スタッフ出張報告

世界磁気圏学界大物点描
藤本 正樹

 

ISSIフォーラム | プレゼン概要 | 大物点描 | 偶然


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(さすがの藤本も、笑顔がひきつり気味。)

● ISSIフォーラム「磁気圏物理の将来」

今回は、スイス・国際宇宙科学研究所(ISSI)でのフォーラム「磁気圏物理の将来」出席である。大物が集い将来を議論する。SCOPEチーム最年長である藤本(44)が、このフォーラムの最年少なのだ。

先週は台湾で小物・風間らとバカ話をしていた。「リア・ディゾンの店って、どこっすか?」と風間が聞いてきたり、「おっさんになったので若者の話がつまらん」と言ったら、「それって、最初はキャバクラで満足しているけど、やっぱり、銀座のホステスでなければという、あれっすか?」という会話があったり。あれってどれだ、風間?

その台湾ツアーに比較して、事前の緊張感がなんとも高いこと。座長はパッシュマン。5人が20分プレゼンをし、それをツマミにがやがやと二日間にわたって議論をするのだが、藤本以外の4人は、シュワルツ、バーチ、ゼリョーニ、マルクランド。パッシュマンはオレの歳を勘違いしてねぇか?さらに、「お前のテーマは磁気圏システムね、んま、てきと〜だけどさ」というお題も戴いている。むむむ、システム…。

さらにさらに、この会合には、「オレがいなければ何も出来ないだろ、お前ら」という雰囲気ありありのGHや、人を小馬鹿にすることしか考えていないとしか思えないDSも参加すると聞く。おそらくは「磁気圏物理でやることなんかねえよ。あっても、お前らには出来ねえよ。」と言ってくるだろうから、対策し対決し突破せよ、というDistant Early Warning(これを書いている時点では北朝鮮ロケット問題が悪化しているので、洒落になっていない)を元指導教官や欧州の先輩から聞いたうえで、プレゼンの仕込みをすることになる。と言っても、なかなか手が動かない。一旦動かしてしまうと、それに引き摺られてしまう。こういう話では、それまでにあれこれ考えることに時間をかけるべきだと思う。かと言って、時間がそれほどあるわけでもない。むむむ。

実際の会合では、GHも卓袱台返しをすることもなく、DSは「死んでおり」、会合では、「プラズマ宇宙」こそが次世代の問題意識だ、という結論に至り(それって、5年前にオレらが言い出した頃は笑って相手にしなかったくせに…、まあ、いいか。)、やれやれだった。

 

「過去50年は何が起きているかを知る段階にあったが、これからは仕組み・物理を定量的に理解し、より普遍的な枠組みへの貢献をしていく段階である。」

 

後日公式に出されるが、会合のレゾリューションはこのようなものになるであろう。いずれにしても、これまでやってきたことをこれからもという安易な態度は許されない。チャレンジする者だけが許される。

さて、無事に終わったということで、ここでは、プレゼン概観と、コーヒー休憩や食事時間に垣間見た大物の人物像を紹介したい。

 

● プレゼン概要

プレゼンでは、「お題:磁気圏システム」ということだったので、「黄金20年計画」に触れ、SCOPE(地球)・MMO(水星)・JMO(木星)とやることのサイエンス背景を訴えるという作戦とした。

(1)SCOPEで「次世代編隊観測=同時マルチ・スケール観測」を実施し、「プラズマ宇宙観」固める上での実証的基盤を築く。

(2)その上で水星・木星を考えると、統一的視座は「スケール」を意識することで与えられる。水星はミニチュア、木星は巨大、それで、地球は実にちょうどよいスケール関係になっている。

(3)もちろん、それだけではなく、それぞれの状況が作り出す興味深い舞台設定を物理として抽象化して捉えると、別の軸を設定することが可能である。

(4a)水星では、プラズマと固体表面が直接接触していること、これに関する全く新しい知見が「かぐや」から得られており勇気付けられつつあること、このような状況設定は究めて普遍的であること、がひとつのポイントである。

(4b)木星では、バイナリ・テーマ。特にEJSMでは、エウロパ/ガニメデ周回機(それぞれ、JEO=NASA/JGO=ESA)がローカルなプラズマ環境を計測する中、JMO(JAXA)が磁気圏ダイナミクスを把握するが、JMO+JEO・JGOはSWモニター+磁気圏衛星に喩えられること。つまり、これはガス惑星衛星系の宇宙天気問題であり、この天体システムがハビタビリティという視点から注目されるだろうこと、そこでは放射線環境が問題と成り得ることを考えれば、20年後以降の新しい研究の地平線を切り開くものだろう。

