研究プロジェクト

極冠域電離圏における部分的なプラズマ密度の上昇について

北野谷氏は地球電磁気・地球惑星圏学会 (SGEPSS) で学生発表賞(オーロラメダル)を受賞されました.本稿では,氏の研究と受賞に至る過程を紹介します.

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>>研究対象と研究手法はどのようなものですか?

あけぼの衛星に搭載されているTED(熱的電子エネルギー分布観測)で、太陽活動が活発な時期に極冠域高高度(高度約3000km以上)において、ごく稀(観測の数%)に観測される局所的プラズマ密度上昇について研究しました。

本研究では、(1)あけぼの衛星に搭載されているTED(熱的電子エネルギー分布観測)、SMS(熱的及び非熱的イオン質量分析)、LEP(低エネルギー粒子観測)、(2)DMSP衛星に搭載されているイオンドリフトメーターによる反太陽方向の対流観測、イオン密度観測、そして(3)GPS衛星の全電子数(TEC)観測を行いました。

以上の観測データを用いた極冠域高高度に出現する局所的プラズマ密度上昇の発生メカニズムの解明と局所的プラズマ密度上昇による極冠域のプラズマ環境の変化についての調査を行いました。

>>過去の極冠電離圏の物理に対する理解はどのようなものだったのですか?

10年以上の長期のTED観測から、ごく稀に極冠域高高度で局所的プラズマ密度上昇が発生することは過去の研究で明らかになっていましたが、その発生メカニズム、プラズマの起源は未解決のままでした。

>>あけぼのの長期的観測が今回の研究にとって重要な役割を演じたと思います。そのような中で、氏の研究によって何が明らかになったのでしょうか?

3つの衛星の観測データの比較より、極冠域に局所的なプラズマ密度上昇を作り出しているプラズマのもとは、SEDと呼ばれる輸送によりプラズマ圏から来ている可能性が高いことが明らかになりました。

>>氏の研究では、膨大なデータの中から”稀な”現象をより多く抽出する事が重要だと思われます。そのような中、研究するにあたっての困難、それに対する解決策はどのようなものがありましたか?

3つの衛星の同時観測を探すのが非常に大変でした。 解決策は「根気」でした(笑)。

>>今後の研究展望はどのようなものでしょうか?

一般的に極冠域にはイオンのアウトフローが存在しますが、この密度上昇域内ではアウトフローが非常に弱く、おそらく、イオンのアウトフローを引き起こしている分極電場が生じにくい環境になっていると考えられます。ゆえに、あけぼの衛星に搭載されている他の測定器を用いて、密度上昇の中と外を比較することで、分極電場による影響についてさらに詳しい情報が得られると期待しています。

>>受賞するにあたって、何が受賞のポイントだとお感じですか?

自分やっている研究のおもしろさを自分自身が理解するのはもちろんのこと、 それを如何に相手に伝えるかが鍵になったと思います。


<北野谷 有吾 / インタビューア: 田中健太郎>