スタッフ出張報告
ロンドン、ツールーズ
藤本 正樹
10年後からの10年間でのESAにおけるミッション(CosmicVision 2015-25)の提案締め切りが6月末にあった(第一次審査結果は今年末に出る予定)。我々の研究系では、SCOPEを国際共同化して最高の形にすべくCross-Scale(2017年打ち上げを狙う)に肩入れするとともに、2020年代における木星総合探査計画にもJAXAが参加し、予算的にも技術的にも厳しい木星探査計画を国際共同で充実させることを狙っている。というわけで、6月前半に提案書の仕上げに向けた会議がそれぞれ一回ずつ開催された。
ロンドン会議はCross-Scale(代表:Steve Schwartz, Imperial College教授, UK)のためのものであった。2004年の10月、SCOPE計画を携えて欧州歴訪し共同ミッションの話をして以来、2年半以上にわたって議論を続けてきたのだが、今回が提案前では最後の会議となる。共同化の話は奇跡的にうまく進み、Cross-Scaleの編隊がMHD・イオンスケールを把握する中、SCOPE編隊が電子スケールをきっちり押さえる、という役割分担がはっきりしたまま議論が進んで、Cross-Scale側のfeasibilityもかなりのレベルで明確にすることができている。
このミッション検討と同時進行してサイエンス的にも、Clusterデータ解析の熟成が進み興味深い結果が出続けたことが、やはり次はCross-Scale/SCOPEしかない、という確信と勇気を与えた。また、共同化に話をきっかけに日本でもClusterデータ解析を行う環境を整え、時間ラグがあったものの、それが実をつけつつあること、そのおかげでTHEMISデータの解析へとスムーズにつなげていけるであろうことも、正しいことをしてきたのだという自信を支えている。また、欧州の解析チームをサポートする形で日本のシミュレーション・チームも活躍しており、ベッピ・コロンボでの共同も含めて、ありとあらゆる形で欧州における日本のプレゼンスは最大化されているであろう。
そして、そのことが共同化を議論する際にプラスのフィードバックをかけていたことは間違いない。特に今回の提案はサイエンス・コミュニティから立ち上げるという形式であることにもよるのであろうが、国際共同のための議論でありながらも政治的なニュアンスはほぼゼロで、同時にサイエンスのアクセルも踏むことが出来た、楽しい2年半であった。
なのだが、リアリストとしては、欧州側の提案が不首尾となってもSCOPEを増強すべく、第二の国際共同の話し合いを開始することを考えている。Cross-Scaleの議論を通じて確認したのは、周囲がどうであれ、とにかく日本はSCOPEを増強して打ち、世界の学界に貢献する、ということなのだ。H2-Aで打つのであれば、それは十分に可能である。
木星探査は多くの宇宙プラズマ研究者の夢である。そして、多くの惑星科学者の夢でもある。しかし、それはたいへんに困難で規模の大きいものであり、日本単独での総合探査ということは現実的ではない。そこへ持ちかけられたのが、ESAの計画への参加である:ベッピ・コロンボでの共同がベースになっていたことは言うまでもない。
最初の会合は欧州側代表のMichel Blanc (CESR, France)との2006年4月EGUにおけるランチミーティングだった。このEGUでは、将来計画を披露するセッションがあり、木星計画もそのひとつだった。その時点では、Cross-Scaleとの競争になるかもしれず微妙な気分でセッションとミーティングに臨んだのであるが、その後、ミッション・クラスや打ち上げ時期が異なることから、両方への参加が論理的にも倫理的にも可能であることがわかり、国内での盛り上げを加速させて議論を進めた。欧州側との議論はほぼ月一回の頻度で続けながら、国内的には、合同大会「JAXAの将来」という招待講演でぶち上げ、WGコアを設立(ISAS:藤本・高嶋、宇宙プラズマ:笠羽(東北大)、大気科学:高橋(東北大)、固体惑星:佐々木(天文台))、WG設立予告をISAS宇宙理学委員会で予告(6月)、WG設立会合を開催(12月)、WG設立(2007年1月)と進めた。
ミッションは木星圏総合探査を行うものであり、(1)生命を宿す潜在的可能性があるエウロパの精査、(2)ガリレオ衛星の精査と木星系形成過程の理解、(3)太陽系最強粒子加速器である木星磁気圏の観測、(4)猛烈な対流と強烈な雷を駆動する木星大気の観測を、3機構成で行うことが計画されている。3機とは、(a)エウロパ周回機、(b)撮像観測に特化した木星周回機、(c)プラズマ「その場」観測に特化した木星周回機である。(b)は寿命が2ヶ月程度しか見込めない(a)のデータ中継機能も担う。そして、JAXAには、(c)を制作・運用し、かつ、場合によっては、(b)と(c)打ち上げることも期待されている。もちろん、全てにわたって日本の研究者が観測機器の提供などを通じて積極参加することが期待されている。
これらを最終調整するのがツールーズ会合であった。欧州側の工学検討担当者が熱心であったこともあり、会合はたいへんスムーズに進み、ミッション・シナリオを構築するに至った。そのため、予定より早く会合が終了し、YTさんはカルカッソンヌに出かけてご機嫌だった(TTは熱を出して寝ていたのでディナーもなし、フランスでこれは最悪。ちなみにYTさんはカオールの赤ワインとともに鴨のコンフィをご賞味)。
どうせミッションの検討をするのであれば、同時にサイエンスのアクセルも踏めないだろうか。私はサイエンスしかできないが、一方で負けず嫌いなので、技術検討だけが進んで自身が糞の役にも立たない立場に置かれることは死んだも同然だと捉える。だから、こういうことを考え、どうにかしようとする。実際、これはスジの良い話で、数値シミュレーションやClusterデータ解析で地球内部磁気圏での電子加速をやっていた若手らが木星のデータ(Galileo)にも手を出しつつあり、太陽系全ての天体における電子加速を考える、という研究構想が生まれつつあるのである。
おまけ:英語でキメるには
私は、この2件に加えて、ベッピ・コロンボという国際共同案件を抱えている。こういう話し合いをうまく進めるコツのようなものはあるのだろうか。自分自身、こういう状況に突入する前は誰も教えてくれず、文字通り、「突入」だったわけだが、何かコツのようなものを掴んだのだろうか。敢えて挙げるとすれば、会議では、
● タイミングを図って、短く発言
だろうか。じっくり考えて、これという考えを良いタイミングで、わかりやすく短く言うということである。いっぱいしゃべって議事を進行させるのは任せておけばよく、また、つまらないことをわかりにくく言うと期待値を下げるので聞いてもらえなくなると思う。
一方、ヨコメシにおいては、
● 話が大きく展開するような質問をする
だろうか。これも、自分で話を展開させようとするとしんどいので、相手をつつきながら話を転がす感覚で、質問(あるいは合いの手)を続けると、楽しいディナーになるように思う。これが通用しないのは相手が堅物で話好きでない場合だが、そもそも、そんな奴とのメシは、タテメシでもしんどい。おおまかに言って、北欧州人は話好きではないね。一方、話好きなんだろうが、どうやっても楽しくならない(なんというか、横柄なんだよね。こっちがどう突いても話が転がることなく、自分の話を続ける)米国人というのがいて、これはキツい。この場合は、半分だけ聞いておいてワインを飲もう。無理して親しくしようとすることはない、そんな奴とどうせ親しくなれないんだから。