最新研究成果
外惑星の紫外・赤外オーロラ発光モデル:木星と土星の比較
垰 千尋 / プロジェクト研究員
オーロラは、惑星およびその周辺のプラズマ環境の情報を反映する。外惑星のオーロラは、赤外、可視、紫外、X線、電波の波長域にわたって観測される。前者3つの波長域は、大気の主成分である水素分子に直接関係する。紫外・可視オーロラは、オーロラ電子が水素分子や原子を直接励起し、もとに戻るときの発光である。赤外オーロラは、オーロラ電子衝突により生成したH3+が熱励起して発光するものである。紫外・赤外波長域は、木星昼面からの発光も観測することができ、観測例が比較的多い。
近年のCassini/VIMS (Visual and Infrared Mapping Spectrometer)による土星赤外観測によって、メインオーバル内の極域で、赤外発光の増大 (参考: 図1bおよび1c) が観測された[1, 2]。他方、紫外では極域全体が埋まるような発光は見られない。極の開いた磁力線領域は電子が定常的に少ないにも関わらず、このオーロラ発光強度の増大をもたらす要因は、何であろうか。本研究は、赤外発光が強く、紫外が弱い条件に着目した。その候補として、(i) 降り込み電子のエネルギーが低く、発光高度が高高度の高温領域になることによる赤外発光の増大、(ii) 降り込み電子のエネルギーが高く、紫外発光が低高度にある炭化水素化合物で吸収されることによる、相対的な赤外発光の増大、(iii) 背景大気温度の上昇による赤外発光の増大、が考えられる。また、木星の極域では、紫外・赤外発光ともより局所的で時間変動の大きい現象が見られ、土星極域と発光の特徴が異なる。これは、木星・土星惑星間の大気組成や温度の違いで説明可能なのだろうか。そこで本研究は、土星および木星における紫外・赤外の発光の違いの要因を明らかにするために、紫外・赤外オーロラ発光強度を同時に求める数値モデルの開発を行った。
図1. 木星紫外(青線)・赤外(赤線)発光の、(a)降り込み電子エネルギー、(b)フラックス、(c)背景温度依存性。
図2. 図1の土星の場合。
得られた紫外・赤外のオーロラ電子エネルギー、フラックス、温度に対する依存性を、木星について図1に、土星について図2に示す。これらから、木星・土星の発光の特徴に類似性と相違点が見られる。電子エネルギー依存性について、両惑星とも、紫外は単調増加、赤外は〜10 keVでピークを持つ。これより高いエネルギーの電子の場合は、低高度まで電子が侵入し、そこでは温度が低いため発光する赤外が減少するからである。降り込み電子数が増えると、紫外がより顕著に増大する。紫外は温度依存性がほとんどないが、赤外は温度によって大きく変化する。特に土星において、この赤外の増大率が非常に大きい。背景温度が木星は〜1200 K、土星は〜400 Kであり、この違いが赤外の温度依存性の違いをもたらしている。また、エネルギー依存性について、低エネルギー(〜1 keV)において、赤外の変化率が木星のほうが大きく紫外に近づく。つまり、赤外・紫外のコントラストが木星より土星で大きくなる。この両惑星間のエネルギー依存性の違いは、土星電離圏に存在する水分子が関係している。土星極域の赤外増大イベントに対し、上記の(i)と(iii)の効果が顕著であることが分かった。
図3. オーロラオーバル(緑色星印の条件)と同じ強度の赤外発光を引き起こすのに必要な背景温度増分(単位K)。紫外発光強度がオーロラオーバルの10%となる条件を青色破線で示す。地球の極域電子のスケーリング推定条件を黄緑色ひし形で示す。
地球において極域で観測される太陽風起源の電子「ポーラー・レイン」には、オーロラ発光を引き起こすものもあることが報告されている[3]。このポーラー・レイン電子フラックスを参考に土星における降り込み電子を推測すると、電子エネルギー1 keV 、フラックス0.002-0.01 μA/m2と見積もられる。極域の発光が、紫外でオーロラオーバルの10%以下、赤外で同程度となるには、オーロラオーバル領域に比べ100 Kほどの温度増大を伴うことが示唆された(図3)。土星のポーラー・レイン現象の存在確認およびその特徴の検証が、今後の観測に期待される。また、極域赤外発光現象から示唆される温度増大のメカニズムも、今後の課題である。
以上の結果はIcarusに出版されました。
Tao, C., S. V. Badman, and M. Fujimoto (2011), UV and IR auroral emission model for the outer planets: Jupiter and Saturn comparison, ICARUS, 213, 581-592.
参考文献:
[1] Badman, S. V., N. Achilleos, K. H. Baines, R. H. Brown, E. J. Bunce, M. K. Dougherty, H. Melin, J. D. Nichols, and T. Stallard (2011), Location of Saturn's northern infrared aurora determined from Cassini VIMS images, Geophys. Res. Lett., 38, L03102, doi:10.1029/2010GL046193.
[2] Stallard, T., et al. (2008), Complex structure within Saturn's infrared aurora, Nature, 456, 214-217.
[3] Zhang, Y., L. J. Paxton, and A. T. Y. Lui (2007), Polar rain aurora, Geophys. Res. Lett., 34, L20114, doi:10.1029/2007GL031602.