研究プロジェクト

Bowshock の研究

太陽風は超音速のプラズマ流であるため、障害物にぶつかると衝撃波を形成する。地球磁気圏の前面にも衝撃波(bow shock) が形成されていることが人工衛星の観測から明らかになっている。Bow shock は地球から約15Re(Re:地球半径6400km) の場所で観測されており、放物線のような形をしている。Bowshock を横切る時に、太陽風は超音速から亜音速に減速し、密度、磁場は増大する。観測によると、衝撃波下流での磁場、密度の値とも上流に比べて3 から4 倍程度上昇している。地上の大気のような高密度ガス中での衝撃波では、その散逸機構としては粒子間衝突によるエントロピー生成でまかなわれている。しか し、太陽風プラズマは、その密度が非常に希薄なため、構成する粒子間のクーロン衝突がほとんど無視できる無衝突プラズマであり、bow shock においては、乱れた電磁場とプラズマの相互作用が衝突の役割を担っている。無衝突プラズマ中では、粒子の分布関数はMaxwell 分布であるとは限らず、平均的な運動量を逸脱した非熱的粒子が生成されることがある。このような非熱的粒子の生成は、無衝突衝撃波における散逸機構と密接 に関係していると考えられている。しかし、衝撃波における散逸過程や非熱的粒子の生成プロセスの詳細は完全には理解されていない。 非熱的粒子の生成は宇宙ではしばしば見られる。宇宙で高エネルギー粒子が生成される舞台としては、例えば、活動銀河、超新星爆発などが考えられる。こられ のような粒子加速の現場とされている天文学的現象での無衝突衝撃波とは物理的パラメータは異なるが、太陽圏においても様々な無衝突衝撃波が観測されてい る。


図1.1:地球磁気圏とGEOTAIL衛星


惑星間空間にて観測される無衝突衝撃波を研究することの最大の利点は、直接その場にいって観測すること(in-situ 観測) が可能である点である。直接現場に行き、そこでの物理量を観測できることは、そこで起こっている物理現象を理解する上で非常に有利な点である。太陽圏に存 在する衝撃波の中で、最もたくさんの観測データが得られているのは地球のbowshock である。bow shock は地球磁気圏のすぐ外側にあるので、地球を周回するような衛星であれば軌道などの条件があえば何度でも観測することができ、in-situ 観測による非常にたくさんのデータを得ることが可能である。Bowshock で起こっている粒子加速と、超新星爆発などの高いAlfvenMach 数(Ma)の現象のような粒子加速とは物理的パラメータは異なるものの、in-situ 観測が可能で観測機会も多い地球のbow shock は、無衝撃波遷移層での物理現象(散逸過程) を観測的に研究するのに理想的な対象であるといえる。

このように太陽圏内で形成される衝撃波を、in-situ観測データにより研究する手段として、GEOTAIL衛星の観測データを利用す ることがある。図1.1 は、地球磁気圏を探査するGEOTAIL衛星のイメージ図であり。GEOTAIL 衛星の主な目的は、磁気圏尾部を観測することである。図1.2 で示したように、GEOTAIL 衛星の軌道は近地点6 万km(10Re)、遠地点19 万km(30Re) の軌道にあり、bowshock を非常に多く観測することが可能である。図中での放物線は、平均的なbowshock の位置を示している。



図1.2:GEOTAIL衛星の軌道


GEOTAIL衛星は、約五日で 地球を1 周しており、bowshock を定期的に観測していることがわかる。また、季節による依存性はあるが、GEOTAIL衛星の軌道をみると周回の約半分は太陽風中にいることがわかる。そ のため、GEOTAIL衛星はbowshock だけでなく、イベント数は少ないが惑星間空間衝撃波(IPS) を観測することもあり、非常に興味深い観測を行っている衛星といえる。GEOTAIL 衛星は、1 太陽周期をカバーできる長期間観測を続けている。そのことにより、様々な太陽風状況下におけるbowshock、すなわち、太陽風パラメータの比較的幅広 いbowshock を統計的に研究することが可能である。幅広いパラメータでの衝撃波を研究することにより、宇宙の様々な場所に存在している衝撃波に対しての理解にもつなが る可能性がある。 以上のことからも、惑星間空間における粒子加速機構の研究やin-situ観測可能なbow shock の研究は、天体での非熱的粒子の生成機構、高エネルギー宇宙線粒子の研究にとっても重要なものとなっている。

< 関 克隆>