学位論文リスト - 修士論文



修士論文(要旨)
磁気圏観測用高機能低エネルギー荷電粒子計測器の開発
佐々木慎太郎




高時間分解能の必要性

人工衛星によるin-situ観測が可能になって以来、磁気圏物理学は飛躍的に発展し、地球磁気圏のプラズマ現象について多くのことが明らかになった。これらは主にMHD(電磁流体力学)により解釈されてきたが、磁気リコネクションの拡散領域のような領域では、イオンや電子の粒子としての振舞いが重要であるため、MHD近似だけでは物理現象を理解できないことがGEOTAIL衛星等の観測から明らかになった。次期地球磁気圏探査計画SCOPE (cross Scale COupling in Plasma universE)では、大規模なMHDスケールの現象と微小なイオン・電子スケールの現象を結びつける物理過程(スケール間結合)の解明を目標としている。12秒の時間分解能(荷電粒子の3次元分布関数を取得するのに要する時間)を持つGEOTAIL衛星ではイオンスケールまで分解することができたので、SCOPE計画では更に微小な電子スケールに迫る観測を目標としており、それを実現するには約10ミリ秒もの高時間分解能が必要である。

静電分析器

 低エネルギー荷電粒子計測器のエネルギースペクトルを計測するエネルギー分析器は、荷電粒子のエネルギーの選別を行うアナライザー部とアナライザー部を通過した荷電粒子を受け取る検出部から構成される。特に、静電場を利用して、エネルギー分析を行うアナライザーのことを静電分析器という。図1で示したTop-Hat型静電分析器は内球と外球と呼ばれる2つの球殻型電極で構成されており、極板間の電位差Vは計測可能な荷電粒子のエネルギーに比例しているので、電位差Vを変化(“掃引”という)させることで、様々なエネルギー幅の低エネルギー荷電粒子を計測することができる。また、電位差Vの極性により、電子とイオンのどちらにも対応することができる。Top-Hat型静電分析器の視野は、α[deg]×360[deg]であるが、3次元分布関数を取得する際には、人工衛星のスピンを利用しα方向の視野を確保する。このため、静電分析器の時間分解能は衛星のスピン時間で決まる。


図1.Top-Hat型静電分析器
三重球型静電分析器の特性

 衛星のスピンを利用しないで3次元分布関数を確保するため、8台の静電分析器を衛星に搭載することでα方向の視野をカバーする。時間分解能が衛星のスピンに依存しない場合、時間分解能は掃引時間で決まるが、掃引時間の短縮には限度があるため、時間分解能は32ミリ秒程度にとどまる。このため、約10ミリ秒の高時間分解能を実現するためには、静電分析器の形状を改良することで、時間分解能を上げる必要がある。高時間分解能の実現のため、本研究で採用したのが、三重球型静電分析器である。従来の静電分析器の内球と外球の間にもう一つ中間球を設けることにより、Outside(外球と中間球の間)とInside(中間球と内球の間)で異なるニつのエネルギー幅の荷電粒子を同時に計測することが可能になるため、時間分解能は2倍になる。また、三重球型静電分析器を2台用いて、それぞれで異なるエネルギー幅の荷電粒子を計測すれば、時間分可能は更に2倍になり、8ミリ秒の高時間分解能が可能となる。図2は三重球型静電分析器のテストモデルである。また、図3はテストモデルから得られた実験結果であり、図3の横軸は図1で示した入射角度α、縦軸は計測可能な荷電粒子のエネルギー、コンター図は検出器に到達した荷電粒子のカウント数を表している。図3で示したとおり、InsideとOutsideの2つのピークが見られ、異なるエネルギー幅の荷電粒子を同時に計測できていることが分かる。



図2.三重球型静電分析器テストモデル

図3.テストモデルの特性(実験結果)


衛星のスピンを利用しないで3次元分布関数を確保するため、8台の静電分析器を衛星に搭載することでα方向の視野をカバーする。時間分解能が衛星のスピンに依存しない場合、時間分解能は掃引時間で決まるが、掃引時間の短縮には限度があるため、時間分解能は32ミリ秒程度にとどまる。このため、約10ミリ秒の高時間分解能を実現するためには、静電分析器の形状を改良することで、時間分解能を上げる必要がある。高時間分解能の実現のため、本研究で採用したのが、三重球型静電分析器である。従来の静電分析器の内球と外球の間にもう一つ中間球を設けることにより、Outside(外球と中間球の間)とInside(中間球と内球の間)で異なるニつのエネルギー幅の荷電粒子を同時に計測することが可能になるため、時間分解能は2倍になる。また、三重球型静電分析器を2台用いて、それぞれで異なるエネルギー幅の荷電粒子を計測すれば、時間分可能は更に2倍になり、8ミリ秒の高時間分解能が可能となる。図2は三重球型静電分析器のテストモデルである。また、図3はテストモデルから得られた実験結果であり、図3の横軸は図1で示した入射角度α、縦軸は計測可能な荷電粒子のエネルギー、コンター図は検出器に到達した荷電粒子のカウント数を表している。図3で示したとおり、InsideとOutsideの2つのピークが見られ、異なるエネルギー幅の荷電粒子を同時に計測できていることが分かる。 三重球型静電分析器のInsideとOutsideは異なるエネルギーを計測するため、それぞれを通過した荷電粒子を検出部上で分離する必要があるが、テストモデルの形状では、 検出部上でそれぞれの粒子が混合してしまう。また、InsideとOutsideは同等の特性であることが望ましいが、表1で示したとおり、g-factor(静電分析器の感度)が大きく異なる。さらにテストモデルでは、エネルギー分解能が非常に悪いという問題点も存在する。これらの問題点を解決するため、三重球型静電分析器の最適形状の設計を行った。図4は最適化された三重球型静電分析器の図を表している。中間球を球型とトロイダル型(静電分析器の対称軸と球の中心が異なる)の組合せにすることにより、中間球に厚みができ、InsideとOutsideを通過した荷電粒子を分離することが可能となる。また、g-factorの目標値をGEOTAIL衛星に搭載した静電分析器と同等のカウント数を稼ぐことができるように9.0×10-3 [cm2 str eV/eV/22.5°]と、エネルギー分解能の目標値を15%程度と設定した。表2には、最適化した三重球型静電分析器の性能を示したが、InsideとOutsideの特性を目標値通りに設計することができた。今後は最適化した三重球型静電分析器の試作モデルを製作することで、フライトモデルの設計に繋げる。

 

Outside

Inside

g-factor [cm2 str eV/eV/22.5°]

1.38×10-2

4.42×10-3

エネルギー分解能(FWHM [%]

42.1

67.7

1:テストモデルの性能

 

 

Outside

Inside

g-factor [cm2 str eV/eV/22.5°]

9.07×10-3

8.65×10-3

エネルギー分解能(FWHM [%]

14.5

18.8

2:三重球型静電分析器の最適設計




図4.三重球型静電分析器の最適設計

 

< 編集: 湯村 翼 >