最新研究成果

編隊衛星観測を用いた三次元磁場構造の再現

長谷川 洋 / 助教

 

太陽系空間にあるプラズマは光学的に非常に薄く,望遠鏡などで撮像することは困難です.近年になって,太陽風プラズマと地球周辺に分布しているジオコロナ(中性粒子)との荷電交換反応によって生ずる高速中性粒子を地球周回衛星から観測することで,プラズマ密度の二次元像が得られるようになり,太陽風プラズマの磁気圏流入過程の全体像がつかめるようになってきました(Petrinec et al., 2011).しかし,宇宙プラズマの速度や磁場をリモートセンシングすることは未だできておらず,人工衛星によるその場での観測に頼るしかありません.一方で,宇宙空間でどのような現象が発生し,衛星がどのような構造を通過したのかを,その場観測から把握することは容易ではありません.

こうした中,我々はその場観測から衛星周辺のプラズマ・磁場構造の二次元像を再現するデータ解析手法(以下,再現法)を開発してきました(Sonnerup et al., 2006).この手法は,基本的には単一衛星によって得られた時系列データ,すなわち一次元データに適用できます.一次元情報から二次元像を再現する上で鍵となっているのは,物理法則に基づいた支配方程式の利用です.これにより,衛星軌道上で得られた一次元情報から,軌道に垂直方向の物理量の空間勾配が推定できます.我々はこの概念を拡張すれば,2衛星による二次元的な観測から,三次元構造を再現できることを発見しました.2衛星がその軌道(x軸)と垂直(z軸)方向に少しだけ離れており,z軸方向の空間勾配を観測できれば,y軸方向の空間勾配が支配方程式を介して推定できるのです(図1).

 

図1. 近接している2機の衛星(A衛星とB衛星の)観測から定常三次元構造を再現する際に用いる座標系と,空間積分の概念図.

 

このような二次元的な観測から三次元構造を再現する試みは,太陽物理学の分野では昔から存在します(Wheatland & Leka, 2011).ゼーマン効果を利用した太陽光球面の磁場観測から,コロナ磁場の三次元構造を推定し,磁場配位と太陽フレアやコロナ質量放出などとの因果関係を解明しようという研究です.一方で磁気圏や宇宙空間物理学の分野では,統計的に得られた平均場のデータから平均的な磁気圏の三次元構造を推定する試みはあるものの(Zaharia, 2008),短時間に得られたその場観測データから宇宙空間の三次元磁場・プラズマ構造を再現する手法はありませんでした.ここでは,支配方程式として磁気張力と全圧(プラズマ圧と磁場圧の和)の勾配力との釣り合いを表す式を用いた,三次元構造再現について紹介します.

 

図2. ベンチマークテストに用いた疑似衛星(A衛星とB衛星による)観測データ.

 

図2は,スフェロマクと呼ばれるドーナツ型の三次元平衡磁場中を2機の近接している人工衛星が通過した時の,磁場3成分とプラズマ圧の疑似観測データです.ここで使用したスフェロマク場は,実験室プラズマの分野で時々利用される磁場配位であり,支配方程式の解析解として表されています.図3下は図2に示したデータから再現された,磁力線とプラズマ圧の三次元構造です.図3上の厳密(解析)解と比較して分かるように,衛星の軌道から遠くない範囲内で,三次元構造がよく再現できています.図2では2機が観測したデータはほとんど同じように見えますが,このわずかな差の中にも三次元構造についての情報が含まれており,それが構造再現を可能にしているというのは驚きです.

 

図3. 厳密解と再現結果の比較.青線は磁力線を,背景の色はプラズマ圧を示している.下のパネルで,黒と赤の直線はそれぞれA衛星とB衛星の軌道を表す.

 

2点観測から三次元構造を再現できるということは,2点観測から物理量の三次元勾配や磁力線の曲率,電流などの物理量が推定できるということです.例えばクラスター衛星は,全4機のうち2機でしかイオンの精密観測ができておらず,三次元空間におけるプラズマ圧などの勾配を推定することは原理的に不可能です.しかし,本研究で開発した手法を用いれば,2点観測から(支配方程式の制約の下ではあるものの)プラズマ圧の勾配を推定することが可能であり,データ解析手法として有用であると言えるでしょう.さらに,電磁流体(MHD)方程式系や二流体方程式系などの,より一般的な支配方程式に基づいた再現法が今後開発できれば,より一般的なプラズマ三次元構造,ひいてはその時間発展までをも把握し理解する道がひらかれます.

 

以上の結果は,JGR-Space Physicsに出版されました.

Sonnerup, B. U. O., and H. Hasegawa (2011), Reconstruction of steady, three-dimensional, magnetohydrostatic field and plasma structures in space: Theory and benchmarking, J. Geophys. Res., 116, A09230, doi:10.1029/2011JA016675.

 

参考文献:

Petrinec, S. M., M. A. Dayeh, H. O. Funsten, et al. (2011), Neutral atom imaging of the magnetospheric cusps, J. Geophys. Res., 116, A07203, doi:10.1029/2010JA016357.

Sonnerup, B. U. O., H. Hasegawa, W.-L. Teh, and L.-N. Hau (2006), Grad-Shafranov reconstruction: An overview, J. Geophys. Res., 111, A09204, doi:10.1029/2006JA011717.

Wheatland, M. S., and K. D. Leka (2011), Achieving self-consistent nonlinear force-free modeling of solar active regions, Astrophys. J., 728:112, doi:10.1088/0004-637X/728/2/112, 1-12.

Zaharia, S. (2008), Improved Euler potential method for three-dimensional magnetospheric equilibrium, J. Geophys. Res., 113, A08221, doi:10.1029/2008JA013325.