最新研究成果
波打つ磁気圏境界面での磁気島形成
長谷川 洋 / 助教
地球の磁気圏境界面は、太陽から降り注ぐ荷電粒子―太陽風―をさえぎる傘のような役目を担っています。この境界面は、太陽風中の磁場が北向き、すなわち低緯度での地球磁場と同じ方向を向いている時に、より強力な傘になると考えられていました。ところが近年の衛星観測から、太陽風磁場が北向きの時でさえ、大量の太陽風粒子が昼側前面の磁気圏境界面をつらぬいて、磁気圏に入り込んでいることが明らかになりました(Oieroset et al., 2008)。一方、私たちは、境界面が波打っている時には磁気圏わき腹の境界面にも穴があくことを発見しました(Eriksson et al., 2009)。ここで紹介するのはその発見の概要です。
2007年2月に米国から打ち上げられた5機のTHEMIS衛星は、2007年6月8日06:45 UT頃、数珠つなぎになって午後側の磁気圏境界面を通過しました(図1)。最も地球から離れたところにいたTHEMIS-A衛星(TH-A)は、06:50 UT以降、ほぼ周期的に何度も磁気圏境界面を通過しました(図2)。地球からこの距離にある衛星は、10分程度の時間スケールではほぼ静止しているとみなすことができるので、このような複数回の境界面通過は境界面が波打っていたために起きたと考えられます。
図1. 2007年6月8日06:45 UTでのTHEMIS衛星5機の位置を赤道面に投影した。太陽は右側にあり、白い曲線は太陽風の観測データから推定された磁気圏境界面の位置を示す。
図2. 06:40-07:20 UTのTHEMIS-A衛星の観測。上から、イオンのエネルギースペクトル、平均的な境界面に垂直な方向の磁場成分、全圧(磁場圧+イオン圧)を示す。磁場の双極的な振動は磁気島の存在を示唆している(赤い点線で印したものが例)。LLBLは境界面のすぐ内側に位置する磁気圏の一領域であり、magnetosheathとPDLはバウショック下流に位置する加熱された太陽風の領域である。
興味深いのは、TH-A衛星が磁気圏側(LLBL)から太陽風側(PDL)へと境界面を横切った時に(境界面が衛星を通り過ぎて地球の方へと動いた時に)、磁場の双極的な変動が何度も観測されたことです(図2中の赤い点線)。このような磁場の変動は、「磁気フラックスロープ」あるいは「磁気島」と呼ばれる、らせん状の磁力線の束を衛星が通過したと考えるとうまく説明できます。この「磁気島」は磁気圏境界面上で局所的に磁気リコネクションが発生した時に形成され、境界面上の穴となります。
さらに私たちは、TH-A衛星の観測データを用いて、図2に示した最初の磁気島(と仮定したもの)をとりまく磁気圏境界構造の二次元像を作成しました(Teh and Sonnerup, 2008、図3)。確かに直径1000 kmぐらいの磁気島が形成され、ほぼ同じ大きさの渦と共存していたことが分かります。また、磁気島や境界面の波は平均的な磁気圏境界面に沿って反太陽方向へと移動していました。
図3. TH-A衛星が0653:40 UTに観測した磁気島の構造。太陽は右側にあり、地球は下側にある。上のパネルは再現されたプラズマ流線(曲線)と温度(色)を、真ん中のパネルは再現された面内磁場(曲線)と紙面垂直磁場(色)を示す。白い矢印は実際に観測された速度と磁場ベクトル。
今回磁気島が観測されたのは、TH-A衛星が磁気圏側から太陽風側へと境界面を通過した時、すなわち波打つ境界面の太陽に面する部分であるということから、私たちは次のようなシナリオを提示しました(図4)。
@ 境界面の波打ちに伴うプラズマの流れ(渦流)により太陽に面する側の境界面(電流層)が押しつぶされる(Nakamura et al., 2008)。
A 押しつぶされた電流層で磁気リコネクションが発生する。
B 磁気リコネクションの結果として、磁気島が生成される(境界面に穴があく)。
図4. わき腹磁気圏境界面における磁気島形成の模式図。黒丸は磁気島を示す。
今回発見された磁気圏境界面の割れ目(磁気島)は小さく、それ単体では大した太陽風粒子の流入をもたらさないかもしれません。しかしもしも似たような割れ目が頻繁に発生し、磁気圏わき腹の境界面上にいくつも存在しているとしたら、その全体としての寄与は無視できないことでしょう。また今回のような観測例をさらに詳しく調査することで、境界面の波打ちに伴うプラズマ流(渦流)がある中で、磁気リコネクションがどのように成長し、止まるのか解明できることを期待しています。
本研究成果はTHEMISのホームページにも紹介されています。
参考文献:
Eriksson, S., H. Hasegawa, W.-L. Teh, et al. (2009), Magnetic island formation between large-scale flow vortices at an undulating postnoon magnetopause for northward interplanetary magnetic field, J. Geophys. Res., 114, A00C17, doi:10.1029/2008JA013505.
Nakamura, T. K. M., M. Fujimoto, and A. Otto (2008), Structure of an MHD-scale Kelvin-Helmholtz vortex: Two-dimensional two-fluid simulations including finite electron inertial effects, J. Geophys. Res., 113, A09204, doi:10.1029/2007JA012803.
Oieroset, M., T. D. Phan, V. Angelopoulos, et al. (2008), THEMIS multi-spacecraft observations of magnetosheath plasma penetration deep into the dayside low-latitude magnetosphere for northward and strong By IMF, Geophys. Res. Lett., 35, L17S11, doi:10.1029/2008GL033661.
Teh, W.-L., and B. U. O. Sonnerup (2008), First results from ideal 2-D MHD reconstruction: magnetopause reconnection event seen by Cluster, Ann. Geophys., 26, 2673-2684.