(5)木星ミッションでは、太陽系の起源も課題となる。原始惑星系円盤において、ダスト〜微惑星〜原始惑星〜惑星と成長する過程において最大の難問である「微惑星形成問題」も、円盤ガスにおける磁場効果を考えること(具体的には、磁気回転性不安的の非一様成長によるガス回転速度プロファイルの大変形:東工大の加藤さんによる)で解決するかもしれない。ここでは、磁気圏において得た知識を直接応用するわけでなないが、磁場が絡むダイナミックな現象に我々が興味を持つ(英語でcare)こと、磁場のことなら何でも考えてやるという「文化」(「不倫は文化だ」と同じニュアンス)を我々が持っていることも強く意識すべきである。

(6)「黄金20」は、これそのものが実施すべき目標であると同時に、研究分野の遷移を駆動する仕掛けでもある。

(4b)に勝負をかけたつもりだったが、反応はなかった。ううむ、時代の先を行き過ぎているのか。たぶんそうだ。(5)に関しては、これも勝負手だったのだが、LZがやたらとニコニコして聞いており、かつ、そうだそうだという旨のコメントをしてくれた。SSも、「文化」の議論は大事だ、というコメントをした。わかる奴はわかるものだ。一方、日本学士院会員ANからは、もうちょっときちんとした話をしなさいと(いつものように)辛口コメント(一方で、こういう話が日本から出るようになったことはよい、これもGTの成果だ、とも)。いや、そういう側面も必要だという理解はあって、実際の作業にも入りつつあり、反省しないということではないのですが、これはこれで狙ったスタイルなんです。同じ意味において、US勢には評価されにくい内容だっただろう。

 

● 大物点描

GPは元マックスプランクのたいへんに真面目な人で、その真面目さには圧迫的な印象を持っていた。ただ、バークレイの盟友TPを通じて知り合いでもあり、また、藤本が10年以上も以前にミュンヘンに短期滞在した時にもなんとなく声を掛けてもらったりして、GPがこちらに好意を持っていることもなんとなくは感じていた。それでも圧迫感のほうが強かった。今回、食事会のテーブルで一緒になった。よくしゃべるしゃべる。辛口ではあるが面白く、断言調ではあるが反発を誘発する感じでもなく、「ビートたけし」なのねという印象を持った。にっこりしたりしないが、だからと言って不機嫌だったりつまらないと思っているわけでもないというタイプなのだ。会議の翌日もカナダ勢との打ち合わせで研究所に顔を出してばったり会ったときも、おお、まだいたのか、とか声を掛けてもらったりした。また、会議の取りまとめ手法も、話をさせるだけさせておいて、「お、時間に限りがあるし」と事前シナリオにもっていくあたりは、さすが欧州本場で仕切ってきただけのことはある。

BHは超80歳だが、過去のISSIのワークショップで会っているし、IAGAでの「同僚」もあるので、顔見知りである。BHはスウエーデン学界のベースアップを実現した人である。60年代当時、スウエーデンの観測機器がESAのミッションに搭載されることは、経験不足ということから、なかった。でも、それではいつまでもチャンスがない。BHは、ソ連(当時)に飛び、機会を作り出してベースアップをし、ついにはソ連・火星ミッションへの参加も成し遂げるとともに、ナショナルプログラムの立ち上げと充実(VIKINGなど)も果たしたのだ。ランチでいっしょだったので当時の話を聞いた。「ソ連には50回ほど行ったが、一度として楽しかったことはない。」ソ連の友人と外国人ホテルで食事をしていても、食事相手が周囲をものすごく警戒する様がほんとうにいやだったらしい。それでもなすべきことのために…、という、重い発言だ。学ぶべきことは多い。

JBはUS粒子観測機器開発分野での超大物である。SCOPE提案時にMMSチームからの推薦書で世話になっているし、たまたま隣に座ったので、ツッコんだ質問をしてみた。「あんた、新しい観測機器のデザインはどうやって思いつくんや?」答えは、「そもそも課題が意識されていなければならない。だから、研究論文を書くことがいちばん大事なのだ。齋藤は実験室にいることを楽しみすぎていて、ちょっとアブナイな。」会合では、アウトプットとしてレゾリューションを出すのだが、誰か、書きたい奴は原稿を書いてよ、という話になった。JBは猛然と書き始めた。必ずしも気の利いたことを書くわけではないのだが、きちんと全てを網羅して形にすることへの意識、マネージャーとはそうあるべきものという自負を感じた。また、プレゼン内容も観測機器開発屋ならではといったものであり、「スケール間結合、あ、ま、理論屋が大事と言っているらしいから…」なんてことは全くなく、観測機器屋からの視線できちんと新しい物理へと取り組むこと、観測からこその突破をしてやるという意識を真の意味で持っていることがわかるのだ。教条主義的に「観測をしなければわかりませんね」と言っているのとは、全く迫力が違うのである。

