最新研究成果

2次元粒子シミュレーションに見る宇宙プラズマ中の大規模渦の性質

中村 琢磨 / プロジェクト研究員

 

ほぼ無衝突状態である宇宙プラズマ中の境界では、粘性による相互作用が期待できないため、境界を跨いだ異種プラズマの混合は起こりづらいと考えらます。ところが、例えば地球磁気圏境界の低緯度領域では、太陽風と磁気圏プラズマが混合している様子が人工衛星によるその場観測で確かめられています。この領域では同時に、太陽風と磁気圏プラズマ間の速度シアが引き起こしたと考えられる大規模なケルビン・ヘルムホルツ(KH)渦も観測されているため[1]、コーヒーとクリームを混ぜるように「渦」によって効率的なプラズマ混合が引き起こされていると予測されてきました。しかし、コーヒーとクリームの効率的な混合は粘性がもたらしており、無衝突プラズマ中で同じような物理は期待できません。そこで我々は、KH渦が宇宙プラズマ中で効率的な混合を引き起こすことは可能か、可能であるなら粘性に代わるどのような物理が混合を引き起こすのかを調べるために数値シミュレーションを用いた研究を行っています。

我々はこれまで電磁流体近似シミュレーションにより、宇宙プラズマ中でKH渦が成長する場合、ほぼ常に渦内部で磁気リコネクションが発生することを示してきました[2]。磁気リコネクションとは、強い磁気シアを有する境界に蓄積された磁気エネルギーが磁力線の繋ぎ変わりにより一気に解放されるプラズマ特有の爆発現象です。KH渦を発生させる速度シアを有するプラズマ境界は同時に磁気シアを有している場合が多く、この磁気シアがKH渦の発展により強められるため、KH渦の発展に伴いほとんどの場合で渦内部に磁気リコネクションが誘発されるわけです。この渦内リコネクションにより境界を跨いで磁力線が繋ぎ変わり、繋ぎ変わった磁力線に乗って、元々それぞれの領域でそれぞれの領域の磁力線に乗っていたプラズマが混合できます。ところが、電磁流体近似シミュレーションでは、「繋ぎ変わった磁力線に乗った粒子の運動を正しく記述できない」、「磁力線の繋ぎ変わる効率を正しく記述できない」、という理由から渦内リコネクションの正しい性質及び正しい粒子の混合効率を求めることができませんでした。このような背景から本研究では、宇宙プラズマ中に起こる大規模KH渦について宇宙プラズマを構成する水素イオンと電子を共に粒子として扱う2次元粒子シミュレーションを行いました。

 

図1. KH渦成長に伴う渦内磁気リコネクション発生及び磁気島形成・吸収過程。

 

図1に本シミュレーション結果を示します。線は磁力線、矢印は水素イオンの速度ベクトルを表しています。本計算ではY=0を中心として境界層を設定し、速度シアと磁気シアを同時に与えています。まず速度シアによりKH渦が成長し始めます。このKH渦の成長に伴い磁気シアが局所的に強まり(境界を挟んだ磁力線が局所的に近づき)、渦内で磁気リコネクションが発生します。ここで注目すべきなのが、磁気リコネクションが多点で同時に起こっていることです。これに伴い「磁気島」と呼ばれる、繋ぎ変わった磁力線の詰まった小さな「島」が多数形成されます。この磁気島は渦の流れに乗り渦内部に次々と吸収され、最終的に渦そのものが繋ぎ変わった磁力線で満たされた大きな磁気島となります。

上記の磁気島形成・吸収過程において重要なのは、磁気島内部で境界を挟んだ両領域のプラズマが(繋ぎ変わった磁力線に乗って)効率的に混合していることです(図2)。この混合しているプラズマを乗せた磁気島が渦内部に吸収されることで結果的に渦内部ほぼ全域が混合したプラズマで満たされることになります。つまり、渦内部で起こるプラズマ混合は磁気島形成・吸収過程を経ることで渦の成長する時間スケールで進行することになります。この混合効率は粘性流体中の渦内部で起こる混合効率と同等なため、これらの結果から、宇宙プラズマ中では磁気リコネクションとそれに伴う磁気島形成・吸収過程が粘性のように作用し、効率的なプラズマ混合をもたらしていると結論できます。さらに(詳しくは示しませんが)、様々なパラメータによるサーベイにより磁気島形成・吸収過程は大規模な(電磁流体スケールの)KH渦が発生する条件内でほぼ普遍的に起こることも分かりました。つまり本研究により、「1.大規模KH渦の発生」→「2.渦内リコネクションの発生」→「3.磁気島の形成・吸収」→「4.渦内で効率的にプラズマ混合」、という4段階の効率的なプラズマ混合過程が1.が起こる限りほぼ普遍的に起こることが示されました。

 

図2. KH渦成長に伴うプラズマ混合の進行過程。

 

また磁気圏観測衛星Cluster(4機の編隊観測衛星)により磁気圏境界面周辺で渦内リコネクションを観測したイベントでは[3]、KH渦により強められたと考えられる強い磁気シアを4機全てが観測し、このうち1機が磁気シア観測と同時に磁気リコネクションの兆候を観測、さらに他の1機が磁気シア観測直後に磁気島を横切ったと解釈できる磁場変動を観測しました。このように、人工衛星によるその場観測によりKH渦内リコネクションとそれに伴う磁気島形成が実際に起こっていることが実証されつつあります。しかし、本シミュレーションは複雑な磁気圏境界面の状況とは違い、例えば境界を挟んで両領域が対称的であるなど非常に基本的な設定の下で行われています。今後、より現実的な設定の計算を行うことで、観測との精密な比較が可能となり、磁気圏境界における渦による混合層形成過程をより定量的に理解できると共に、本シミュレーション結果に確固たる実証的基盤を与えることができると期待しています。

 

以上の結果は、Journal of Geophysical Research - Space Physicsに出版されました。

T.K.M. Nakamura et al. (2011), J. Geophys. Res., 116, A03227, doi:10.1029/2010JA016046.

参考文献:

[1] H. Hasegawa et al. (2004), Nature, 430, 755.

[2] T.K.M. Nakamura et al. (2008), J. Geophys. Res., 113, A09204, doi:10.1029/2007JA012803.

[3]H. Hasegawa et al. (2009), J. Geophys. Res., 114, A12207, doi:10.1029/2009JA014042.