最新研究成果

リコネクションポイントは後退している

長谷川 洋 / 助教

 

地球磁気圏の外側境界(磁気圏界面)で起きている磁気リコネクションは、太陽風のプラズマやエネルギーを磁気圏にとりこむという非常に重要な役割を担っています。これまでの観測研究から、リコネクションは数時間以上という長時間にわたって持続することがあることが知られています(図1、Frey et al., 2003)。このような長時間のあいだ、リコネクションが起きている場所(リコネクションポイント)は同じところにとどまっているのでしょうか、それとも、移動しているのでしょうか?


図1. 地球磁気圏高緯度境界での磁気リコネクションの模式図(Frey et al. [2003]の図を改編)。

 

リコネクションは磁力線が反平行に近い場所で起こりやすいと言われています。太陽風中の磁場の向きが変わると、磁力線が反平行になる磁気圏界面上の場所が移動するので、それに応じてリコネクションの発生場所も移動することは昔からよく知られています。それでは、太陽風磁場が時間変化していない時にはどうでしょう。Phan et al. [2004]の研究によると、太陽風磁場が南向きの時に現れる磁気圏の昼側前面のリコネクションポイントはほとんど動かないようです。しかし、太陽風磁場が北向きの場合のように高緯度でリコネクションが起きている場合(図1)にも、リコネクションポイントは静止しているのでしょうか? それとも、高緯度境界のすぐ外側で反太陽方向に流れている太陽風プラズマに引きずられて、リコネクションポイントは動く(後退する)のでしょうか? クラスター衛星の最近の観測データを用いた我々の研究によると、高緯度のリコネクションポイントは後退しているようです。

リコネクションが発生すると、磁場エネルギーの解放にともないプラズマが加速され、リコネクションポイントの両側の電流層中にはプラズマジェットが生成されます(図1)。このリコネクションジェットを高緯度の磁気圏界面で観測した例を図2に示します。リコネクションジェット中ではプラズマはほぼ磁力線に凍結しており、ジェットとともに動く磁力管に乗った系では、プラズマは磁力線沿いに流れています。言い換えると、プラズマの速度が磁力線に平行な成分のみになるように座標系を決めることによって、ジェット中の磁力管の移動速度を推定することができます。ここで明らかになったことは、リコネクションポイントの反太陽側の磁力管だけでなく、太陽側の磁力管も反太陽方向に動いていたということです。このことはリコネクションポイントが反太陽方向に後退していたのでない限り、説明がつきません。


図2. リコネクションジェットの証拠。負の傾き(左図)は衛星がリコネクションポイントの太陽側のプラズマジェットを観測したことを、正の傾き(右図)は反太陽側のプラズマジェットを示す。この時、太陽風磁場は北向きであった。

 

さらに分かってきたのは、後退しているリコネクションポイントの太陽側に、どうやら新しいリコネクションポイントが形成されているということです。図2右に示したリコネクションポイントの反太陽側で観測されたジェットは、後退していたリコネクションポイントの太陽側で観測されたジェット(図2左)のほんの数分後に観測されています。このことから、クラスター衛星(後退していたリコネクションポイント)の太陽側に別のリコネクションポイントが新しく形成され、この新しいリコネクションポイントの反太陽側で図2右に示したジェットが観測されたのだと推測できます。これらの結果をまとめた概念図が図3です。


図3. 観測から推測されるリコネクションポイントの動きと再形成。

 

新しいリコネクションポイントが形成されたのだとすると、リコネクションポイントは複数存在していたことになります。このような状況では、太陽方向に加速されたイオンビームと反太陽方向に加速されたビームを同時に(同じ磁力管中で)検出することも起こりえます(図3中)。このような2種類のイオンビームを観測した例が図4に示されています。


図4. 磁気圏境界層で観測された2種類のイオンビームは、リコネクションポイントが複数あった(再形成した)ことと整合的である。

 

本研究から明らかになったように、高緯度のリコネクションポイントは(たぶん太陽風が反太陽方向に流れているせいで)反太陽方向に移動しています。しかしながら、リコネクションが最も発生しやすい場所は、おそらく最初にリコネクションポイントが形成された場所付近であるがために、リコネクションポイントの後退にともなう新しいリコネクションポイントの形成は、もともとのリコネクションポイントの場所付近で起こるのではないかと考えられます(図3)。このように繰り返しリコネクションポイントを再形成することにより、観測されているような継続的な高緯度リコネクション(図1)は維持されているのかもしれません。

 

参考文献:

Frey, H. U., T. D. Phan, S. A. Fuselier, and S. B. Mende, Continuous magnetic reconnection at Earth's magnetopause, Nature, 426, 533-537, 2003.

Hasegawa, H., A. Retino, A. Vaivads, Y. Khotyaintsev, R. Nakamura, T. Takada, Y. Miyashita, H. Reme, and E. A. Lucek, Retreat and reformation of X-line during quasi-continuous tailward-of-the-cusp reconnection under northward IMF, Geophys. Res. Lett., 35, in press, doi:10.1029/2008GL034767, 2008.

Phan, T. D., M. W. Dunlop, G. Paschmann, et al., Cluster observations of continuous reconnection at the magnetopause under steady interplanetary magnetic field conditions, Ann. Geophys., 22, 2355-2367, 2004.