磁気圏尾部観測衛星「GEOTAIL」
地球の尾っぽのプラズマ科学探査「GEOTAIL」
第一線の研究者の声
Geotail衛星とのめぐり逢い
堀 智昭
私がGeotail衛星のことを初めて知ったのは、1994年の夏頃だったと記憶しています。当時私は研究室に配属されて数か月の大学4年生。打ち上げより2年経ち、研究環境の整備ができつつあったGeotailのデータを使った研究が、私の卒業研究のテーマとして与えられたのでした。 その時点での私は宇宙科学に対する一般的な知識はあっても、専門的な知識はまだまだ勉強し始めたという段階でした。ましてや宇宙プラズマの研究の最前線などに触れたことなどあるわけもなく、Geotail衛星のデータを通して見える地球磁気圏(地球周辺の宇宙空間のうち地球磁場の勢力圏内になっている領域)の姿が、私にとっての宇宙プラズマ物理の“生きた教科書”となっていったのでした。
その時から現在まで約14年。その間にGeotailによってもたされた科学的成果は宇宙プラズマ物理、磁気圏物理の中でも多岐にわたり、その中には世界の研究者から注目を浴びる重要な発見もいろいろありました。その研究の一端を担えたことは、その後研究者の道を歩むことになった私にとって1つの誇りであり、かつ、かけがえのない財産でもあります。
そうして得た財産には宇宙空間でのプラズマの振る舞いに関する具体的な知識だけでなく、研究者としての重要な経験も含まれています。その1つは、磁気圏遠尾部という未知の領域の情報がどんどん手元に入ってくることのおもしろさを体験したことでした。当時は過去に米国の衛星によるフライバイが数回あった程度で、その非常に限られた観測に基づいた研究から得られた磁気圏遠尾部の概念図がありました。その概念図と、日々Geotailより送られてくるデータ、及びそれを解析した結果と比較すると、少しずつ両者の違いが見えてきます。既存の概念とは異なる、新しいものを発見するということのおもしろさを味わった瞬間でした。それと同時に、実際に“その場”で行うプラズマと電磁場の直接観測というものが(宇宙プラズマ物理の進歩に対して)どれほど多くの可能性を秘めていることなのかを、実感させられました。この時の経験が、常に観測の最前線で宇宙を眺めていたいという、現在の自分の研究姿勢のようなものにつながっています。
そしてもう1つ、それは世界の研究者が自分の研究に注目してくれるということの快感(笑。今思えば拙い英語で要領を得ない発表をしていたと思うのですが、それでも名だたる一流の研究者たちが自分の話を真剣に聞いてくれました。Geotailに携わったおかげで、いわゆる「研究者冥利に尽きる」という感覚を味わわせてもらったと思っています。その時の気持ちが、全てではないにしても、現在でも研究に対するモチベーションの一部になっているということを否定できません。
そんなGeotailは打ち上げから16年経った今でも現役。磁気圏の重要なデータを毎日送り届けてくれています。この衛星を通じて多くのことを学び、感じて、これからも多くの研究者が育っていくことを期待してやみません。