磁気圏尾部観測衛星「GEOTAIL」

地球の尾っぽのプラズマ科学探査「GEOTAIL」

第一線の研究者の声

ジオテイル衛星と宇宙で宝探し

白井 仁人

 人工衛星のデータ解析は「宝探し」に似ている。宝に相当するのは未知の現象や法則である。もしも未発見の現象や法則が見つかればその時それを知っているのは自分だけである。つまり、世界で誰一人知らないことを自分だけが知っている。これはかなり興奮する出来事だし、それを想像するとデータ解析はワクワクする作業となる。ただし、宝の発見は簡単ではない。それは複雑で大量のデータの中に埋もれていてすぐには見つからない。大量のデータを調べたからといって必ず見つかるとは限らないし、少量のデータからうまく宝を掘り出せることもある。重要なことは誰も探していない所を探すことだろう。したがって、データ解析者にはその人独自の視点が大切になるし、人工衛星の場合は他の衛星が探査していない領域を探査することや、新しい手法で観測することなどがとても重要になる。

それを考えるとジオテイル衛星はとても魅力的な人工衛星である。なぜなら他の衛星がほとんど探査していなかった領域(地球のしっぽのかなり遠くの部分)を詳しく観測したからである。一般の人は、地球がしっぽを持っていることを知っているだろうか。ジオテイルという名前は「ジオ=地球」と「テイル=しっぽ」に由来する。地球が磁場を持っていることはよく知られているが、その磁場が地球大気の外まで広がり、さらに太陽と反対方向に「しっぽ」のように伸びていることはあまり知られていないだろう。地球は彗星のような「しっぽ」を持っているのだ。しかし、このしっぽがどのように形成されるのかなど詳しいことはまだわかっていない。地球のしっぽの物理学は未完成だと言える。近年、太陽フレアやその他の宇宙現象が地球のしっぽで起こる現象とよく似ていることが明らかになり、しっぽの物理学の重要性は増している。

地球のしっぽの物理学の完成に向けてジオテイル衛星は大きな貢献をした。その一つが、宇宙空間の電離ガスが地球のしっぽの中へどのようにして侵入するのかという問題の解決である。一つの答えは、しっぽの一部(磁力線)が宇宙空間とつながっていてそこから電離ガスが入ってくるというものであった。そしてもう一つは、しっぽの横に渦ができてそこで外側と内側の電離ガスが混ざり合って入ってくるという答えであった。どちらの答えもジオテイル衛星の観測によって確認され、両方とも重要な侵入メカニズムであることが明らかにされた。

私はこの第一の答えを出すのに貢献したのだが、それはとても幸運な経験だった。博士課程で指導教官に助けられながら解析したのだが、その宝(第一の答えの証拠)を見つけ出したときの興奮は今でも忘れられない。それはまさに、世界でまだ誰も知らない貴重な現象を見つけたという感覚であった。私は現在もデータ解析を続けており、いつもワクワクする気持ちで「宝探し」をしている。ジオテイル衛星と一緒に行う「宇宙での宝探し」は一生やめられそうにない。

(編集: 三津山和朗)