学位論文リスト - 修士論文
修士論文(要旨) |
火星電離圏における太陽風磁場と地殻起源磁場の影響 |
久保田康文 |
火星電離層と太陽風の圧力平衡 本研究ではバイキング1号の観測について火星電離層と太陽風の圧力平衡について扱った。太陽活動極小期のバイキングの観測によると火星電離層の圧力のピークは高度140 km付近で である。しかしこのような火星電離層のプラズマ圧では平均的な太陽風動圧を支えることができない。このことから火星の電離層には少なくとも30 nTから40 nTの磁場が存在すると考えられてきたがバイキングの観測では磁場の観測をしていないので、はっきりした事はわからなかった[Hanson and Mantas, 1988]。 1997年にMars Global Surveyor衛星が火星電離層の磁場観測を行った。その観測によると惑星規模の磁場双極子モーメントは非常に弱いが,表面に局所的な磁気異常があるとことがわかった。この観測によると、磁気異常は南半球に多く分布しており、このような磁場は局所的に火星電離圏の全圧力を増加させ、太陽風と電離圏の相互作用に影響を与えると考えられる [Acuna et al., 1998]。 そこで著者はバイキング1号の観測について、地殻起源磁場の影響と太陽風磁場の影響を考慮にいれて火星電離層と太陽風の圧力平衡について考察した。地殻起源磁場の影響を調べるためにMGS衛星の磁場データを使い、球関数を展開して3次元の地殻起源磁場モデルを作りバイキングの観測と比較した。また太陽風磁場の影響を調べるために詳細な電離層のモデルを考慮した2次元のMHDシミュレーションを行った。 地殻起源磁場の3次元モデル 球関数を使って、地殻起源磁場の3次元モデルを作りViking1の観測と比較した。使用したデータはMars Global Surveyor衛星が高度370−438 kmで全球面を観測した磁場データを使った。磁気異常のソースは衛星高度以下にあるという仮定のもとに、観測された磁場データを1°×1°で平均し球関数を60次まで展開して磁気異常の3次元モデルを作った。 図1はバイキング1号の観測に関して地殻起源磁場の影響がどの程度あるのか地殻起源磁場のモデルを使い磁場を圧力でプロットした図である。横軸はバイキング1号が降下した軌道沿いに計った水平距離になっている。縦軸はバイキングで観測されたプラズマ圧と計算から求めた地殻起源磁場の磁場圧をプロットしてある。また比較のために平均的な太陽風動圧をオレンジの線で示してある。地殻起源磁場の磁場圧とプラズマ圧を足しても高度150 km以上においては平均的な太陽風動圧よりも小さい値となっていて地殻起源磁場の圧力で太陽風動圧を支えているとは考えづらい。 このことからバイキング1号の観測に関して、地殻起源磁場の影響はそれほど影響していないと言える。 電離層への太陽風磁場の侵入 H.Jin(private communication,2003)は詳細な電離層のモデルを考慮にいれた2次元のMHDシミュレーションモデルを用いて磁場の弱い惑星(金星、火星)における太陽風磁場の侵入について研究しておりサブソーラー付近で太陽風動圧が大きい場合には電離層に太陽風磁場が侵入してきて太陽風の動圧を支えることができると指摘している。 著者はH.Jinが開発した2次元のMHDシミュレーションモデルを貸して頂きバイキング1号の観測に基いたシミュレーションを行い、太陽風磁場の侵入について考察した。 図2に比較的太陽風動圧が大きい場合の での計算結果を示す。この図をみると太陽風の磁場が高度170 km付近まで侵入している事がわかる。その電離層に侵入してきた磁場圧と電離層のプラズマ圧で太陽風動圧を支えている事が分かる。またこの時、計算から得られた電離層のプラズマ圧がバイキングで観測されたプラズマ圧と一致する。つまりバイキング1号の観測では比較的太陽風動圧が大きく、電離層に太陽風磁場が侵入していてその磁場圧と電離層のプラズマ圧で太陽風動圧を支えている事がわかった。 3次元MHDシミュレーションコードの開発 今回の発表内容では扱っていないが、磁場の張力が効くような夜側の電離層の構造について研究するために3次元のMHDシミュレーションコードを開発している。従来までは極座標を使って格子を切っていたが、その場合格子が極に集中していまいコンピュータのメモリを多く使いまた計算時間も長くなる。そこで今回開発したコードは非構造格子を用いて一様な格子で球面を覆い計算するようにした。 現状は1280(三角)×60(動径方向)の格子で電離層の光化学反応、重力、中性大気のドラッグを入れてテストをしている。図3に磁力線の図を示す。テスト段階ではうまくいっている。今後、火星について多くのデータが送られてくるので3次元シミュレーションを開発して特に夜側の構造を知るために観測と比較して研究して行きたい。 |
図1.バイキングの観測に関して地殻起源磁場の磁場圧、電離層のプラズマ圧、平均的な太陽風動圧をプロットしてある。 |
図2.太陽風動圧が大きい場合の計算結果。横軸が圧力で、縦軸が高度となっている。計算から得られた太陽風の磁場圧、電離層のプラズマ圧、全圧力をプロットしている。またバイキング1号の観測から得られたプラズマ圧も同時にプロットしている。 |
図3.磁場のカラーコンターの上に磁力線を描いている。 |
< 編集: 湯村 翼 >