学位論文リスト - 修士論文
修士論文(要旨) |
あけぼの衛星で観測されたBi-streaming electron conicsの特性 |
辻田大輔 |
あけぼの衛星はオーロラ加速域の物理過程の研究を主たる目的として打ち上げられ、低エネルギー粒子計測器(LEP)を搭載し、粒子の振る舞いを表わす速度分布関数データを供給している。オーロラ領域探査を目的とする他の科学衛星でも粒子計測器を搭載して様々な速度分布関数を供給してきたが、我々はあけぼの衛星の観測データにおいて、これまでに他の衛星で観測されたelectron conicsとは異なるタイプの速度分布関数であるBi-streaming electron conicsを発見した。 Bi-streaming electron conicsとは20〜70度、110〜160度のupward, downwardの両方向にピークを持ち、その強度と形が対称的な電子の速度分布関数である(図1)。Chiu and Shulz[1983]が定常の電場下における速度分布関数の形状を議論しているが、そのモデルでは、Bi-streaming electron conicsは説明することができない。そこで本研究ではBi-streaming electron conicsの特性を調べた。 Bi-streaming electron conicsはオーロラオーバルの高緯度側で、時間空間的に成長しているポテンシャル構造領域か、加速電場域の時間空間変化領域で観測されることが多い。しかし、衛星下方に電場が存在しているときに観測されることはほとんどない。conics成分に着目すると、conics成分のエネルギーは沿磁力線下向き方向の降下電子のエネルギーと等しいか、それより低い。またconics成分のピッチ角は観測高度におけるloss cone角よりも磁力線垂直方向に存在することがわかった。即ち速度分布関数における捕捉領域にconics成分が存在している(図2)。 upward成分とdownward成分の対称性がよいことから、同じ起源の粒子であると考えられる。さらに、conics成分の温度と降下電子の温度がほとんど等しいことから、降下電子がconics成分のソースであると考えられる。 本研究では以上の観測事実から、Bi-streaming electron conicsのソースは磁気圏起源の降下電子であると考えた。そして、その降下電子が観測高度よりも上空に存在する時間変化する加速電場を経験した結果、加速電場とミラー点間に捕捉されることによって生成される(図3)と推察し、解析的な考察による数値計算により導出した。 |
図1.最上段図はBi-streaming electron conicsの速度分布関数。縦軸がエネルギー、円周はピッチ角を表わす。Bi-streaming electron conicsのピークカウントのあるピッチ角30度、140度成分の速度分布関数が下図になる。下左図において、※印はピッチ角30度conics成分の分布関数、◇はピッチ角90度の分布関数、下右図において※印はピッチ角140度conics成分の分布関数である。赤いハッチの部分は、conics成分の速度分布関数がフラットトップ型になっていることを表わす。upward成分とdownward成分の対称性がよいこと、強度が90度成分に比べて強いことがわかる。 |
図2.Bi-streaming electron conicsの速度分布関数の模式図。捕捉領域にconics成分が存在している。 |
図3.上空に時間変化する加速電場が存在する場合に、Bi-streaming electron conicsが生成されることを示す模式図。 |
< 編集: 湯村 翼 >