スタッフ出張報告
イタリアにて想う
藤本 正樹
今回のイタリア・ペルージャでのIUGGのオーガニゼーションは最悪だった。数千人規模のこの会議を担うだけの能力が、そもそも街にない。小さな街なのでホテルは足りなく、夜にはタクシーでしか帰られない場所のも参加者にあてがわれたが、そのタクシーは28台しかなく、8時開始の食事が終わる夜11時にはタクシー・スタンドは1時間待ちとなる(レストランの数もあぶないところだったが、学者先生の多くは食事に構わないので助かったか?)。また、会議の事前準備もLOCの規模を上回る仕事量に対応出来ず、HPは未完のまま、コンビーナが事前に送った情報もどこかで消えてしまい、当日会場に行かなければその日のスケジュールがわからないという状況であった。ホテルに話を戻すと、会議HPからはわかるのは宿泊料金だけ、ホテルの名前も場所もわからずに予約、かつ、キャンセルは出来ないというシステムに、特に米国からの参加者からは「有り得ない」という反応であった。これらのことを、藤本はコンビーナとLOCの間に立つ立場であったのでよく知ることになり、また、自身も不満まんまんでイタリアに降り立ったのだった。
なんだけど、会議は大きな問題もなく進む。楽しい雰囲気ですらある。HP上で、事前に全てのことがわかっていて、効率的にその予定通りに物事が進むことを当然視するのが正しいのか、いやいや、それって強迫観念的で、それで楽しいのかと改めて想うのだった。
もちろん、細かい問題はいろいろとある。そうなると、学生バイトが懸命に、効率的とは決して言えないが、一生懸命にやってくれるのである。イタリアでの問題解決の基本は、問題が起こらないようにいちいち細かく準備するのではなく、問題が起きたらそこにいる人間が出来るだけのことをやって解決するということのようである。なので、会場が準備したコーヒーが足りなくなったら、会場係のバイトが自腹で自販機のエスプレッソを学会参加者に振舞うなんてことが起きる。ホテルの場所がわからず途方に暮れている(その原因はHPにある地図が間違っていたわけなんだが)阿呆なジャポネーゼがいたらクルマに乗せて連れて行ってくれる。初日の夜12時近く、タクシー・スタンドというものがあるとは知らず、道でタクシーを拾えずに困って通りかかった(婦警で満載の!)パトカーに頼んだら、あっさりと無線でタクシーをその場所へと誘導してくれる。そして、想像に難くなく、電車はいつも少し遅れる。でも、何か問題あるわけ?(あるけど)いちいち気にするほうが、旅を楽しくしなくするだけだろ?
イタリア滞在中、一日に一食は二皿以上注文するそれなりの食事をしていたのだが、その一皿目に注文することの多いパスタ(ポルチーニや黒トリュフがからんだ生麺)のうまさだって、「うまければいいじゃん」的なうまさだと思う。うまいことが大事なんじゃあないのか?おっさんが「おらよっ」って料理して持ってきて、うまい。基本だろ。 で、唐突だが、研究、特に宇宙科学の研究の極意は、うまいパスタをつくるのと同じなんだと思えてきた。違うだろ、巨大プロジェクトなのだから、きっちりと管理して、X△ して○$して、…。はいはい、その通りです、でも、それだけで楽しいですか? … これ以上、HPで議論を展開するつもりはありません。イタリア・スタイルで、対面してワインでも飲みながら話をしましょう。ただ最後に、イタリア(あるいはヨーロッパ一般)のように日常の街角で歴史の流れを意識させられて生活していると、そんなに目先のことでこちょこちょキチキチばかりしていないで、大きな流れも意識しようよね、なんて感覚を当然のように身に付けるのだろうな、と思ったことを付け加えておこう。
付録:ローマはこわいか?
悪名高いローマ・テルミニ駅は警官が多く、スリ集団らしきものもいなかった。もちろん、出稼ぎ外国人が多く、普通の人には居心地が悪い雰囲気だろうけども。というわけで、怖がることもなかったなと想いながら出国搭乗手続きで並んでいると、手続きをしていた米国の六十台らしき夫婦が、ええっ、鞄がひとつない、とか叫んでいる。列はファースト・クラス用で、金持ち風の夫婦は、5個ほどの鞄を手押し車に積んで空港内を移動していたらしいが、そのうちのひとつがなくなったらしい。貴重品入れではないらしく、旦那は落ち着いていたが、奥方は、This is insane! とか叫んでいる。窓口は、どうしようもないな、という感じで、さらに、後ろにいたやはり六十台ぐらいのイタリア人ビジネスマンは、ちょっとどいてくれるぅ?という感じで、自分の手続きを始めさせた。別の米国人家族から聞いた話では、巨大スーツケース2個を、巨大だし重いし貴重品はないということで列車の客室部ではなく荷物置き場に置いておいたら、あっさり二つとも持って行かれた。実際、列車内では、みんな、大きくて重い荷物をよいしょよいしょと運んできて、よっこらしょと頭上に収納する。
イタリア旅行では、鞄は二つまで、それも、いつも身に付けるようにしましょう。