オーロラ観測衛星「れいめい」

オーロラの微細構造を解き明かす「れいめい」

asamura 浅村和史 (ASAMURA, Kazushi)

写真:浅村助教(カザフスタン共和国・バイコヌール宇宙基地にて)

オーロラとは?

オーロラは極地方の上空 100-300km で大気が発光する現象です。明るくなったり暗くなったり、渦巻いたり、カーテン状の形が波打ったり、くしの歯のように見えたりします。色もいろいろで、緑や赤、ピンクなどがあります。

オーロラが発光する直接の原因は、地球に向かって降り込んでくる電子やイオンなどのオーロラ粒子です。これらの粒子は比較的高いエネルギーを持ち、大気粒子に次々と衝突しながらそのエネルギーを失ってゆきます。大気粒子が受け取ったエネルギーの一部は光として放出されます。光の波長は粒子種によって決まり、酸素原子の緑 (波長 557.7nm) や 赤 (630.0nm)、窒素分子イオンの青色 (427.8nm) などはオーロラの中でも明るく光ります。

auroracurrent図1 オーロラ発光の仕組み。

オーロラの微細構造

オーロラを肉眼で見ると、解像度は良くても 1km くらいです。高感度カメラで観測する場合は、100m程度、またはそれ以下の細かな構造も多く見つかります。オーロラの形や動きは地上においた高感度カメラを使って細かく調べられてきました。オーロラ粒子も FAST衛星 (アメリカ) などによる高時間・高空間分解能観測の結果、100mスケールの現象が見つかっています。

また、衛星を使って地球スケールでのオーロラ全体構造を観測し、太陽活動との因果関係なども調べられています。ところが、オーロラ発光層の微細な構造とオーロラ粒子のふるまいが対応付けられた例はほとんどありません。これまでのオーロラ観測衛星が、発光層の撮像と粒子の観測を微細なレベルでは両立していないからです。

多くのオーロラ粒子は極域上空 1000-10000km で加速され、地球に向かって降り込んでくると考えられています。オーロラ発光層上空の加速域は発光層の微細構造を作り出す上で重要なはずです。それは、加速によって得られたエネルギーの大小が、オーロラ発光の強弱に直接関わるからです。

微細構造を捉えるれいめい

これまでのオーロラ観測衛星はオーロラ加速域での加速現象をターゲットとし、オーロラ粒子だけでなく、電場や磁場なども含めた総合的プラズマ観測を行ってきました。プラズマ観測には、多くの場合スピン型衛星が適します。ところが、オーロラ発光層を詳細に、時間分解能も高めて撮像しようとすると、スピン衛星では困難です。

れいめい衛星はオーロラ発光層を高分解能で撮像観測するために三軸姿勢制御衛星とし、オーロラ粒子 (電子・イオン) 観測器の形状と配置を工夫、さらには観測時に磁場方向を追尾するような姿勢制御を行います。スピン衛星でないことのデメリットを補い、撮像観測と粒子観測を同時に両立しています。

cad photo
図2 れいめい衛星のモデル図。 図3 れいめい衛星の写真。

obsmode図4 れいめい衛星による観測の様子。その場で観測中のオーロラ粒子が降り込んでいる先をオーロラカメラで撮像します。

れいめいの観測成果

図5 はれいめい衛星によるオーロラ画像と電子の同時観測例です。画像中の白点はオーロラ発光高度を 110km とした場合、れいめい衛星自身と磁力線でつながっている場所を示します。図下のパネルは電子の観測結果で、電子の運ぶエネルギー量を色で表しています。3個のパネルのうち一番上のものが降りこんでくる電子に対応します。オーロラ粒子は磁力線に沿って降り込んでくるため、オーロラ画像中、白点での発光強度がオーロラ粒子の降りこみ構造と対応していると期待されます。細かくチェックすることで、2km 以上の大きさを持つ構造ではよく対応することが分かりました。

mac図5 れいめい衛星によるオーロラ画像とオーロラ電子の同時観測例。画像中の白点はれいめい衛星自身と磁力線でつながっている場所を示します。

macmovie図6 オーロラ画像を連続撮影し動画にしたもの。クリックすると動画に飛びます。Ch2は酸素原子、Ch3は窒素分子の発光を捉えています。Ch.1 は撮影していませんでした。右下の小さな四角はれいめい衛星自身と磁力線でつながっている場所を示します。

れいめい衛星ではブラックオーロラも捉えられています。ブラックオーロラはオーロラ帯の低緯度領域でよく観測される、はっきりとした構造を持たない広がったオーロラの中に、発光しない領域が見られる現象です。ブラックオーロラは微細な形状を持つことが知られています。その成因として、オーロラ加速域に通常と逆の電圧差がかかり、オーロラ電子が存在したとしても上向きに加速されてしまっているのだろうと考えられてきました。ところが、れいめい衛星では、下向きに加速されたオーロラ電子が存在する領域であってもブラックオーロラが捉えられる例が数多く見つかっています。オーロラ電子の加速自体は可能であっても、オーロラ発光のために必要な量の電子が加速領域に供給されていないことを意味する観測結果です。

れいめい衛星は相模原キャンパス新A棟屋上のφ3mアンテナとノルウェーの民間受信局 (KSAT) で運用を行っています。2007年 5月からは国立極地研究所との共同観測により、南極昭和基地にてれいめい衛星データ受信を開始しました。衛星回線を利用し、受信後 30分ほどで観測データが相模原に到着しています。

(執筆: 浅村和史, 編集: 大島亮)