研究プロジェクト

CCMC利用インプレッション

研究員 西野真木

これまで観測データ解析ばかりをやってきた自分にとって、グローバル・シミュレーションの計算コードを構築することは敷居の高い作業に思っていた。しかも国内の大型計算機は混んでいるという話だ。そんなときに、Goddard Space Flight Center (GSFC) / NASAのCCMC (Community Coordinated Modeling Center) のウェブサイトに大規模計算のためのツールが公開されていることを知り、まずは試しに使ってみることにした。
(CCMCのURL http://ccmc.gsfc.nasa.gov/ )

CCMCには、太陽表面、太陽圏、磁気圏、電離層、などの大規模計算ツールがあり、今回は磁気圏の計算に取り組むことにする。CCMCの計算では、実際の太陽風データをもとに磁気圏の時間変化を追うことも可能だが、今回は太陽風のパラメタ(固定値)を入力して磁気圏周辺のプラズマ環境を調べることにする。使用するコードはBATSRUSで、これはミシガン大学のグループが開発したグローバル磁気圏計算コードである。なお、この計算では通常は難しいとされるIMF Bxも含めることができる。

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[図:太陽表面、太陽圏、磁気圏、電離圏などの計算がウェブ上で指定できる]

●ウェブベースで入力

CCMCのウェブサイトで必要事項を入力し、モデルを設定してゆく。電離層のパラメタは自分の専門外なのでどうやったらいいか分からなかったのだが、CCMCのスタッフにメールで尋ねたところ丁寧に教えて下さった。

●境界の位置など

例えば低密度の場合にはショックの位置が太陽側へ移動してしまうため、通常どおりX=33 Reに上流側の境界を設定したのでは不都合が生じる場合がある。そこで、X=100 Reに境界を設定してもらうようにコメント(計算を依頼する時にコメントすることが可能)しておくと、その通りにして計算を走らせてくれる。

●グリッドサイズの調整

通常の計算でも高解像度と低解像度を選択することが可能である。高解像度を選ぶと、計算に時間がかかるようである。

●再計算を依頼した

ある計算を走らせたところ、物理量を見たい領域(今の場合はシース)の途中にグリッドサイズの境界(0.25 Re と 0.5 Re)が来てしまい、その境界では物理量が不連続に変化してしまっていた。これでは論文に載せるデータとしては不適切であるので、せっかく計算してもらったのに少々申し訳ないなと思いつつ、サイエンスのためなので再計算を依頼することにした。具体的には、地球前面のシース領域にはグリッドサイズの境界が来ないようにしてほしい、と頼んでみた。「通常の高解像度の計算と比べて5倍ものリソースを使うから時間はかかるが、それでOK?」とのことだったが、もちろんOKである。

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 [図1]

図1(a)は調整前のグリッドを示す。地球前面の領域にグリッドの不連続が出来てしまい、グリッドサイズも大きめである。(b)は調整後のもの。見たい領域で非常に細かなグリッドを設定してもらい、その領域にはグリッドサイズの境界もない。

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 [図2]

図2は、図1からグリッドのみを消去したものである。グリッド調整前には人工的な構造が見えていたが、グリッド調整後にはそれらが消えている。衝撃波面も鮮明になったことが分かる。(これらは地球前面の領域をZ=0で切った断面であり、カラーはプラズマの数密度である。)

さて、このように非常に大きな計算の場合、simulationの中で最初の5分が経過するとメールが届き、このまま計算を走らせて良いかどうかチェックするように言われる。ボックスの大きさ、グリッド、それに物理量の変化の具合を確かめ、そのまま続けてもらうように頼む。そうして数日待つと、完璧な計算が仕上がってきた(上流側の条件を固定した場合にはsimulationの中で2時間分の計算をしてくれる)。この結果は、このまま論文に載せることになる。

●ウェブベースで解析

計算結果はweb上で見ることができる。巨大なデータをダウンロードしなくても、プロットを作成することができる。また、データのダウンロードも可能である。1次元、2次元のカラーマップ(流線やベクトル場も描ける)をgifまたはepsで出力することが出来る。さらに3次元のvrmlでの表示も出来るようである。上述の図1や図2の基本部分はウェブ上で作成したものである。別の断面での別の物理量も簡単に描くことができる(図3)。

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 [図3]

●計算結果

いずれの計算結果もweb上で公開されており、他の人の計算結果も見ることができる。ジャーナルで見かけた計算結果もそのまま置いてあるため、参考にすることができる。

●まとめ

このように、CCMCを用いることで、敷居が高いと思い込んでいたグローバル計算への第一歩を踏み出すことができた。興味のある方々(特に学生の皆さん)はぜひ利用してみてほしい。なお、不明な点があれば筆者までお気軽にご連絡下さい。


<西野真木 / 編集: 田中健太郎>