磁気圏尾部観測衛星「GEOTAIL」

地球の尾っぽのプラズマ科学探査「GEOTAIL」

第一線の研究者の声

GEOTAILの日陰オベレーション

向井 利典

1993年9月1日深夜の相模原慣性センターは一種異様な雰囲気に包まれていた。臼田、内之浦にもGEOTAIL衛星や地上系システムを熟知した宇宙研およびメーカーのベテランが駆けつけ、万全の体制である。衛星はまもなく、初めての日陰(但し、近地球周回衛星と違って月の影)に入るが、異様な雰囲気はそれが理由ではない。本影最後の所でバッテリーを切り離すことによって衛星電源を瞬断させるという特別オペをこれから真にやらんとしているためである。約一年前の初期観測ですばらしいデータを出した直後にラッチアップを起こしたままになっているプラズマ観測装置を復帰させるには、これが唯一の可能な方法であるというのがその検討ワーキング・グループの結論であった。この1年間できる限りの検討をしてきたとはいえ、未経験のオペレーションである。

23時35分半影開始、23時43分いよいよ本影に突入。コマンド送信、チェック・シートによる衛星状態の監視は予め決められた手順にしたがって順調に進んでいる。0時17分、バッテリーを切り離し、ついに電波が途絶える。臼田に管制権をわたし、内之浦からの経過時間のアナウンスが指令電話を通して聞こえてくるだけである。約10分後、太陽電池からの出力上昇に伴って電波が復帰、更に数分おいて安定してきたところでコマンドを送信、PCMテレメーターがロック。衛星の状態をチェック、目的としていたラッチアップが解消できたことを確認。「ほっ」。直ちに予定の衛星再立ち上げ手順に入る。

翌日から本格的に搭載機器の再立ち上げ作業が始まり、プログラムの再ロード等のために約2週間を要したが、その最後として9月14日、プラズマ観測装置の一年ぶりのデータを再び目にした途端に一挙に疲労の極に達してしまった。GEOTAILは、1992年7月24日に打ち上げられて依頼、順調に飛行を続けており磁気圏尾部領域のプラズマと構造に関して新しい知見を得てきた。プラズマ観測装置は日米双方のものが2セット搭載されているために衛星全体のミッション目的は達成されつつあったとはいえ、これで本当に全観測装置が出そろうことになった。翌15日、予定通りの軌道制御を終えて、管制室は再びもとの静けさを取り戻した。

1993年9月1日のオペレーションのためにご協力いただいた関係各方面の方々にあらためて感謝する次第である。

(編集: 三津山和朗)