最新研究成果

サブストーム開始に対する大規模な電離圏対流の応答

宮下 幸長 / 研究員

 

サブストームは、地球近傍の宇宙空間で起こる大規模なエネルギー解放の過程である。サブストーム爆発相開始に伴って、磁気圏・電離圏・地上で様々な現象が相互に因果関係を持って発生する。それらの現象の徴候は、各種衛星・地上観測器で観測される。

サブストームの研究で未解決の重要問題の一つは、爆発相の開始機構である。これまで様々なサブストームモデルが提唱されてきたが、その中で、対流変化はサブストーム開始の重要な要因だとするモデルも提唱されている。ただし、あるモデルでは、大規模な減少がサブストーム開始のきっかけだと主張しているが、別のモデルでは、サブストーム開始領域での局所的な増加が重要だと主張している。(ここで、モデルでは電離圏と磁気圏の両方かどちらかの領域の対流を考慮しているが、両領域は磁力線で繋がっているため、両領域の対流は連動していると考えている。)そのため、サブストーム開始に対する対流の応答を調べることは、サブストーム開始機構の解明への一つの重要な手がかりとなる。

これまで、多くの研究により、SuperDARNレーダーや地上磁場の観測をもとに、サブストーム開始時の電離圏の対流やプラズマ流の変化が調べられてきた。しかし、変化の仕方やタイミングに関して、強まるのか弱まるのか、また、サブストーム開始の前なのか同時なのか後なのか、はっきりとした結論が得られていない。

そこで本研究では、2001年5月1日に発生した2つの弱いサブストーム事例(図1)をもとに、サブストーム開始に対する大規模な電離圏対流の応答について詳細に調べた。これらの事例では、SuperDARNレーダーは、2つの対流セルのうち朝側セルの大部分を観測していた。サブストーム開始領域は真夜中前側だったので、主にサブストーム開始領域から離れた領域を観測していたことになる。

 

図1. ポーラー衛星搭載の紫外線カメラによって観測された2つのオーロラ爆発。各パネルで、下が真夜中、左上が磁気地方時の18時である。時刻が赤色になっているパネルは、サブストーム開始時のものである。

 

解析の結果、以下のことがわかった。

(1) 電離圏対流は、2つのサブストームとも、サブストーム開始約2分前に、サブストーム開始領域から離れた、朝側セルの赤道側部分の局所的な領域でまず強まり始め、その後、朝側セル全体で強まった(図2)。電離圏対流は、爆発相中ずっと強まっていた。つまり、電離圏対流は、サブストーム爆発相開始直前に強まり始め、その後、対流セル全体で強まることが示唆される。

 

図2. SuperDARNレーダーによる北半球夜側の電離圏対流の観測。時刻が赤色になっているパネルは、サブストーム開始時のものである。プラズマ流の速さは、青から赤になるにしたがって速い。対流は、まず、サブストーム開始直前の0810と0832 UTに朝側セルの赤道側部分で強まり始め、その後、朝側セル全体で強まる(色が黄色から赤色になっていく)のがわかる。

 

(2) 尾部プラズマシートでの高速プラズマ流との対応関係を調べた結果、1つ目のサブストームでは、おそらく、高速プラズマ流が見られないプラズマシート領域の磁力線の電離圏足下付近でも、電離圏対流は強まっていた(図2の各パネル中の四角の部分と、図3の一番上のパネル)。これまでの研究から、電離圏プラズマ流は、プラズマシート中の高速プラズマ流と磁力線で繋がった場所あたりで発生すると言われている。しかし、今回の事例から、必ずしもそうではないのかもしれない。プラズマシート中の地球方向の高速プラズマ流は朝夕方向の幅が狭いと言われているが、今回観測された大規模な電離圏対流は、局所的な高速プラズマ流ではなく、もっと大規模な尾部現象と対応しているように考えられる。ここで、ローブでの対流は、今回の電離圏対流の変化と同様に、まず局所的な領域でサブストーム開始直前に強まり始め、その後、広範囲にわたって強まることが過去の研究からわかっている。したがって、大規模な電離圏対流は、この尾部の大規模な過程を反映したものと思われる。

 

図3. ジオテイル衛星による尾部プラズマシートの観測。2つの縦線はサブストーム開始時刻を示す。ジオテイル衛星を通る磁力線の電離圏での足下は、朝側セルの赤道側部分に位置していた(図2の四角)。1つ目のサブストームでは、高速プラズマ流が見られなかった(一番上のパネル)。2つ目のサブストームの爆発相では、2、3分周期の地球方向の高速プラズマ流が見られた。

 

本研究の対流に関する結果は、上で述べたこれまでのサブストームモデルで主張されてきた変化と異なっている。対流は減少するというモデルとは完全に一致しない。また、サブストーム開始領域で局所的に対流が強まるというモデルとは、今回はサブストーム開始領域から離れた領域の観測なので、はっきりしたことは言えないが、少なくとも、対流は、局所的な領域だけでなく、全体的に強まる点が異なっている。

今後の課題として、沿磁力線電流を介した磁気圏電離圏結合とサブストーム開始機構との関連について、詳細に検討する必要がある。また、プラズマシートやローブと電離圏のプラズマ流の時間空間スケールの違いや、応答の仕方の詳細についても調べる必要がある。

 

参考文献:

Miyashita, Y., K. Hosokawa, T. Hori, Y. Kamide, A. S. Yukimatu, M. Fujimoto, T. Mukai, S. Machida, N. Sato, Y. Saito, I. Shinohara, and J. B. Sigwarth, Response of large-scale ionospheric convection to substorm expansion onsets: A case study, Journal of Geophysical Research, 113, A12309, doi:10.1029/2008JA013586, 2008. (要約/本編)

この論文は、2008年12月30日の前週に、JGR-Space Physicsでトップダウンロード1位を記録しました。