最新研究成果

ジオテイル衛星で観測された温度非等方性の生成現場
---北向きIMFのときの磁気圏境界層の渦内部の物理---

西野 真木 / 研究員

 

1. 本研究の背景

IMF北向き時の磁気圏境界面を横切るプラズマ輸送は磁気圏物理学の主要な課題の一つである。我々はこれを解明するために、これまでに温度非等方性に着目した解析を行ってきた。特に、IMFの北向きの度合いが強いほど磁力線平行方向の温度非等方性が高い傾向があることを発見し、磁気圏境界層付近での発達が期待されるKelvin-Helmholtz(KH)渦との関連性を指摘した(Nishino et al. 2007a, 2007b)。そこで今回は、KH渦が発達したことが分かっているイベントを詳しく解析し、渦内部で温度非等方性が作られる様子に迫りたい。

 

2. KH渦イベント(1995年3月24日)

1995年3月24日には強い北向き太陽風磁場に晒された磁気圏境界面でKH渦が発達したことが知られている(Fairfield et al. 2000, Hasegawa et al., 2006)。このイベントでは、ジオテイル衛星が夕方〜夜側の尾部境界面付近を数時間にわたって観測しており、巻き上がった渦の内外を観測した。図1は07:54-08:10 UTのジオテイル観測を示す。このうち、07:57-08:05 UTの間のデータを、観測されたプラズマの性質によってA〜Fの6区間に分類した。領域Aでは太陽風に近い性質のプラズマを観測し、領域B〜C付近の電流層を横切って磁気圏側に入り、領域D〜Fでは太陽風起源の冷たいプラズマに加えて磁気圏起源のイオンも観測された。これらの領域で観測されたプラズマの主な特徴は以下の通りである。

(1) 太陽風から磁気圏側へ近づくにつれて、電子の温度は磁場平行方向に高くなった

(2) プロトンの各成分の温度は電流層を横切ってもほとんど変化しない。

(3) 上流側では強い北向き磁場であるが、巻き上がった渦内の太陽風側では磁場が南向き成分を持つため、磁気圏側とは互いに反平行な成分が存在する。

 

図1.

 

●渦内の分布関数

領域Dで観測されたプロトン速度分布関数の形状に着目したところ、磁場平行方向に互いに反平行なビーム成分が存在することを発見した(図2)。ビームの速さはAlfven速度程度(約130 km/s)である。この領域は渦内の電流層に比較的近いことから、巻き上がった渦の内部で磁気リコネクションが置きた結果として温度非等方性が生成されていることを示唆している。

 

図2.

 

また、渦内部では電子のみが加熱されており、それを担う物理過程として波動による電子加熱が挙げられる。過去の観測から磁気圏境界面付近ではKinetic Alfven Wave (KAW)やLower-Hybrid Drift Wave (LHDW)が存在することが分かっており、これらの波によって電子が磁力線方向に加熱されたとすれば観測を説明できる。

 

●温度相関

渦の内部から磁気圏側へと移るにつれて、プロトン・電子の両者とも温度が上昇することが分かった。これは断熱加熱を示唆する。太陽風から磁気圏側へ取り込まれたプラズマが地球方向へ移動する際に、磁力線が短くなるために磁場平行方向へ加熱されるものと考えられる(第2断熱不変量の保存による)。

●相対軌道

観測をもとに衛星の渦付近の相対軌道を描いたものが図3である。実際はほぼ静止している衛星を渦構造が横切ってゆくのだが、図では渦の系から見た衛星の軌道を描いている。水色で示したのが電流層であり、衛星は電流層を横切った後に領域Dに到達し、磁力線方向のビームを観測した。ビームの起源は今回の観測では分からないが、たとえば図に示したように衛星の上下方向で発生したリコネクションを考えると説明できるかもしれない。

 

図3.

 

3. 結論

以上の観測から次のことが示唆される。渦で乱れた場が作られることで磁気リコネクションや波動が励起され、さらに断熱的輸送も加わり、これらの複数のプロセスが互いに影響を与えながら境界層付近でプラズマを輸送・加熱しているらしい。今後は、編隊観測衛星の観測や波動データなどをもとに、さらに詳細なプラズマ輸送メカニズムに迫りたいと考えている。

 

参考文献
○ Fairfield et al., J. Geophys. Res., 105(A9), 21159-21174, doi:10.1029/1999JA000316, 2000.
○ Hasegawa et al., J. Geophys. Res., 111, A09203, doi:10.1029/2006JA011728, 2006.
○ Nishino et al., Ann. Geophys., 25, 769-777, 2007a.
○ Nishino et al., Ann. Geophys., 25, 1417-1432, 2007b.

成果公表
この成果をまとめた論文は、国際学術誌Annales Geophysicaeに受理され、出版された。
○ Nishino et al., Origin of temperature anisotropies in the cold plasma sheet: Geotail observations around the Kelvin-Helmholtz vortices, Ann. Geophys., 25, 2069-2086, 2007c.