最新研究成果
多点観測による地球磁気圏尾部で高速伝播する磁力管の解析
高田 拓 / 研究員
1.研究の背景
オーロラサブストームは地球磁気圏でのエネルギー解放現象の一つであり、この現象に伴って磁気圏尾部プラズマシートでは高速のプラズマ流が観測されることが知られている。プラズマ高速流の理論的モデルの一つである泡モデル[Chen and Wolf, 1993]では、高速流中の余剰電流がその両端から沿磁力線電流により、電離層を介して閉じていることが予想されている。しかしながら、部分的なサポート研究はあるものの[Nakamura et al., 2001]、一点衛星観測による限界のため高速流の全体構造の把握は未だ成されていない。
本研究では、地球磁気圏を周回するCluster衛星とDouble Star TC1衛星、更に地上観測網であるスカンディナヴィアのMIRACLEネットワーク、オーロラ撮像衛星IMAGEのデータを使用して、プラズマ高速流の構造を把握することを目的としている。
2.磁気圏尾部での特徴
2004年9月24日19:50UT頃、Cluster衛星、TC1衛星は各々(-17.1, 5.3, -1.1) RE、(-10.8, 5.6, -1.4) RE、に位置し、ローブ領域からプラズマシート境界層(PSBL)への進入を相次いで行った。図1に見られるように、この進入に伴い、|Bx|の減少、Bzの増加と共に、強いByの変化が見られた。このByの変化は沿磁力線電流による寄与と考えられ、Cluster衛星とTC1衛星では極性が逆であった。Cluster衛星4機の磁場データにより電流密度が得られ、地球向きの沿磁力線電流が流れていることが示された。Byの極性の違いを考慮すると、TC1では尾部向きの沿磁力線電流が流れていることが推定される。また、Cluster衛星とTC1衛星のPSBLへの進入の時間差(50秒)は、プラズマシート中での高速流の伝播速度(〜700km/s)と同程度であることも示された。
図1. Cluster衛星、Double Star TC1衛星による観測データ。上から磁場の3成分、イオン密度、X(地球)方向のイオン速度。2衛星が相次いでプラズマシート境界層に入った期間がグレーでマークされている。
3.電離層での特徴
一方、北半球でのMIRACLEネットワークによる地上観測から、高速流に伴う沿磁力線電流系の電離層での情報が得られた。地上の磁場観測から得られる等価電流の回転は、沿磁力線電流密度に相当する。図2では、2衛星の投影位置の間で等価電流の回転の上向き増加が起こり、その増加領域がTC1側に移動している様子が見られ。また、IMAGE衛星のオーロラ撮像により、南半球では衛星の投影位置でオーロラが光っていることが観測された。
図2. MIRACLEネットワークの磁場観測点から計算された等過電流(矢印)、その回転(カラーコンター)とCluster衛星、TC1衛星の電離層へ投影された位置。暖色は上向き沿磁力線電流、寒色は下向き沿磁力線電流に相当。
4.まとめ
Cluster衛星、Double Star TC1衛星、MIRACLEネットワークにより、プラズマシート中の高速流に伴った電流構造を同時に抑えることに成功した。図3に示されるように、得られた観測事実は、地球向きの高速流が作る全磁気圏的な電流系構造の描像[Birn et al., 2004]とよく一致する。
図3. 泡モデルによるプラズマ高速流の概念図と本研究での観測のまとめ。(1)Cluster衛星とTC1衛星が高速流の両端から伸びる沿磁力線電流系を観測し、(2)IMAGE衛星が電離層に投影した衛星位置でのオーロラを捉え、(3)MIRACLEにより、北半球の共役点で、2衛星間に上向きの等価電流の回転(上向き沿磁力線電流に相当)が増加したことが示された。
参考文献
1. Birn et al., On the propagation of bubbles in the geomagnetic tail, Ann. Geophys., 22, 1773-1786, 2004.
2. Chen and Wolf, Interpretation of high-speed flows in the plasma sheet, J. Geophys. Res., 98, 21,409-21,419, 1993.
3. Nakamura et al., Earthward flow bursts, auroral streamers, and small expansions, J. Geophys. Res., 106, 10,791-10,802, 2001.
成果公表
この成果をまとめた論文は、国際学術誌Journal of Geophysical Researchに投稿中です。
○ Takada et al., Fast-moving flux tube in the magnetotail: Cluster, DSP and MIRACLE conjunction, J. Geophys. Res., submitted, 2007.