学位論文リスト - 修士論文



修士論文(要旨)
磁気圏プラズマ観測用MCPマルチアノードの開発研究
齋藤 実穂


本研究の目的は磁気圏in-situプラズマ観測において,電子ダイナミクスを解明する高い時間分解能(10ms)を目指したプラズマ観測器の検出部、MCPマルチアノードの開発である(図1)。

図1.MCPマルチアノードの原理,左はMCP(microchannel plates)の1チャンネル、2次電子放出により電荷増幅、これを複数集めたものがMCP,右は2段MCPとマルチアノードの模式図、独立した個別のアノードと処理系から構成される。

10msの分解能を得るためには、観測器自体の感度を向上させると同時に飛翔体に搭載する観測器の数を増やすことも必要である。そこで鍵を握るのは、高速、小型である検出部の開発である。本研究では、原理的に最も高いカウントレートを処理することが可能である MCP マルチアノードシステムに着目した。これは電子回路部の処理系の数と消費電力の多さが弱点であったが、これは ASIC (Application specific integrated circuit) を用いることで解決するものと期待される。このASICをアノード裏面へ直接搭載するところが全く新しい点であり、これは同時に信号処理系の大幅な小型化(12mm×12mm)を可能にする(図2)。


図2.左がプラズマ観測器の模式図、左はアノードの表、右がその裏面である。その中央にASIC(処理系)であり、これを直接アノードに搭載することが新しい。表、裏の導体の静電容量を利用しアノード、処理系と絶縁する(=基板利用コンデンサー)。

高速で小型(MCP+アノード基板直径(10cm×厚さ1mm))の検出部を可能にする要素技術は@ASICA基板利用コンデンサーBMCPマルチアノードである。基板利用コンデンサーと呼ぶものはアノードと処理系の絶縁コンデンサーをアノード基板で行うという発想である。信号検出は基板の表と裏の静電容量(3pF)を用いる。実際、イオンビームをMCPにあてることで実験を行った結果、小さい静電容量の影響があるものの信号検出は十分可能であるという結果が得られた(図3)。


図3.隣接するアノードが検出する波高の相関図。色はカウントである。

基板の厚み1mm以上は構造強度の要求があるため、現状より静電容量を大きくするにはアノード面積を大きくするのが望ましい。しかしマルチアノードでは隣接アノードとの距離はMCP出力チャージの大きさ(=チャージクラウド)を考慮して決める必要がある。そこでチャージクラウドの大きさを実験から求め、モデル計算と比較した。その結果、チャージクラウドの大きさは空間電荷効果とアノードへの落下時間で説明されることがわかった(図4)。


図4.MCP出力チャージクラウドの大きさr、実験値はモデルで説明される。

この研究結果を踏まえ、この高速で小型なMCPマルチアノードシステムが将来の磁気圏プラズマ観測に適用できると結論する。ASICの機能は大気圧中で試験済みであるが、次のステップとしては、真空中でのイオンビーム照射試験を行った上でProto-modelの試作に入る。

 

< 編集: 湯村 翼 >