最新研究成果
木星磁気圏尾部で起こる磁気リコネクション
笠原 慧 / 助教
木星という星を地球と比較した場合,最大の特徴のひとつとして挙げられるのがその高速自転です.この惑星の高速回転はローレンツ力を介して磁気圏プラズマを回転させ,その結果として定常的なメインオーバルオーロラを形成します(図1,Grodent et al., 2004).その他にも木星では衛星のフットプリントや,極領域に現れるパッチ状のオーロラが知られていますが,ここで特に注目したいのは,夜側から明け方側にかけて出現する突発的なアークやスポットです.このようなオーロラはメインオーバルの極側,磁気圏テイル領域にマップされる位置に現れ,磁気圏尾部リコネクションとの関係が指摘されています.
図1: 木星北半球のオーロラ.メインオーバルの内側に突発的に表れるアークは尾部リコネクションによって形成されると考えられている(オーロラの写真はhttp://www.lpap.ulg.ac.be/jupiter/stis_animations.html).
木星のテイル領域でリコネクションが起こっている事は30年ほど前から提唱されています[Nishida, 1983].さらに近年では周回衛星Galileoの観測により,リコネクションの結果と思しき磁場と高エネルギー粒子の流れの特徴が数多く見つかっています.ところがこれまでの研究では,肝心の低エネルギープラズマデータが貧弱なため,リコネクションに伴うプラズマシートの構造・発展を詳細に議論するには限界がありました.
翻って地球の場合,GeotailやCluster,THEMIS衛星のデータから,アルベン速度程度のプラズマフローや磁場のフロント(鉛直磁場の急峻な変化領域)通過に伴うプラズマ密度の減少,粒子加速などがよく知られるようになっています.さらにごく最近では,シミュレーションから予測されるようなイオンスケールのフロント厚みやイオンAlfvén速度を超える電子ジェットといったミクロスコピックな特徴も観測されています[Runov et al., 2011].
そこで本研究では,イオンの組成やプラズマシート密度,太陽風の影響などが地球と大きく異なる木星磁気圏において,上に挙げたようなリコネクションの特徴が果たしてどのように見られるかを検証しました.
先述のように過去の研究では低エネルギープラズマ観測の精度が悪く詳細な解析は困難でした.そこで本研究では,低エネルギープラズマのデータの代わりに電波のカットオフ周波数から電子密度を,そして高エネルギー粒子の異方性からプラズマフローの速度を算出しました.
図2: (上から)電波強度(黄色い塊の下端が電子密度に対応),高エネルギー電子フラックス,高エネルギーイオンフラックス,磁場,イオン速度.
図2はGalileo衛星が捉えたリコネクションイベントの際の電子密度(一段目),高エネルギー電子フラックス(二段目),高エネルギーイオンフラックス(三段目),磁場(四段目),イオンフロー(五段目)を示しています.4段目のパネルからは非常に強い鉛直磁場の増大が見てとれます.この時間帯のプラズマシートの構造・運動についての解釈を図3に示しました.電波データから求められる電子密度(黄色の塊の下端が密度に対応)は磁場のフロントの直前にやや増加しその後急激な減少,という,地球の場合によく見られる特徴を示しています.また,フロント通過に伴う高エネルギー電子,イオンのフラックス増加も見られます.さらに,イオンの異方性から求めたフローの速度は450 km/sであり,その場のAlfvén速度に近いことがわかりました.そして,磁場のフロントがイオンのフロー速度で伝播していると仮定すると,その磁場フロントの厚みは10000-20000 kmと算出されます.
図3: リコネクションイベントでのプラズマシート構造・運動の解釈(左が木星側,右が尾部側).緑と茶の矢印はイオンと電子の流れの方向を表す.
これを地球の場合と比較してみると,一見,圧倒的に大きいように見えます(表1,一行目).しかしながら,イオンの慣性長やジャイロ半径(表1,二,三行目)を参照すると,磁場フロントは実に地球と同様,イオンスケールの構造であることがわかります.このような大きなイオンスケールは,木星におけるイオン質量が大きいことと,プラズマシートの密度が低いことに起因しています.
表1: 木星と地球における空間スケールの比較.
見かけ上大きな空間スケール,というのは観測を行う上で実は重要です.(データ通信レートが低くなるという問題さえ克服できるならば)分析器の時間分解能が同じでもそれに対応する空間分解能が高くなるからです.その意味で,木星磁気圏という場所は磁気リコネクションの研究を行う絶好のサイトかも知れません.
また,このイベントではフロント背面の電子ジェットの速度が10000-20000 km/sと,イオンのアルベン速度を大きく上回っていた事もわかりました.これも数値シミュレーションや地球磁気圏での観測と整合的な結果です.
以上,観測結果をまとめると,Alfvén速度程度のイオンフロー,密度の急激な減少,粒子加速,イオンスケールの構造,super-Alfvénicな電子ジェットといった,地球磁気圏でリコネクションに伴って見られるような多くの特徴を木星磁気圏尾部領域で発見することができました.
この結果は,JGR-Space Physicsから出版されました.
Kasahara, S., E. A. Kronberg, N. Krupp, T. Kimura, C. Tao, S. V. Badman, A. Retinò, and M. Fujimoto, "Magnetic reconnection in the Jovian tail: X-line evolution and consequent plasma sheet structures", J. Geophys. Res., 116, A11219, doi:10.1029/2011JA016892.
今後は,本研究で明らかになった磁気圏尾部の現象が,木星磁気圏においてどれくらい普遍的なものであるか,また,冒頭に述べたような突発的なオーロラを含む磁気圏・電離圏の現象とどのように関係しているかについて,調べていく必要があると考えています.
参考文献:
Grodent, D., J.-C. Gérard, J. T. Clarke, G. R. Gladstone, and J. H. Waite Jr. (2004), A possible auroral signature of a magnetotail reconnection process on Jupiter, J. Geophys. Res., 106, A05201, doi:10.1029/2003JA010341.
Nishida, A. (1983), Reconnection in the Jovian magnetosphere, Geophys. Res. Lett., 10(6), 451?454, doi:10.1029/GL010i006p00451.
Runov, A., V. Angelopoulos, X.-Z. Zhou, X.-J. Zhang, S. Li, F. Plaschke, and J. Bonnell (2011), A THEMIS multicase study of dipolarization fronts in the magnetotail plasma sheet, J. Geophys. Res., 116, A05216, doi:10.1029/2010JA016316.