最新研究成果
サブストーム開始に伴う磁気圏尾部の時間発展の最新描像
宮下 幸長 / 研究員
昼側磁気圏界面での惑星間空間磁場と地球磁場との相互作用により、太陽風のエネルギーの一部が磁気圏尾部に侵入し、蓄積する。このエネルギーが過剰になるか外的状況が変化すると、突然ある種の不安定性が発生し、エネルギーが爆発的に解放され、サブストームが発生する。この時、磁気圏では、磁気リコネクションとその結果のプラズモイドの形成・発達、高速プラズマ流、磁場双極子化、くさび形電流系の形成、静止衛星軌道付近の粒子注入など、電磁場やプラズマの擾乱が発生し、電離圏・地上では、オーロラ爆発、強い西向きオーロラ電流、Pi2脈動など、活発なオーロラや地磁気擾乱が発生する。
サブストームの発生機構は、磁気圏物理学における未解決の大問題の一つである。これまで、磁気リコネクションモデル(図1上)やカレントディスラプションモデル(図1下)など、物理過程、開始領域が異なる様々なモデルが提唱されてきた。しかし、どのモデルが正しいのか、あるいは、統合した過程が起きているのかは、数十年にわたって研究されてきたにもかかわらず、現在も激しい論争が続いている。
図1. 現在、最も有力視されている二つのサブストーム発生機構のモデル。磁気リコネクションモデル(上)とカレントディスラプションモデル(下)。
そこで、このサブストーム発生機構に関する問題の解決のために、Geotail、Polar、GOES衛星によって得られた磁気圏尾部・内部磁気圏におけるプラズマ流・磁場・電場・全圧力などの様々な物理量について、時間重畳法(superposed epoch analysis)という統計手法を適用し、2分の時間分解能で、サブストーム開始前後の磁気圏尾部全体の変化を調べた。ここで、Polar、または、IMAGE衛星によって観測されたオーロラ爆発をもとに、3787例のサブストームの開始時刻(t=0)を同定した。
この解析により、以下のような結果を得た。図2と図3は、主な解析結果である。図4は、本研究で得られた結果のまとめである。
(1) サブストーム開始の少なくとも2分前に、地球から反太陽方向に地球半径の20倍の距離だけ離れた場所(X〜−20 Re)よりも尾部側で、プラズモイドに伴って磁場南北成分が減少し始めた(図2中)。この領域では、尾部方向の高速プラズマ流はサブストーム開始直後に顕著に発達した(図2左)。
(2) X〜−20 Reよりも地球側では、サブストーム開始前後に地球方向のプラズマ流は少ししか見られなかった(図2左)。
(3) プラズモイド形成・発達とほぼ同時のサブストーム開始2分前に、X〜−7 ReからX〜−10 Reの領域では、磁場双極子化に伴い、磁場南北成分が増加し始める。その後、磁場双極子化の領域は、尾部方向、朝夕方向、地球方向の四方に拡大していく(図2中)。
(4) 全圧力(イオン圧と磁気圧の和)は、サブストーム開始2分前に、X〜−16 ReからX〜−20 Reの真夜中前の領域で最初に減少し始め、その後、周囲の領域でも減少する(図2右)。最初に全圧力が減少する領域は、X〜−5 ReからX〜−20 Reの真夜中前側に広がる、かなり引き伸ばされた磁力線の領域(図2中で、サブストーム開始前に磁場南北成分が大きく減少している領域)や強い尾部電流層(図3左で、各Xについて、全圧力が真夜中後と比べて大きい領域)の尾部側の端に対応する。一方、X〜−10 Reよりも地球側では、全圧力は増加する(図3右)。さらに詳しく調べた結果、磁場双極子化に伴って高エネルギー粒子の寄与が増加するためであることがわかった。
(5) 全圧力の減少、すなわち、エネルギー解放は、最初の全圧力減少と最初の磁場双極子化の間の領域、つまり、X〜−12 ReからX〜−18 Reで顕著である(図3右)。
図2. 地球尾部方向のプラズマ流(左)、磁場南北成分の変化量(中)、および、全圧力の変化の割合(右)。時刻t=0は、サブストーム開始(オーロラ爆発)である。変化量は、サブストーム開始10分前付近の値を基準にしている。
以上の観測結果から得られた結論は、次の通りである。
(1) 磁場南北成分の減少と全圧力の減少から、磁気リコネクションは、少なくともサブストーム開始2分前に、平均的にX〜−16 ReからX〜−20 Reの真夜中前の尾部で最初に発生する。磁気リコネクションの領域は、X〜−5 ReからX〜−20 Reの真夜中前側に広がる、かなり引き伸ばされた磁力線の領域や強い尾部電流層の尾部側の端に位置している。サブストーム開始直後にX〜−30 Re付近でプラズモイドが大きく発達する。
(2) 磁気リコネクション発生とほとんど同時に(2分時間分解能で)、磁場双極子化は、サブストーム開始2分前に、X〜−7 ReからX〜−10 Reの領域で始まり、その後、磁場双極子化の領域は四方に広がる。
(3) エネルギー解放は、磁気リコネクションと最初の磁場双極子化の間の領域で顕著である。この結果は、サブストーム発生機構の解明への手がかりとなるかもしれない。
以上のように、本研究により、サブストーム開始に伴う磁気圏尾部と内部磁気圏の発展の全体像を確立させた。磁気リコネクションと磁場双極子化の因果関係や両者の詳細な発生機構については、解明すべき大問題として残されているが、本研究で得た全体像は、今後の複数衛星の観測データに基づく、尾部発展や各物理過程の詳細な解析をする際、指針となる重要な結果である。
参考文献:
Miyashita, Y., S. Machida, Y. Kamide, D. Nagata, K. Liou, M. Fujimoto, A. Ieda, M. H. Saito, C. T. Russell, S. P. Christon, M. Nosé, H. U. Frey, I. Shinohara, T. Mukai, Y. Saito, and H. Hayakawa, A state-of-the-art picture of substorm-associated evolution of the near-Earth magnetotail obtained from superposed epoch analysis, Journal of Geophysical Research, 114, A01211, doi:10.1029/2008JA013225, 2009. (要約/本編)
この論文は、2009年1月26日の前週と2009年2月2日の前週、2009年2月9日の前週の3週連続、JGR-Space Physicsでトップダウンロード1位を記録しました。
また、この成果は毎日新聞の3月15日付けの朝刊「理系白書」に掲載されました。