最新研究成果
磁気圏境界渦の発生、成長、そしてその成り行き
長谷川 洋 / 助教
人間は本能的に渦やらせん状の構造に魅了されるように思います。台風や竜巻などの気象現象、オーロラのスパイラル構造、DNAの二重らせん構造、巻き貝、そしてソフトクリーム! 宇宙空間にも降着円盤、強重力天体から極方向にのびる宇宙ジェット、太陽コロナ中の磁気フラックスロープなど、似たような構造はいたる所に存在します。ここでは、太陽風磁場が北向きの時に地球磁気圏の外側境界である磁気圏境界面で成長するケルビン・ヘルムホルツ(KH)の渦について、ジオテイル衛星とクラスター衛星の同時観測から明らかになったことを紹介します。
ケルビン・ヘルムホルツ不安定(KHI)は、流体が速度差をもって流れているときに速度勾配層で成長する不安定です。身近なところでは、風が吹いている時に水面に発つ波や、雲層に時々見られる渦巻などがそれです。磁気圏境界面でのKHIは、太陽風のエネルギー、運動量、プラズマを磁気圏へと輸送するのに一役買っていると考えられていますが、その発生過程、成長過程、そしてそれが最終的にもたらすものについてはまだ多くの謎が残されています。それらの一端について本研究から判明したことをまとめると、次のようになります。
1.磁気圏境界面のKHIは、低緯度境界層(LLBL)―太陽風起源の高密度プラズマの侵入によって形成された磁気圏境界面のすぐ地球側の領域―がもともと昼側に存在するおかげで不安定化する(図1)。このLLBLは太陽風磁場が北向きの場合には高緯度での磁気リコネクションによって形成されると考えられるので、高緯度リコネクションがKHIを不安定化する条件を作り出していると言える。
図1. 太陽風磁場が北向きの時の磁気圏境界ケルビン・ヘルムホルツ渦の発生についてのモデル(Hasegawa et al., 2009)。
2.ジオテイル衛星が観測した磁気経度15時のLLBLでは、KH波らしきものは同定されなかった。これはKH渦が磁気経度15時よりも尾部側で成長し、磁気経度19時にいたクラスター衛星によって同定されるに至ったことを示す。
3.観測されたKH渦の波長は、KHIの線形理論から予測される最大成長モードの波長よりも長く、4万km(地球半径の6倍)程度である(図2)。したがって実際のKH渦の波長は、磁気圏境界面の外側に存在するプラズマや磁場の擾乱の特性に依存して決定されるのではないかと考えられる(図1)。
図2. 圧縮性の流れ関数についてのグラッド・シャフラノフ型方程式(Hasegawa et al., 2007)を用いてCluster-1(C1)衛星の観測から再現された境界渦中の流線構造。
4.KH渦の支配的な一波長の中に、二個(複数)の渦が存在していた(図2)。これはKH渦の非線形発展の結果として、一個の支配的な渦が二個の渦に分裂した(エネルギーカスケードが起きている)ことを示唆している。
5.巻き上がった(非線形発展した)KH渦のへりで、イオンの慣性長(100 km)の数倍程度の厚みの電流層が形成され、そこで磁気リコネクションが発生していた(図3)。磁気リコネクションは電子を電子のアルフヴェン速度(4000 km/s)程度まで加速しているようである。
図3. (a) 二次元二流体シミュレーションによって得られた非線形段階でのKH渦の構造(Nakamura et al., 2008)。(b) 巻き上がった渦のへりで同定された磁気リコネクションの模式図。
6.同定された渦のへりでの磁気リコネクションは、十分に発達しておらず、大規模な太陽風プラズマの輸送を引き起こしているとは考えにくい。したがって、クラスター衛星が夕方側の磁気圏わき腹(X = -4 Re)で観測したLLBLは、KH渦に伴うリコネクション以外の物理機構によって形成されたと考えられる。
参考文献:
Hasegawa, H., B. U. O. Sonnerup, M. Fujimoto, Y. Saito, and T. Mukai (2007), Recovery of streamlines in the flank low-latitude boundary layer, J. Geophys. Res., 112, A04213, doi:10.1029/2006JA012101.
Hasegawa, H., A. Retino, A. Vaivads, et al. (2009), Kelvin-Helmholtz waves at the Earth’s magnetopause: Multiscale development and associated reconnection, J. Geophys. Res., 114, A12207, doi:10.1029/2009JA014042.
Nakamura, T. K. M., M. Fujimoto, and A. Otto (2008), Structure of an MHD-scale Kelvin-Helmholtz vortex: Two-dimensional two-fluid simulations including finite electron inertial effects, J. Geophys. Res., 113, A09204, doi:10.1029/2007JA012803.