研究プロジェクト

かぐや搭載の超高層大気・プラズマイメージャ (UPI)

月周回衛星SELENE (かぐや) ミッションでは、三つの科学目的を掲げています.

 1. 月の科学:月の起源と進化の解明
 2. 月での科学:月面環境の解明
 3. 月からの科学:太陽地球系プラズマ環境の解明や月面天文台等の候補地調査

です。「月からの科学」の一端を担うべく、月周回軌道から地球を観測する超高層大気・プラズマイメージャ (UPI) が搭載されています。UPIは、極端紫外光望遠鏡 (UPI-TEX) と可視光望遠鏡 (UPI-TVIS) という2つの望遠鏡と、地球を自動追尾するジンバル (UPI-G) の3つのコンポーネントから成り立っています。

UPIは地球周辺大気・プラズマ運動をわしづかみに撮影する

1. 様々な波長域で地球大気・プラズマを解剖する

地球を周回する低軌道衛星 (高度300km) では一度に見渡せる範囲は地球半球面積のわずか4.5%ですが、約380,000km隔たった月からは地球半球の約98%を一望できます。UPI-TEXは紫外線領域のなかでも非常に波長の短い光 (極端紫外光) を検出し、地球プラズマ圏のプラズマ分布や電離圏から内部磁気圏へのプラズマ輸送の解明を目指しています。UPI-TVISは可視光領域での観測を行い、南北地磁気共役点オーロラの詳しい直接比較や大気光観測から超高層大気中を大規模擾乱がグローバルに伝播していく様子を捉えることを目的としています。UPIは世界初の月を周回するスペーステレスコープとして活躍が期待されています。
かぐや軌道
(図1: かぐやからの超高層大気・プラズマイメージャ (UPI) による地球観測イメージ)

UPIの持つ、2色の眼と正確な地球追尾制御

2. 超高層大気・プラズマイメージャ UPI-TEX, UPI-TVIS

2.1. 極端紫外光望遠鏡 (UPI-TEX)

極端紫外光領域にあるヘリウムイオン (He+) と酸素イオン (O+) の共鳴散乱光を観測します。光学系は直入射反射光学系であり、多層膜反射鏡、金属薄膜フィルターと二次元位置検出器から成り立っています。多層膜反射鏡はHe+の共鳴散乱光での反射率を高めるためにMo/Siのコーティングが施されています。金属薄膜フィルターがバンドパスフィルターの役目を担い波長分別を行っています。円形状の金属薄膜フィルターが半円形に2分割され、材質はAl/CとInと分かれていて、He+ とO+ の共鳴散乱光を視野半分ずつで同時に観測できるように設計されています。検出器には位置検出可能なレジスティブアノードを配置したMCPを用いています。
upi-tex
(図2: 極端紫外光望遠鏡(UPI- TEX)の概観)

共鳴散乱光による光学観測の利点は、

 1) サーマルエネルギーイオンを観測可能、
 2) 全ピッチ角を観測可能、
 3) 赤道域からの観測、

が挙げられ、緯度、高度方向に対して二次元観測が可能であること、低高度、磁気活動度の静穏時観測にも有効であると考えられます。

空間分解能は最高0.1Reであり、時間分解能は、期待される発光量1 Rayleighの箇所を観測する場合、ヘリウムイオン・酸素イオン観測について、それぞれ時間分解能1分、30分です。空間分解能0.3Reまで積分すると時間分解能は10分の1に短くすることができます。これまでの人工衛星によって予想されている10分程度周期のイオンアウトフロー起源の高速中性粒子急増がUPIでは充分な時間分解能をもって観測でき、酸素イオンアウトフローの太陽風の応答を観測できると期待できます。

2.2. 可視光望遠鏡 (UPI-TVIS)

動きの速いオーロラや暗い大気光を捉えるため、明るい光学系、狭帯域フィルター、高感度CCD撮像素子を備えています。TVISは月から見て地球がすっぽりと収まる視野2.4°となっています。

