関係にも毎度どぎまぎさせられる。日本の感覚で言えば、米国は安全側に寄り過ぎで下手糞じゃあという感じだが、オランダは、ほんとうにすれすれで横を抜けたり前を横切ったり、ロータリーで優先側が全くスピードを落とさなかったり。バスもぶいぶい運転で、慣れない頃、ロータリー通過時に車内でこけそうになったことが何度かある。朝寒い中でバス停に立っていると、黒塗りのレトロな自転車で、ジーンズにブーツに手袋にコートの金髪娘が次々と爆走していく様子を目の当たりにする。寒くないの?
●11・2
飛行機経由地であるスイスへの移動を前日に済ませての、完全休養日。朝から科学妄想を全面展開する。で、沸々と来たアイディアをメールで展開するのだが、ノーレスとか、それはXX先生が言っていた(【そこ】と【ここ】の意識レベルの相違まで考えを廻らすことなく、とにかく知識として、XX先生が言っていた、と。オレが大先生【でも】言うような「退屈な」ネタを出すと思うのか。はぁ…。)とかは、悲しい。
若手の知り合いがポジション・ゲット失敗というニュースが連発。Life is a bitch sometimes.
●11・3
移動日。バンコク経由で台北へ。バンコクではブリッジに乗った途端に、ニョクマムの匂い。昔、成田も味噌汁の匂いがしたという。機中で、ケニーとセキヨシタカの論文に手を入れる。
7月末、ケアンズ(オーストラリア)でギトギトのベーコンを食いながら、このままではあかんな(体重が身長マイナス100をやや超えた)と思い減量を開始した。9月頭にロンドンに行った以外は日本(何せSCOPEの提案があったのだ)にいたこともあり、1ヶ月で4.5kg、2ヶ月半で7.5kg落とすことに成功。その意味で今回の3週間は、途中で体重チェックも出来ないし、ドキドキである。飲んでも食べなければOKなど、2ヶ月の経験でつかんでいるし、USではポテトはほとんど残したのだが。朝のホテルでは、縦40回・横左右40回ずつの腹筋、背筋を50回、これをセットとして4セット。だが、有酸素系が足りない。
●11・5
夜、新幹線で台北から台南に到着。アジアな暑さ。汗だくになりながら、半路上店で麺を食い、ドリンク・スタンドでリア・ディゾン似の女の子からレモンティーを買う。
ホテルで、欧州事情に関してあまり具合のよくないメールが入っている。う〜む。そこをどうにかするのが、あんたら世代の仕事じゃんかよ、difficult で終わらせるなよ。
オバマのこれまでの演説ハイライトを編集した番組を見る。自分でなくても構わない、子の世代、あるいは孫の世代で幸せになることを信じて一生懸命に努力してきた普通の人たちよ、 ”That is your story of America.” とやった演説には、改めて鳥肌が立った。
●11・6
「フランク・チェンの」研究所のお披露目研究会に参加。前半のセレモニーで「客席からコメントを」となり、まさかほんとにアドリヴでないよな、だから回ってこねえよなと思っていたら、「んじゃ、次、フジモトさん」とフランク・チェンに指名される。はは。でも、彼とは親しいのでなんとでもなるんだよ。ちなみに彼は学生向けにと中文スライドを使いながら英語で話したので、いろいろと表現を覚えた。
★クイズ:この意味なあ〜んだ?
・太空電漿科学
・世界級的太空電漿科学團隊
・副磁暴
(答えはページの一番下)
★クイズ:意味を述べよ。
宇宙中99%以上的物質是電漿
もうわかりますね。なお、英語では “visible matter”と、ちゃんとダークマターを意識した正しい表現をします。
「黄金20年計画」の話をし、台湾の参加を期待すると煽りまくる。かぐやの月面反射話をMMOに関連して忍び込ませておいたのだが、核融合研究者(「フランク・チェンの」研究所は宇宙プラズマと実験プラズマの二本立てなので、出席者の半分は核融合屋)から、面白い、とあとでしっかり質問をされる。やはり、かなりの発見なのだと再確信する。ITARとかでUSとは国際共同やりにくいと思うか、という質問も受ける。科学者が国際コミュニティとしてプログラム/ロードマップを共有すれば問題は突破できるのではないか、と答える。
レセプションではフランク・チェンのグループで元ISAS・藤川と一緒に粒子観測機器をやっているD院生と隣になって、いろいろ話をする。台北の茶葉店で話した印象でもそうだったが、とにかく、台湾はいろいろと日本にそっくりなようだ。M進学はほとんど全員、そこで就職がメジャーで、D進学は少数、D取得後は就職が困難かも。彼は、粒子観測機器は台湾で他にいないのでチャンスと思った、とのこと。彼とISASの粒子マフィアとは今後もいろいろとあるのだろう。
ホテルに帰りがてら少し散歩するが、汗だくに。で、リア・ディゾンのドリンク・スタンドに行き、別の可愛い女の子にレモン生絞りジュース・加糖なし・Lサイズ=90円也(!!!)を注文。加糖なし?と3回確認された。減量中なんだってば。中国系は緑茶にも加糖する。
●11・7
会議終了後、宴会までの待ち時間に、世界級的副磁暴研究専家MS(5月グラーツでオレをカフェに閉じ込めて推薦書を書かせた、生意気MS)が来年1月からお世話になるハウ先生にご挨拶。Dan Bakerとも合流し、そのまま、彼とは宴会場へのバス〜テーブルでリーダーシップ論など交わす。リーダーは Optimistic であることが第一条件、が彼の持論。また、いろいろとあちらの事情を聞いて、日本の大学における人事権のないリーダーって何なんだ?と改めて思う。国際共同におけるUSの態度にあり方という、怒らせかねない話も突っ込んだが、彼は、言いたいことはわかる、ITARで損をしているのは科学者コミュニティだ、と言った。ブッシュ政権下、NASAとUS科学コミュニティの関係はおかしくなってきており、それを修正するための会議が2週間後にあって、彼が座長とのこと。フランク・チェンは当然、台湾宇宙局の局長(ミヤ〜ォさん、一度聞いたら忘れないね、犬好きでも。)もERG・SCOPEへの強い興味を示したことを彼は目の当たりにしており、US外にもいろいろと面白い動きがあることを知ったことがこの会議を正しい方向へチェアする動機となれば、オレは良い仕事をしたことになるのだろう。お付き合い、という気分で来ただけだったのにチャンスはいろいろと落ちているものだ。国際共同に関しては本気でコミットしているので、いつでもどこでもチャンスが来たら、それをつかむだけ、とも自負する。
●11・8
疲れている。11時まで寝た。日本にいるときは週に一度は10時間寝る。今回、今日まで、機中はもちろんホテルでも細切れにしか寝ていない。昼は、汚い店で旨い蒸海老餃子と小龍包を食う。タクシーで台湾新幹線の駅まで行くと405台湾ドルのところ、いいよいいよ、と400しか受け取らない。香港とは違うと実感。おお、今来た新幹線車中の売り子がとっても愛想が良い。台湾は良いところだ。
★クイズの答え:
・宇宙プラズマ科学
・世界第一級宇宙プラズマ科学研究者集団
・サブストーム(!)