最新研究成果

オーロラ加速域内のプラズマ流と慣性アルフベン波の生成

浅村 和史 / 助教

 

オーロラ加速域内ではプラズマ波動の一種である慣性アルフベン波が観測されます。慣性アルフベン波はオーロラ微細構造を作り出す原因となるのではないか、とする推測があります。しかし、その成因は解明されていません。

れいめい衛星によって観測された電子構造に慣性アルフベン波の兆候が見られた際、衛星と同一磁力線上にある磁力線フットプリント領域で高速移動するオーロラ発光構造が観測されました。発光構造は東西にのびた2本のアーク状で、数km程度の空間スケールを持つ微細構造がアークに沿った方向に動いていました。

この発光構造がオーロラ加速域のプラズマ構造の運動を示していると考えると、オーロラ加速域内ではプラズマのシアー(速度差をもった)運動が微細なスケールで存在していることになります。シアー運動によって慣性アルフベン波が生成され、オーロラ微細発光構造の生成に寄与しているかもしれません。

 

図1(動画)はれいめい衛星が観測したオーロラアークです。東西に伸びた 2本のオーロラアークが捉えられています。このオーロラアークを細かく見るとそれぞれ極側と赤道側に分けられます。アーク中には微細な発光構造があり、アークの極側では東方向に、赤道側では西方向に 15km/s ほどの速度で高速移動しています。このような極側で東向き、赤道側で西向きの発光構造の移動は、オーロラ加速域内に U型ポテンシャル構造を考えた時の電場(ExB)ドリフト方向と一致しています。このため、何らかの形で電場構造が発光構造の移動に関わっているのではないかと考えられています。

 

図1/動画1 観測されたオーロラアーク。図中の番号は撮影時間順を示しています。黄色の点線はオーロラ発光高度に対応させたれいめい衛星の軌道、×は衛星位置となっています。オーロラ発光高度に対応させると撮像領域は 66km x 66km。上方向が北、右方向が東。北半球での観測のため、北は極方向となります。

 

図1(または動画1)のオーロラが観測された際、上空では時間とともにエネルギーが低下してゆくエネルギー時間分散構造をもった電子が観測されました(図2a の 10:06:15.1 - 15.4 UT 付近)。このような磁力線方向に収束し、エネルギー時間分散構造をもった電子は、オーロラ帯上空ではよく観測されます。この構造のエネルギー変化の時間スケールは 0.5秒程度で、エネルギー範囲は 10-500eV 程度です。高速の電子が時間的に早く現れ、遅い電子が後に出現することは、観測点より上空での電子加速を示すだけではなく、その加速のされ方に制限があることも示しています。過去のロケット/衛星観測から、この電子構造と同時に電磁場変動も検出されており、アルフベン波による電子の沿磁力線方向加速がエネルギー時間分散構造の成因ではないかと考えられています。

 

図2: 観測された電子 E-t (Energy-time diagram)図。(a) 磁力線方向下向き、(b) 磁力線垂直方向、(c) 磁力線方向上向き、(d) ピッチ角分布 (50-500eV)、(e) エネルギー流入量(実線: 1000 - 12000eV、点線: 10-1000eV)。

 

今回は、電子構造が観測された領域と磁力線でつながった(磁力線フットプリント)領域にオーロラアークが存在し、アーク中の微細発光構造(数km の空間スケール)が高速移動している例が観測によって確認されました。これまではオーロラ発光と電子の同時観測が難しく、電子構造とオーロラ発光構造とを対応させて観測することが困難でしたが、衛星にオーロラカメラと電子観測器の両方を搭載し、高時間・高空間分解能観測を行うことで実現したものです。しかし、アルフベン波と微細発光構造が高速移動するオーロラアークとの間に関連があるとしても、なぜ関連するのかはわかりません。

今回の観測では、高速移動する発光構造が観測されたため、オーロラ加速域内でプラズマが高速移動しており、それがオーロラ発光構造として表れている、と考えました。こうすると、オーロラ加速域内のプラズマ運動は一様ではなく、距離が数km 程度離れると速度が 10km/s のオーダーで変わるシアー流の状態になっていると考えられます。このようなシアー流は、ある一定の不安定条件を満たすとプラズマ波動を励起できると考えられています (Wu and Seyler, 2003)。オーロラ加速域のプラズマを水素イオンと酸素イオンの混在プラズマと仮定し、観測されたシアー流速(の水平方向の変化量)を考えると、k (波数)ベクトルはほぼ磁力線垂直方向向きとなり、過去のオーロラ帯観測衛星でのアルフベン波観測例と符合します。

一方、オーロラ加速域のプラズマ密度を考える場合、アルフベン波の水平方向(磁力線垂直方向)の空間スケールは数km 程度になり得ます。そして、このことからアルフベン波による電子の加速・減速はオーロラ微細発光構造の生成メカニズム候補に挙げられています。実際には、数 keV 程度の降り込み電子が生成されたアルフベン波によって加速・減速され、結果として発光構造に微細な濃淡ができる効果もあるのではないかと考えています。

以上の結果は Asamura et al. (2009)にまとめられています。

 

参考文献:

Asamura, K., C. C. Chaston, Y. Itoh, M. Fujimoto, T. Sakanoi, Y. Ebihara, A. Yamazaki, M. Hirahara, K. Seki, Y. Kasaba, and M. Okada, Sheared flows and small-scale Alfven wave generation in the auroral acceleration region, Geophys. Res. Lett., 36, L05105, doi:10.1029/2008GL036803, 2009.

Wu, K. and C. E. Seyler, Instability of inertial Alfven waves in transverse sheared flow, J. Geophys. Res., 108, doi:10.1029/2002JA009631, 2003.