磁気圏尾部観測衛星「GEOTAIL」

地球の尾っぽのプラズマ科学探査「GEOTAIL」

第一線の研究者の声

GEOTAIL計画の構想から20年

西田 篤弘

1992年に打ち上げられたGEOTAIL衛星は現在も磁気圏物理学の分野で大活躍している。GEOTAIL計画は宇宙研とNASAがほぼ同規模の予算を投入した大型の国際協力プロジェクトであるが、今年2003年はこの計画の構想がまとまった1983年からちょうど20年目に当たる。

磁気圏の構造や活動を支配するのは太陽風である。1978年頃から地球周辺の宇宙空間に衛星ネットワークを張って磁気圏物理の研究を前進させようという気運が高まり、アメリカの研究者を中心にOPEN計画の立案が始められた。OPENはOrigin of Plasmas in the Earth’s Neighborhoodの略である。私も企画委員会のメンバーであったが、立案に参加しているうちに宇宙研も同じ時期に科学衛星を打ち上げてこの計画に自主的な立場から参加すべきだと思うようになった。理由の一つは原案では磁気圏の主要な領域が十分にカバーされず、重要な問題を解く鍵が得られない恐れがあるということであり、もう一つは宇宙研がNASAのOPENと対等に取り組む力を獲得しつつあるということであった。ハレー彗星探査計画が走り出し、ロケット、衛星、通信等さまざまな面で飛躍的に発展しつつあった時期である。

重要な問題とは磁気圏尾部で起きる磁力線リコネクションのことである。磁力線リコネクションは磁場に蓄えられたエネルギーを開放してプラズマを加速する過程で、磁気圏ダイナミックスの要の役割を果たすメカニズムである。それにも拘らずOPENの原案にはリコネクションが爆発的に発生する地球から20ないし30 Re (Reは地球の半径)の尾部領域を観測できる衛星が含まれていなかった。そこで宇宙観測専門委員会のもとにOPEN-J研究班を設け、20 x 7 Re, i =0° 軌道での実験計画を作った(1980年、1981年に改定)。輸送系の先生方には当時開発中のM−3SIIに新規のKM−Pを加えて20 Re x 1,000 km、i = 0°の軌道に170 kgを投入する案をベースに、衛星重量を250 kgに増すことに向けて検討をお願いしていた。

ところが1983年始めにNASAのOPEN担当者からOPEN衛星の一つであるEMLをOPEN-Jに置き換えてスペース・シャトルで打ち上げるという提案がもたらされた。NASAがスペース・シャトルで打ち上げるというのであればロケット開発経費が節約できるだけでなく衛星を大型化することができる。しかしEMLは放射線帯観測を主目的とする衛星であって高度も数Re程度でしかなく、OPEN-Jの目的を果たすことはできない。5月に來所したOPEN担当者代表はこの不整合に弾力的に対応し、EMLでなくGTL(磁気圏尾部の遠隔領域を探査する衛星)と置き換えることも考慮することを約束した。その背景にはOPEN提案がNASAで行き詰まっていたということがある。彼等は4基の衛星を打ち上げる計画を作っていたのであるが、これには約800億円を要するため、OSSA(科学・応用部)部長から国際協力によって経費を分散することがOPEN計画実現のための必要条件だと告げられていたのである。OPEN代表は9月に再び来所し、GTLとOPEN-Jを統合して新たな衛星計画をつくること、この衛星の軌道は2段階に分け、最初はGTL的な遠隔尾部観測衛星とし、その後軌道を低くしてOPEN-J的な近尾部観測を行うことで合意した。こうしてGEOTAIL計画が生まれたのである。同時にOPEN計画は再編成されてISTP(International Solar Terrestrial Physics)計画となり、ESAも参加した。

この動きには更に深い背景もあった。宇宙開発における国際協力が1982年のヴェルサイユ・サミットで取り上げられ1983年のウイリアムスバーグ・サミットで報告が行われることになっていたが、具体案の策定にあたるワーキング・グループの一つとして太陽地球系科学を含む太陽系探査WGが作られていた。国際政治の桧舞台まで借りて大きな仕掛けを拵えた策士がいたようである。

GEOTAIL計画が日米共同計画として滑り出したばかりの1987年にChallenger事故がおき、打上がシャトルからデルタIIロケットに変更された。不測の事態であったが発足直後だったために大きな支障もなく計画を改定することができた。発足時には予想できなかった難題は協力協定の「損害賠償請求権相互放棄」条項で日米両政府が真っ向から対立したことである。GEOTAIL計画だけでなくこれに続くSFU計画でも文部省に多大のご苦労をおかけした案件だったので、本年度から発足する宇宙航空研究開発機構の業務方法書(案)に「宇宙の開発および利用に関する条約その他の国際約束をわが国が誠実に履行するために機構が講ずる措置」が明記されているのを見て感慨深かった。

geotail_img1
 NASA首脳からOPENを国際協力にすべしとの命をうけてGSFCのプロジェクト担当者が打診に来所


geotail_img2
 04は共同ミッションの検討を本格的に始めた

(編集: 三津山和朗)