LANLのMTは、ちょっとしんどいな、という真面目さを感じさせる研究者であり、正直言って、これまで避けてきた。でも最近は意識的に、例えば、昨年AGUでは生意気MSとの二人ディナーに挑戦するなど、地平線を広げるチャレンジをすることにしている。今回は、全体食事会からホテルへの帰り道、「宇宙天気をいかにポジティヴに捉えるべきか」という話題での挑戦をした。相手のレスがだんだんよくなることが実感できて、経験値を上げることができた。

ツールーズの大物JASからは、将来ミッションにおけるイオン質量分析における協力可能性についての議論を受けた。以前はSolOにおいて…ということだったので、その話はなし、と言ったら、いやいや、そうではなくて、と、ロードマップ的に開発を進めたい、必ずしもどのミッションのためということではなく、やるべきことをやるプログラムを組んで、それをベッピで開始した日仏連合で進めていけないか、ということ。こういう魅力的な提案を受けることになったのも、GTで世界最前線に出て、ベッピで日欧連合ができ、そこで満足することなく、それを資産として活用すべく先を見据え、日本STPコミュニティがロードマップ的に考えていることをどんどん表明してきたことの効果ではないだろうか。

学士院メンバーであられるAN先生と藤本の二人が日本からの参加者である。ちなみに、このHPも読んでいただいているそうだ。会議終了後、二人でディナーとなった。二人でというのは、20年前、藤本がD院生だったISASでのある日、「夕食でも?」「いや」とお断り(!!!:弁当を買ってあったとかのセコい理由だったと思う)して以来のチャンスである。

評判のよいブラッスリーにきちんと予約を入れ、食前はドライ・シェリーで始めて、フレンチスタイルの料理、という楽しいお食事会であった。藤本は、いろいろとめんどくせ〜よ、と立場にまつわる愚痴気味発言をしていたように記憶するが、それでも、やるべきことをやれば的・細かいことはどうでもいいじゃん的なレスをいただいたので、テーブルが湿ることがなかった。事後に「XXすべきだったのに、ダメじゃん」という「指摘スタイル」ではなく、これからのことを、その場で一緒になって考えていただいている(本当は、アホらしいけどお付き合い、ということかもしれないのだが…)スタイルで、ああだこうだとお話しできることは、こちらとしてはたいへんにありがたい。

LZ,BJ,HO,MHもディレクタ・クラスの大物なのだが、接触機会が多いので友達感覚である。LZは理論屋で、もともと感覚的に「わかる」部分が多かったのだが、今回、「文化談義」を理解してくれたのでますます親近感が強まった。でもモスクワへ招待するのは、やめて欲しい、一回行ったからもういいです。MHも、DCに来たら時間を作ってチェザピーク湾をマイ・ヨットで流そうぜ、と何度も言ってくる。泳ぎなら、苦手だ。

ISASに来て3年、シブい局面をいろいろ経験してきだ。そこでの経験から、目を見れば相手が好意的かどうかを判断できるようになってきたと思う(いろいろと応用できるはずです、ふふふ)。MTへのチャンレンジでも、最初は、お付き合いという目の感じが、だんだん、きちんとメッセージ交換をしようとする目の色に変化していくのがわかり、よい経験となった。その意味で、GHとDSとは、会話をする気になれなかった。視線が絡む感じがまったくしないのである。特に、DSは内紛を抱えて心労があるせいか、目が死んでいた。しかし今後は、ここもチャレンジしていかなければいけないのだろう。実際、お偉方とカネの話をしていく際には、そういう「目」と対峙していかなければならない。

 

● 偶然

機中ではサイモン・シン「宇宙創成」(新潮文庫)を読んだ。この中で相対論の誕生が出てくるが、Einsteinが特殊相対論を書き上げたのはISSIのあるベルンにおいてである。2009年は磁気圏物理50周年記念であるが、これは定常宇宙論者であったGold が1959年に初めてMagnetosphereという言葉を使ったことによる。なおGoldは、シン本の中では性格が悪いように記述されている。