磁気圏尾部観測衛星「GEOTAIL」

地球の尾っぽのプラズマ科学探査「GEOTAIL」

第一線の研究者の声

磁気圏&宇宙プラズマの面白さとGEOTAIL

島田 延枝

地球の(Geo-)磁気圏尾部(Tail)を調べるために1992年に打ち上げられた人工衛星があります。私が大学院に入った頃に、何やら凄い探査機が活躍を始めたらしい、と話題の主になっていたのが、この最新・気鋭の磁気圏プラズマ探査機GEOTAILです。時折めぐってくる「運用当番」として、宇宙科学研究本部(宇宙研)のオペレーター室のコンピュータに映し出されている、多種多様な機器の状態に思いを馳せるうちに、生来苦手で仕方なかった「機械類」に愛着すら感じるようになってきました。大学院を卒業して宇宙研に来た時、これまた時折めぐってくる「アンテナ角書き換え当番」の日は、朝からご飯がのどに通らなかったのも、今ではいい思い出です。この「お仕事」は、実のところちょっとしたコマンドを送るだけで、私は特に何もするわけではないのですが、これを間違うとGEOTAILと通信がとれなくなる!と聞いて随分と緊張したものです。宇宙空間には、地上で達成できる超高真空よりもずっと希薄ですが、プラズマが満ち電磁波が飛び交っています。地球から何万kmも離れた宇宙空間から「まさに、その空間でのリアルタイム宇宙プラズマデータが送られてくる!」という現場を実際に見聞きし、感動したことは、その後研究を行っていく上で大きな支えになりました。

 博士課程では、太陽面爆発に伴って発生する惑星間空間衝撃波がテーマでしたが、強い衝撃波がやって来た時、運の良い事にGEOTAILは地球磁気圏の外にいて、この衝撃波を観察しくれていました。当時の指導教官である寺沢敏夫先生に「面白いデータがありますよ!」と教えて頂いたお陰で、この衝撃波のGEOTAILデータの解析を行うことができ、後の研究テーマである衝撃波面での電子ダイナミクスへと話を繋げることができました。この衝撃波は秒速900km(!)という猛スピードで一瞬にして通り過ぎてしまったので、「衝撃波面そのもの」で何が起こっているのか、当時最高の機械を積んでいたGEOTAILですら分かりません。しかし、それを補うようにコンピュータ上で計算、シミュレートする、というバーチャルな世界に行っても、あまり迷わず(?)済んだのはGEOTAILがもたらしてくれた生のデータをじっくり見ることが出来たお陰だと思います。 初めにお話しましたように、私が研究を始めた頃には文字通り、既に軌道に乗っていたGEOTAILですが、その計画が具体的に議論され始めたのは1970年代後半だそうです。GEOTAIL構想時からの重要メンバーのお一人である西田篤弘先生は、私の指導教官の更に指導教官にあたる方なのですが、最寄り駅がたまたま同じ、ということで、ある時電車の中で短い時間でしたがGEOTAIL誕生の思い出話をお聞きすることができました。淡々と静かなお話ぶりとは裏腹に、サイエンスからは直接的には、こみ上げてこない人間臭いドラマや情熱を感じ、一つの探査機が華々しい科学的データを出すまでの長く険しい道のりは如何なものだったか、と思い至りました。既に形になっているデータを楽々扱える立場にある、というのは何と幸せな事でしょう!

今「宇宙科学」や「地球科学」の講義を行う機会がありますが、全十数回のうち一回を「磁気圏の科学:オーロラのふるさと」として充てることにしています。日常生活を送る上で磁気圏というのは馴染みが薄いのが普通だと思いますので、皆さん初めはピンと来ないようですが、地球その他の広大な惑星固有の空間としての「磁気圏」の成り立ちや構造、そしてオーロラとの関連、身近な環境としての「宇宙空間」と話を進めていくうちに目に見えない宇宙空間のダイナミクスに関心を示してくれ、嬉しい感想を頂くことも多々あります。この授業回では、GEOTAILのデータも登場するのですが、そのあたり、つい力が入ってしまいます(笑)。これからも、磁気圏&宇宙プラズマの面白さを感じてもらうべく、講義を通じた広報活動を行っていけたら、と思います。 最後になりましたが、GEOTAILを成功させ、支えてこられた沢山の方々に感謝したいと思います。

(編集: 三津山和朗)