最新研究成果
高速磁気リコネクショントリガーにおけるイオン温度非等方性の役割
田中 健太郎 / 研究員
イオンスケール電流シート内で発生する爆発的磁気リコネクションの新たなメカニズムを探求し、3次元大規模粒子計算 (Particle-in-Cell法) を行った。その結果、イオンスケール電流シートで、イオン温度非等方性の存在によって磁気リコネクションの爆発的発生が復活し、さらに最終的なエネルギー解放量も増加させることが明らかになった。
<導入>
地球周辺の宇宙空間には、太陽から吹き出す高速の磁場・プラズマの流れ(太陽風)が地球に到達する。太陽風は地球固有の磁場の存在によって直接的に地球へ吹き付けられない。地球磁場が支配的な領域を地球磁気圏と言う。地球磁気圏の深部では太陽風由来の磁場エネルギーが蓄積される領域(電流シート)があり、間接的に地球磁気圏内部に太陽風エネルギーが注入される。ある条件が成立すると地球磁気圏深部で爆発的なエネルギーが解放されることが知られている。これは電流シート内で発生する、磁力線再結合(磁気リコネクション)過程として知られている[1,2]。
近年、電流シート内での電子温度非等方性がトリガー過程に関与することが分かってきた [3,4]。リコネクショントリガーは電流シートの厚みに強く依存することが知られている [5,6]。電流シートがある程度分厚くなると、磁気リコネクションは発生するものの、爆発的なエネルギー解放が不可能になる。これは、電子温度非等方性がリコネクショントリガーを促進しづらくなるからである。
爆発的エネルギー解放を復活するメカニズムを探すため、独自の視点で3次元大規模粒子計算 (Particle-in-Cell法) を行った。その中では、電子温度非等方性のみならずイオン温度非等方性を考慮し、その後のリコネクション活動をモニターした。その結果、イオンスケール電流シートであっても、イオン温度非等方性の存在によって磁気リコネクションの爆発的発生が復活し、さらに最終的なエネルギー解放量も増加させることに成功した。本稿では爆発的磁気リコネクショントリガー問題を電子・イオン温度非等方性を考慮することで、イオンスケール電流シートでの大規模磁気リコネクショントリガー過程を紹介する。
本研究ではイオン慣性長程度の厚みを持った電流シート内で、(1)空間3次元性によって生じるLower-hybrid drift不安定性 [7,8](2)イオン温度非等方性の存在、が磁気リコネクションを爆発的にトリガー可能かどうかを調査することを目的とする。
<結果>
図1は、リコネクションによる磁束の時間変化を示している。3次元と2次元計算を比較している。初期のイオン温度非等方性によって色分けしている。初期の電子温度非等方性は2である(橙色については電子・イオン温度非等方性を1としている)。破線の灰色補助線は十分に発達した時の磁束(ローブ領域の磁束)を表す。実線の灰色補助線は電流シートの磁束を表す。各線が破線灰色補助線を越えた時、リコネクションは十分に発達したと見なす。この図の場合、初期イオン温度非等方性が1.5を上回る場合に相当する。
図1. リコネクションによる磁束の時間変化。3次元と2次元計算を比較している。初期のイオン温度非等方性によって色分けしている。初期イオン温度非等方性が1.5を上回る場合に大規模なリコネクションがトリガーされる。
この図の結論として、2次元の計算結果によれば、イオン温度非等方性が大きなリコネクションレート(線の傾き)・大きなリコネクションピーク値(線の頂点)を与える。さらに、3次元系を仮定すると、lower-hybrid drift不安定性が電流層構造を変化させ、電流層中心構造が乱流状態になる。その結果、テアリング不安定性の成長率が上昇する。
図2は、初期イオン温度非等方性が(b)存在する場合と(a)存在しない場合の比較を示している。パネルa, bはイオンガス圧力を色で、磁力線を黒線で表している。パネルa, bの時刻は、リコネクションによる磁束溜まりが電流シートの磁束まで成長した時刻である。従って磁気島内部の磁束の溜まりは同じである。一方、イオンガス圧の空間分布に違いが見られる。パネルaでは、磁気島内部にイオンガス圧が充満している。一方、パネルbでは、磁気島内縁にイオンガス圧の2瘤ピークが見られる。パネルcは3次元イオン温度非等方性2の計算結果を示していて、電流シート中心に沿ったイオンガス圧の時空進化を表している。図1との比較により、リコネクションのピークはイオンガス圧ピークが磁気島中心に到達した後に達成されていることが分かる。磁束溜まりとイオンガス圧再配置の時間差が、より高いリコネクションレベルの達成の為の鍵であることが分かる。すなわち、より大規模なリコネクションを達成するためには、電流シート内の磁気島がより大きく圧縮されることが要求される。もしそれが達成されたら、磁気島中心部により大きな磁束を詰め込むことが可能になる。
図2. 初期イオン温度非等方性が(b)存在する場合と(a)存在しない場合の比較。パネルcは3次元イオン温度非等方性2の計算結果で電流シート中心に沿ったイオンガス圧の時空進化。パネルb, cから、リコネクションのピークはイオンガス圧ピークが磁気島中心に到達した後に達成されている。
そのような状況を図3で模式的に表している。2つの磁気島による磁気島融合が2つの磁気島の間にあるリコネクション領域を消去する様子を表している。この様な状況はアンチリコネクションと呼ばれる。アンチリコネクションは磁場とプラズマの力のバランスに寄与する。ダイナミックな磁気島融合が可能になるには、磁気島内部空間が磁束をためるのに十分大きく、さらにプラズマガス圧が磁束を磁気島内部へと輸送する事が要求される。
図3. ダイナミック磁気島融合の模式図。
<議論>
もしイオン温度非等方性とLower-hybrid drift不安定性が協同して高速磁気リコネクショントリガーを達成することができたならば、新たな高速磁気リコネクショントリガーのタイプが発見されることになる。この結果が正しければ、実際の地球磁気圏尾部で見られる、イオンスケール電流シートでの磁気リコネクショントリガーの最有力候補機構となるだろう。
この成果の詳細は、
Tanaka, K. G., et al. (2010), On the peak level of tearing instability in an ion-scale current sheet: The effects of ion temperature anisotropy, Planetary and Space Science, doi:10.1016/j.pss.2010.04.014.
に掲載されています。
<参考文献>
[1] Runov, A. et al. (2008), Observations of an active thin current sheet. J. Geophys. Res., 113, A07S27.
[2] Sergeev, V. A. et al. (1990), Current sheet thickness in the near-Earth plasma sheet during substorm growth phase. J. Geophys. Res., 95(A4), 3819-3828.
[3] Karimabadi, H. et al. (2004), Role of temperature anisotropy in the onset of magnetic reconnection. Geophys. Res. Lett., 31, L18801.
[4] Ricci, P. et al. (2004), Influence of the lower hybrid drift instability on the onset of magnetic reconnection. Phys. Plasma, 11, 4489-4500.
[5] Haijima, K., et al. (2008), Electron temperature anisotropy effects on tearing mode in ion-scale current sheets. Adv. Space Res., 41, 1643-1648.
[6] Tanaka, K. G. et al. (2009), A route to explosive large-scale magnetic reconnection in a super-ion-scale current sheet. Ann. Geophys., 27, 395-495.
[7] Huba, J. D. et al. (1980), Lower-hybrid-drift instability in field reversal plasmas. Phys. Fluids, 23, 552-561.
[8] Daughton, W. et al. (2004), Nonlinear Evolution of the Lower-Hybrid Drift Instability in a Current Sheet. Phys. Rev. Lett., 93, 105004.