最新研究成果

水星大気と惑星間空間ダスト分布

亀田 真吾 / 研究員

 

水星大気は非常に希薄であり、地表面での気圧は地球大気の1兆分の1程度です。これまでに探査衛星や地上望遠鏡を用いて行なわれた観測により、大気中に水素、ヘリウム、酸素、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムが存在することが分かっています。これらの中でもナトリウムは大気中の密度が高く、発光効率も高いため、1985年に発見されてから最も多く観測されてきています。水星大気は、「太陽紫外線による光脱離」「太陽風イオンによるスパッタリング」「隕石衝突による気化」によって地表面の物質が放出されることによって生成されると考えられています。しかし、最も生成量が多い放出過程はまだ分かっていません。放出過程の模擬実験では光脱離の生成量が最も多いという結果が得られていますが、水星大気が全球一様ではなく高緯度に濃集しているという観測結果からは太陽風イオンスパッタリングによる生成量が最も多い、という説もあります。これらの説を検証するために私たちはこれまでに行なわれた水星ナトリウム大気密度の観測結果(Potter et al., 2007; Kameda et al., 2009)と、その時の太陽水星間距離、太陽フラックス(F10.7)、太陽黒点数を比較しました(図1)。太陽光フラックス、太陽風フラックスの平均値は、太陽からの単位面積あたりの流量が時間に依存しないと仮定した場合は、どちらも水星太陽間距離の-2乗に比例するため、光脱離や太陽風イオンスパッタリングによる放出量は水星が太陽に近いほど多くなり、遠ざかるにつれて減少します。しかし、大気密度と水星太陽間距離との相関はほとんどありませんでした(図1a)。また、F10.7はEUV/UVフラックスと相関が高いことが分かっており、光脱離による放出量が多い場合はF10.7値が高いほど水星大気密度も高くなると考えられますが、こちらも相関はほとんどありません(図1b)。また、太陽黒点数とも相関はほとんどなく(図1c)、太陽活動が活発で太陽風フラックスが増加すると思われる時期に水星大気密度が上昇するというわけでもないようです。

 

図1. 水星大気密度と水星太陽間距離(a)、F10.7(b)、太陽黒点数(c)

 

そこで本研究で私たちは水星の軌道傾斜角が大きい(太陽系惑星の中で最大である)ことに着目し、水星と黄道面の距離と大気密度の関係を調べました。惑星間空間ダストは黄道面付近を中心に分布しており、水星の軌道面はそれに対して傾いているため、ダストが集中する平面(ダスト対称平面と呼びます)と水星が近い場合は水星に衝突するダストの量が増加し、遠ざかると減少することが考えられます。もし、大気密度に対する隕石衝突の気化の寄与が大きい場合、ダスト対称平面と水星の距離に応じて大気密度が変化することになります(図2)。そこで過去に行なわれた地球近傍からの黄道光観測を基に作られたダスト分布モデルを利用して、ダスト対称平面と水星間の距離との相関を調べたところ、相関係数は0.6以上と強い相関を示すことが分かりました(図3)。これまで、「隕石衝突による気化」の効果についてはあまり研究が進んでいませんでした。これは水星近傍での惑星間空間ダストの分布がよく分かっていないことが原因です。惑星間空間ダスト分布は黄道光の観測によって調べられてきていますが、水星が太陽に近いため水星近傍の分布を捉えることはできていませんでした。しかし、本研究の結果は水星大気中のナトリウムが発する光を観測することで、惑星間空間ダストの分布が推測できる可能性を示しています。私たちのグループでは水星大気密度と惑星間空間ダストの関係を明らかにするため、今後も観測を継続していきます。

 

図2. 惑星間空間ダストの対称平面と水星大気

 

図3. ダスト対称平面からの水星の距離と水星大気密度

 

参考文献:

Kameda, S., I. Yoshikawa, M. Kagitani, and S. Okano (2009), Interplanetary dust distribution and temporal variability of Mercury's atmospheric Na, Geophys. Res. Lett., 36, L15201, doi:10.1029/2009GL039036.

Potter, A. E., R. M. Killen, and T. H. Morgan (2007), Solar radiation acceleration effects on Mercury sodium emission, Icarus, 186, 571-580, doi:10.1016/j.icarus.2006.09.025.