最新研究成果

磁気圏尾部領域に於ける磁気島融合過程の証拠 - 観測とシミュレーションとの共同研究 -

田中 健太郎 / 研究員

 

Cluster人工衛星による磁気圏尾部領域の観測が,ダイナミックに活動する磁気リコネクション周辺領域の詳細をとらえた [1].周辺領域では,磁気島の存在を示唆するデータが得られ,その内部に複雑な磁場・プラズマ密度の空間構造が見られた.本稿では
(1)衛星観測で得られたデータと,粒子シミュレーションの結果との比較の結果を比較し,
(2)観測が捉えた磁気島がどのような時空進化を経て形成されたかを,シミュレーションによって明らかに出来た.
ことを紹介する.

1. 観測のオーバービュー

2003年8月24日 UT 18:43:04 - 18:32:12 の間に,Cluster 衛星が磁気圏尾部領域の電流層を横切った.高解像度の磁場・粒子データから以下の特徴:

(1)電流層座標がXgsm = L, Ygsm = M, Zgsm = N である,

(2)Ygsm 方向の磁場がBy,gsm = 0.5Blobe (Blobe: ローブ領域の磁場)のガイド磁場(電流層の向きと同じ方向の磁場)を持つ,

(3)電流層内部に磁気島(磁力線のループ構造を形成し,その内部にプラズマが濃く存在する領域)が存在し,その Xgsm 方向の幅が数イオン慣性長を持つ,

(4)磁気島中心で By,gsm が増大し,かつ同領域でプラズマ密度がディップ構造(凹構造)を持つ,

が抽出された.特徴(4)は本観測を最も際だたせるものであり,観測された磁気島が単なる圧縮を受けただけでは説明出来ない事を示している.

 

図1. a-e: シミュレーションによって得られた2次元構造と,バーチャル観測による磁場・密度構造.b-eにはCluster衛星が実際に観測した磁場・プラズマ密度も示されている。

 

この様な複雑な構造を内包する磁気島が形成されるためには何が必要か? リコネクションに伴う磁気島形成過程に関する過去のシミュレーション研究における結論は,二つの X-line が作り出す磁気島形成過程だった.本観測はそのような単純なモデルを用いた理解に限界がある事を暴露した.

2. シミュレーションセットアップ

多数の磁気島を作る種となる X-line が電流層に内包されている状況をモデル化する.磁気島融合過程を想定している.その時空進化の結果,観測に見合うような複雑な構造を内包する磁気島が形成される事が大いに期待される.そこで,観測事実に基づき,2次元粒子計算によるパラメータ・スタディが行われた [2].磁気リコネクション発生後の時空進化を見るため,初期設定に

(1)ガイド磁場 = By,gsm(時刻t = 0) = 0.5Blobe

(2)nm 個の X-line を形成する擾乱 (GEM (Geospace Environmental Modeling)リコネクション・チャレンジ [3]を踏襲)

が与えられた.

nm = 2, 4, 8のケースについてシミュレーションを実行し,密度ディップと磁場構造の定量的な評価を行った結果,nm = 4のケースが最も観測に一致する結果を見せた.このことから,Cluster 衛星が観測した磁気島は,4つの小さな磁気島がリコネクション初期段階にすでに形成されていたものと推測できる.

3. ガイド磁場が磁気島構造にどのような変化を与えるか?

複数磁気島が融合するとき,初期のガイド磁場強度によって異なる二つの磁場構造が磁気島内部に現れる [2].

(1) Reversed Hall type

磁気島融合時に,閉じた磁力線同士が再び再結合を始める.このとき,発生する磁場構造は,いわゆるHall磁場(イオン・電子の慣性の違いに起因する電流(Hall電流)によって作られる磁場構造)とは逆極性を持つ.この特徴が現れるのはガイド磁場が <~ 0.3Blobeの場合である.これをReversed Hall typeと名付ける.

 

図2. Reversed Hall typeの例.図の色は By,gsm を表す.ガイド磁場 = (0, 0.2, 0.3)Blobe では磁気島内部に逆極性のHall磁場構造が見られる.

 

(2) Compressed type

磁気島融合時に,初期ガイド磁場をさらに強める向きに磁場が磁気島中心で強くなる.この特徴が現れるのはガイド磁場 > 0.45Blobe の場合である.この状態を Compressed type と名付ける.

 

図3. Compressed type の例.図の色は By,gsm を表す.ガイド磁場 = (0.45, 0.5)Blobe では,磁気島中心に磁束の集中が見られる.

 

4. 観測データはどのような磁気島融合を見たのか?

観測事実を振り返ると,磁気島本体は非常に活発で複雑でありながら,組織化された構造を内包していた.その特徴は上記観測オーバービューで示したとおりである.シミュレーション結果と併せて考えると,Compressed type に属し,ガイド磁場 = 0.5Blobe が示すような密度・磁場構造であった.

[2] はnm = 8ではこの様な組織化された構造は見えず,かつnm = 2だと単なるReversed Hall typeに属す,と報告している.

 

図4. リコネクション磁場(電流層をつらぬく磁場成分)を波長毎の強度でみた磁気島融合の時間発展.黒太線は磁気島2個を作る磁場強度,黒波線は磁気島1個を作る磁場強度を表す.図1で見せた時刻はまさに磁気島2個から1個へ磁気島が成長した直後の状態(磁気島融合の最終状態)を示している.

 

二つの X-line からではなく,三つ以上の X-line(つまり,磁気島融合)から成熟し,最終的な大規模磁気島が形成される事例が,本報告でなされた.複数 X-line による大規模磁気島発展の研究はまさに始まったばかりである.本稿では磁場・密度構造に焦点を当てたが,複数 X-line が電子加速の引き金役を演じている事が近年脚光を浴びている.此に関しては [4] を参照されたい.

 

参考文献:
[1] Retino, A., et al. (2008), Cluster observations of energetic electrons and electromagnetic fields within a reconnecting thin current sheet in the Earth's magnetotail, J. Geophys. Res., 113, A12215, doi:10.1029/2008JA013511.
[2] Hayakawa, T. (2007), Development of magnetic reconnection through coalescences of magnetic islands, Master thesis, Tokyo Institute of Technology, JAPAN.
[3] Birn, J., et al. (2001), Geospace Environmental Modeling (GEM) Magnetic Reconnection Challenge, J. Geophys. Res., 106, 3715-3719.
[4] Pritchett, P. L. (2008), Energetic electron acceleration during multi-island coalescence, Phys. Plasmas, 15, 102105, doi:10.1063/1.2996321.