最新研究成果

真夏の磁気リコネクション

長谷川 洋 / 助教

 

地球の自転軸(地軸)は公転面の法線に対して約23.4°傾いており、このために地球上のある緯度帯には四季がもたらされます。さらに地球の双極子磁場の軸(磁軸)は地軸に対して約11°傾いているので、地球磁気圏の現象や関連する低高度での現象にも季節依存性が生じることがあります。実際、地上で測った磁場の活動度は夏や冬よりも春や秋に高くなることが知られており、磁気圏前面での磁気リコネクション―太陽風磁場が南向きの時に頻発する―の起こりやすさや効率と季節との関連が長年にわたって議論されています(e.g., Yoshida, 2009)。

 

図1. 北半球が真夏で太陽風磁場が北向きの時の磁気圏構造。太陽風と磁気圏の相互作用の電磁流体(MHD)シミュレーションの結果(Li et al., 2009)。

 

一方、太陽風磁場が北向きの時に発生するリコネクション―高緯度リコネクション―も磁軸の傾き(磁軸と太陽風速度ベクトルとがなす角)に依存するのではないかと予測されています。図1は、北半球が真夏で太陽風磁場が北向きの時の磁気圏をシミュレーションした結果です。開いた地球磁場の領域(ローブ)は北半球で昼側にせりだすような形になるために、太陽風磁場は最初に北半球の磁力線とリコネクションを起こします。リコネクションはプラズマを加速するので、リコネクションポイントの南側では南向きのイオンジェットと、南向き(磁力線と反平行)に流れる電子が観測されると予測されます。このような特徴をもつ開いた磁力管の一部は、のちに南半球でもリコネクションを起こし、閉じた磁力管になると考えられます。この閉じた磁力管中には大量の太陽風プラズマが取り込まれることになるので、両半球での高緯度リコネクションは、効率よくプラズマを磁気圏に輸送し、高密度のプラズマシートや強いリングカレントの形成に寄与しているのではないかと指摘されています。それゆえに私たちは、高緯度リコネクションの特性を明らかにすることは必須であり、これが磁気圏現象の季節依存性をもたらしているかどうかは興味深い問題であると考えています。しかしながら、シミュレーションから予測される南向きのイオンジェットの確かな証拠はなく、磁軸が大きく傾いている時に高緯度リコネクション、そしてそれによって形成される磁気圏境界層がどのような性質を持つのかは不明でした。

 

図2. 2008年7月11日のTHEMIS衛星5機の赤道面での配置。

 

北半球の夏至に近い2008年7月11日、5機からなるTHEMIS衛星は南向きのイオンジェットを同定し、その特性を明らかにするのに最適な配置にありました(図2)。太陽風、磁気圏のすぐ前面のシース領域、そして磁気圏境界層がすべて同時に観測され、さらに地球よりの3衛星(TH-A、TH-D、TH-E)は異なる経度で境界層を通過するという幸運な状況にあったのです。この多点観測から、以下の事実が判明しました:

1.イオンジェットは、約100 km/sの南向きの速度をもっており(図3dの青線)、低温(1 keV以下)かつ高密度(1 /cc以上)である(図3c)。

2.イオンジェットは経度方向に少なくとも地球半径の3倍以上の広がりをもつ。

3.イオンジェットの領域のすぐシース側(境界層のすぐ外側: 図3bではMSBLと表示)では、南向きの加速電子流が観測される。

4.イオンジェットの領域の大部分は、閉じた磁力管上にある(図3a,bで、磁力線平行方向の電子フラックスと反平行方向の電子フラックスは、全エネルギー帯でほぼ釣り合っている)。

5.低温高密度境界層の厚みは地球半径の半分以下である。

 

図3. 2008年7月11日のTHEMIS-E(TH-E)衛星の観測。(a, b) 磁力線と平行方向、および反平行方向に流れる電子のエネルギースペクトル。(c) イオンのエネルギースペクトル。(d) LMN座標系(図2参照)でのイオンの速度。

 

結果1〜3はシミュレーションの予測と一致していますが、結果4,5はシミュレーション結果と矛盾します。シミュレーションは、イオンジェットの領域の大部分は開いた磁力管上にあること、境界層の厚みは地球半径程度かそれ以上になることを予測していたからです。結果4は、高緯度リコネクションの平均的な効率が南北半球でほぼ等しいことを示唆します。磁軸の傾きが大きいにもかかわらずリコネクション率の南北半球の差がほとんどないというのは不思議に思われます。また、境界層の厚みが異なるということは、プラズマの流入・輸送過程の詳細がシミュレーションとは異なるということであり、今後の解明が待たれるところです。このように、実際の宇宙空間で何がどのように起きているかを解き明かすためには、観測と細部にいたるまで比較することによって、理論・シミュレーションモデルをテストするというアプローチが不可欠であると考えています。

 

参考文献:

Hasegawa, H., J. P. McFadden, O. D. Constantinescu, et al., Boundary layer plasma flows from high-latitude reconnection in the summer hemisphere for northward IMF: THEMIS multi-point observations, Geophys. Res. Lett., 36, L15107, doi:10.1029/2009GL039410, 2009.

Li, W., J. Raeder, M. Oieroset, and T. D. Phan, Cold dense magnetopause boundary layer under northward IMF: Results from THEMIS and MHD simulations, J. Geophys. Res., 114, A00C15, doi:10.1029/2008JA013497, 2009.

Yoshida, A., Physical meaning of the equinoctial effect for semi-annual variation in geomagnetic activity, Ann. Geophys., 27, 1909-1914, 2009.