最新研究成果
木星極域における周期的高エネルギー粒子と電波バースト
木村 智樹 / プロジェクト研究員
1. 木星極域における周期的粒子加速
木星の粒子加速の中で最も速く強力な加速過程の1つが「周期的粒子加速現象」です。これは、電子や陽子が、極域の磁力線沿い反木星方向に40分程度の周期性で、相対論的な速さ(光速の99.9%以上)まで加速されるバースト現象です。惑星放射線帯に匹敵する高エネルギーまで、非常に短時間で加速されるこの現象は、観測数が2,3例と非常に少なく、加速域の位置や物理機構は全く明らかになっていません。また、電子のバースト現象に同期して、数100kHz以下の低周波で準周期的電波バースト現象(QPバースト)が観測されています(e.g., MacDowall et al., 1993)。この電波に関しても、放射源位置や発生機構など、周期的粒子加速に繋がる重要な特性はまだ明らかになっていません。粒子加速・電波に関連して、極域オーロラにも周期性が検出されています。特にX線オーロラでは、チャンドラ衛星によって、高エネルギー重イオン発光の45分周期の明滅が極冠領域に確認されました(Gladstone et al., 2002)。これは、周期的粒子加速やQPバーストの周期にとても近く、関連性が強く示唆されています。
図1: ガリレオ探査機で検出されたQPバーストの典型例。
本研究では、周期的粒子加速過程の解明を目的に、データ量が豊富にあるQPバーストに注目したアプローチをとっています。QPバーストの励起・伝搬過程の解明を試みる事で、周期的粒子加速過程を制約するのが目標です。本研究は現在までに、観測データの統計に基づいた出現特性解析と電波伝搬モデリングから、放射源位置や電波の指向性を明らかにしました。これらの研究結果を受け、今回の研究では、理論や電波観測に基づき電波現象の放射機構の解明や、周期的粒子加速過程のシナリオ提案を試みました。
2. 周期的高エネルギー電子による波動励起
今回の研究では、相対論的電子による波動励起の理論に基づき、示唆された放射源における波動の「成長率」を計算しました。宇宙プラズマの中には、様々なエネルギーを持った荷電粒子と、様々な伝搬特性をもった電磁場振動(波動)が存在します。一般に、高エネルギー荷電粒子と、背景電磁場よりも小さな振幅をもつ波動は、互いに独立に変動しています。しかし、波動と粒子がある特定の条件を満たすと、それらの間でエネルギーのやりとりが始まります。これにより、粒子からエネルギーを得て波動が成長したり、逆に粒子の方が加速されたりすることが起きます。それが「波動-粒子相互作用」です。波動の成長率とは、これらの波動-粒子相互作用の理論に基づいて、波動がどの程度粒子からエネルギーを受け取り、振幅が成長しうるかを評価するパラメータです。
本研究では、観測された周期的電子バーストの情報を仮定し、QPバーストの成長率計算を行いました。その結果を図2に示します。下の2つのパネルは伝搬角・周波数に対する波動の成長率を示していて、破線より上の値が、電子バーストの継続時間内(約2分)に十分大きな波動成長が見込める領域に対応します。
図2: 線型成長率の計算結果(リングビームの分布関数、Lモードの波動を仮定)。上のパネルは、波動の伝搬角(横軸)と周波数(縦軸)対する成長率分布。下の2つのパネルは、周波数(左)と伝搬角(右)に対する成長率分布。成長率・周波数は放射源位置のサイクロトロン周波数で規格化してある。
これらの理論計算と、現在までに本研究で示唆されたQPバーストの放射特性とを比較しながら、発生機構に関して議論した結果、以下の様な結論を得ました。
1. 磁力線沿いに加速されたガウス分布のようなビームでは、観測を説明できる波動成長速度・指向性が得られない。
2. 磁力線垂直方向に不安定な速度構造をもつような相対論的電子ビーム(例:リングビーム)があれば、観測と整合する自由空間波(電波)が成長速度・指向性をもって励起される(直接励起)。
3. 上記の様な電子ビームがあれば、強力なローカルプラズマ波動が励起され、木星極域電離圏に降下する。その結果、電離圏密度勾配の大きい領域において、それらの波動が自由空間波(電波)へ変換される可能性がある。この場合も、観測と整合する放射源位置・指向性をもって電波が励起される(間接励起)。
これらの結果により、今まで不明だったQPバーストの励起機構を絞り込むことができ、加速された粒子の速度分布の形態などを示唆することができました。これは周期的粒子加速を制約する重要な材料となります。
3. 周期性統計と周期的加速シナリオ