小型軽量で、420 ~ 800nmの広い波長範囲にわたってシャープな像を結び、明るくなくてはならないという厳しい条件のもとで設計されたTVIS光学系には、反射・屈折両方を組み合わせた光学系が採用されました。光学ガラス点数を少なく、しかも収差を良好に補正するために、主鏡・副鏡には裏面反射を利用しています。

狭帯域フィルターは4つ備えてあり、可視光領域にある窒素分子イオン (N2+)、酸素原子 (O)、ナトリウム原子 (Na)、OH分子の発光を観測します。さらに近赤外領域を透過するバンドパスフィルターも1枚用意し、切り替えることでオーロラや大気光の輝線スペクトルの波長を選択し観測します。CCDは高感度でしかも機械式シャッターが不要なフレームトランスファー方式です。量子効率は90%を越え、電子冷却により暗雑音を抑えています。空間分解能は地球表面での距離に換算しておよそ30kmとなります。
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(図3: 可視光望遠鏡(UPI-TVIS)の概観)

望遠鏡の鏡筒にはジュラルミン、チタン合金、インバー、CFRPが適材適所使用されて、熱環境変化が光学系へ悪影響を及ぼすことを抑え、打上げに耐える剛性を保ちつつ軽量化されています。またフィルターは温度変化によって透過特性が変化しないように、外周にヒーターが巻かれて温度安定化が図られています。

2.3. 地球追尾ジンバル (UPI-G)

2つの望遠鏡TVIS及びTEXは、専用に設計された2軸ジンバルに設置されています。第1軸は絶対空間に対する衛星本体の回転運動の軸と同じ向きになるように衛星に取り付けられ、衛星回転と同じ角速度で逆回転します。これによって望遠鏡は絶対空間に対して静止します。第2軸は月の地球周りの公転運動をキャンセルします。UPI制御エレクトロニクス上では、衛星機上で配信される衛星軌道・姿勢データを受信しこの2軸を駆動する速度を計算し駆動制御をすることで、望遠鏡を常に地球を追い続けることができます。
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(図4: 超高層大気・プラズマイメージャの全体概観)

表 1 UPIを構成する2つの望遠鏡の性能
  極端紫外光望遠鏡(UPI-TEX) 可視光望遠鏡(UPI-TVIS)
Mirror D:120mm, f:168mm, F:1.4
Parabolic Mo/Si multilayer-coating
D:136mm, f:320mm, F:2.35
A catadioptric telescope
Filter Split metal thin filter
Al 150nm/C 30nm and In 330nm
5 interfere filter
(l: 427.8, 557.7, 589.3, 630.0nm)
Long pass filter (>730nm)
Detector Z-stack MCPs with 2D resistive anode active area 40 x 40mm
128 x 128pixels
CCD with Peltier cooler ( -40°C)
active area 13.3 x 13.3mm
512 x 512pixels
FOV f 10° (Resolution:0.08°) f 2.38° (Resolution:0.0047°)
Weight 1740g (excluding the electronics) 3920g (excluding the electronics)
Data 10bit/pixel 12bit/pixel
Downlink 3kbps (one image every 1 minute) 44kbps (one image every 1 minute)
Target He II (30.4nm), O II (83.4nm) N2+ 1st neg., O I, Na I, OH

 

3. 観測条件

太陽光による迷光によるノイズを防ぐためUPI-TEXの観測には、「衛星が月の影に隠れる日陰」、「地球から可視」、「太陽離角が20°以上」という条件をつけています。UPI-TVISの観測条件には「地球の日照面が半分以下」という条件がさらに付け加わります。この条件を考慮するとそれぞれの観測時間は、約10週間/年、約5週間/年となります。
観測条件
(図5: UPI-TEX、UPI-TVISの観測条件の模式図)

 

<山崎 敦 / 編集: 田中 健太郎>