周期的粒子加速は観測例が少なく、統計的特性が整理されていません。そこで本研究では、QPバーストの周期性を統計的に調査し、周期的粒子加速の特性の理解へ繋げようとしました。先行研究にもQPバーストのパルス間隔の統計などが存在しますが(MacDowall et al., 1993)、今回はLomb-Scargle periodogramという手法を使用し、電波振幅を含めた周期性の評価を初めて行いました。これを多くのイベントに適用することで、周期的粒子加速のエネルギー源に関連する統計的特性が得られます。この研究には、長期間木星電波を観測したガリレオ、ユリシーズ探査機のデータを使用しました。
図3は周期性の統計結果を示しています。これらはガリレオ・ユリシーズが高緯度領域(b,c)や赤道域(a,d)で観測したQPバーストの振幅の周期性を表しています。(b)-(c)には、30-50分周期に多くイベントが集中しています。(a)に周期性が見られないのは、太陽風プラズマの熱的ノイズ、(d)の100分周期の変動は磁気圏プラズマの自転に伴う変動と解釈しました。この結果、30-50分周期の電波振幅が、統計的に有意であるということが分かりました。X線オーロラや粒子その場観測でも見えていた、約40分という周期は、いわば周期的粒子加速過程の「固有周期」であるということが示唆されました。
図3: ユリシーズ・ガリレオ探査機で検出されたQPバーストの統計的な周期性分布。横軸は周期性をログスケールで表し、縦軸は有意な振幅を持ったQPバースト出現イベント数を表す。
この統計結果等から、周期的粒子加速の発生シナリオを議論しました。今まで提案されている唯一のシナリオは、カスプリコネクションによるものでした(Bunce et al., 2004)。これは、観測から要請されている、磁力線沿いの強力なポテンシャルドロップを説明できるシナリオです。しかし、大きな特徴である周期性の成因は提案されていません。そこで本研究では、得られた「固有周期」を説明するために、地球磁気圏との類推に基づいて、「分散性アルフヴェン波動」による周期的加速シナリオを新しく提案しました。これは、磁力線沿いに電場を持ちうる分散性アルフヴェン波動という低周波波動が、南北の極域電離圏を反射点として往復することによって、極域で周期的粒子加速を起こすシナリオです。本研究では、概念の提案だけに止まっていますので、このシナリオによる強力な粒子加速の実現可能性の検証が、これからの大きな課題です。
以上の結果は、Journal of Geophysical Research - Space Physicsに出版されました。
Kimura, T., F. Tsuchiya, H. Misawa, A. Morioka, H. Nozawa, and M. Fujimoto (2011a), Periodicity analysis of Jovian quasi‐periodic radio bursts based on Lomb‐Scargle periodograms, J. Geophys. Res., 116, A03204, doi:10.1029/2010JA016076.
Kimura, T., F. Tsuchiya, H. Misawa, A. Morioka, and Y. Nishimura (2011b), Direct and indirect generation of Jovian quasiperiodic radio bursts by relativistic electron beams in the polar magnetosphere, J. Geophys. Res., 116, A03202, doi:10.1029/2010JA016119.
参考文献:
Bunce, E. J., S. W. H. Cowley, and T. K. Yeoman (2004), Jovian cusp processes: Implications for the polar aurora, J. Geophys. Res., 109, A09S13, doi:10.1029/2003JA010280.
Gladstone, G. R., et al. (2002), A pulsating auroral X‐ray hot spot on Jupiter, Nature, 415, 1000-1003, doi:10.1038/4151000a.
MacDowall, R. J., M. L. Kaiser, M. D. Desch, W. M. Farrell, R. A. Hess, and R. G. Stone (1993), Quasiperiodic Jovian radio bursts: Observations from the Ulysses Radio and Plasma Wave Experiment, Planet. Space Sci., 41, 1059-1072, doi:10.1016/0032-0633(93)90109-F.