最新研究成果 (To English version)

土星赤外H3+オーロラ発光強度の準自転周期変調と地方時依存性

バッドマン沙羅 / JAXA国際研究員

 

<背景>

パイオニア探査機およびヴォイジャー探査機が初めて土星オーロラ領域起源のキロヘルツ周波数帯の電波バーストを検出したとき、この電波の周期は惑星内部の自転に対応したものと考えられた。それから時を経て、ユリシーズ探査機やカッシーニ探査機による観測から、土星キロヘルツ帯電波(SKR)放射の周期が、考えられる惑星自転の周期変化よりもずっと短い時間スケールで変化し、南北両半球で異なる電波周期をもつことが明らかになった。さらに、「惑星周期」と同期した変動が、その他のさまざまな磁気圏現象や紫外オーロラ発光で検出されている。この周期性の起源は現在さかんに研究されているものであり、例えばMitchell et al. (2009)によるレビュー等がある。

 

図1.

 

磁場データの詳細な解析から、図1に示すような、南北半球で異なる周期で回転する2つの独立したオーロラ電流系が示唆されている(Andrews et al., 2010)。上向きの沿磁力線電流は、電流を担う下向きの電子の大気降り込みを通して、オーロラ発光を引き起こすのに重要である。回転する沿磁力線電流系は、オーロラ発光強度の地方時(LT)分布に影響すると考えられる。SKRも、上向き沿磁力線電流領域が朝側を通過するときに最も放射強度が強くなることが観測で示されている(Andrews et al., 2010)。

上向き沿磁力線電流が最大となる位置は、回転する磁気双極子の向きをLT昼側から回転方向にはかった角度で定義できる。北半球、南半球に分けて定義される(図1の緑と赤の矢印)。この角度を磁気位相(ΦM, N/S)と呼び、双極子が昼を向いたときにΦM, N/S = 0°、夕方側を向いたときにΦM, N/S = 90°、というように表わす。図1から、上向き電流領域の最大位置は、北半球ではΦM, N-90°、南半球ではΦM, S+90°となる。

土星赤外オーロラの周期変動を明らかにすることを目的に、本研究は、カッシーニのVIMSで2006年10月から2009年2月にかけて観測された土星H3+の〜3.6μm波長帯の111画像を解析した。これらのうち、南半球のオーロラ観測は33画像、北半球は78画像であった。それぞれの画像について、緯度1度ごと、LT1時間ごとに平均をとった。それぞれのLTにおいて余緯度10-25度で発光強度が最大であった。

 

<観測例>

平均的な結果を示す前に、一連の観測例を図2に示す。6つの北半球のオーロラ画像は、2006年11月10日に撮れらものである。積算時間の中心の時刻と、その時刻の北半球の磁気位相ΦM, Nをそれぞれの画像中に示している。黄色の実線は、モデルから求めた、北半球の周期で回転している上向き沿磁力線電流が最大となる経度を示している。

 

図2.

 

図2(g)は、カッシーニのプラズマ波動計測器(RPWS)で観測された、2006年11月10日のSKR放射フラックス密度を、時間-周波数スペクトルとして示している。SKRは数100 kHzに見られる放射である。縦の波線は、モデルから求めたSKRが最大となる時刻ΦM, N = 0°を、図の上の矢印はオーロラ画像が観測された時刻を示している。図2(h)は電波の円偏波を示したもので、観測された赤外放射と同じ北半球から放射された電波を白色で示す。

画像(a)-(c)はSKRが静穏な時期、(e)(f)は典型的なSKRバーストが北半球で見られた時期である。これらのときに明るい赤外発光も観測され、オーロラ赤外発光とSKR放射強度に関連があること、最大値がモデルで予測される磁気位相ΦM, N = 0°に見られることが示された。同時に、最も明るい赤外放射が朝側で観測されている。

 

<統計解析結果>

VIMSの111画像から得られる平均発光強度のLTおよび南北磁気位相依存性を図3に示す。図3(a)および(b)の上側の線の図は、平均強度のLT依存性を示したものである。H3+発光の強いLT依存性が両半球ともにみられ、朝〜昼の間に最大、夕方に最小となる様子がとらえられた。

 

図3.

 

図3(a)と(b)のコンター図は、H3+発光強度の平均値をLTと磁気位相の関数として示したものである。磁気位相については、連続性が分かりやすいように2周期分を示す。南北半球とも、発光強度の磁気位相依存性がLTによって変化している。つまり、最大強度が特定の磁気位相だけでみられるものではない。上向き沿磁力線電流が最大となる位置を、白色の破線で示す。南北半球とも、オーロラ発光最大位置はこの線におおよそ沿ったものになり、磁気位相が360度変わる間に全LTを通過する。このことから、オーロラ発光強度は、南北それぞれの半球で回転する上向き沿磁力線電流系と関連していると考えられる。

 

<議論>

図3に見られるH3+強度のLT分布の解釈として、LT固定の沿磁力線電流系と回転する電流系の重ね合わせ効果が考えられる。回転する上向き電流系が朝側領域を通過すると、LT固定の上向き電流系を強め、電流(そしてその結果としてオーロラ発光強度)が最大となる。回転する上向き電流系が夕方側を通過するとき、準定常的な下向き電流領域があるとすると、正味の上向き電流量は減る。そして夜側やさらに朝側にかけて電流系が回転するにつれて、正味の電流量は再び増加する。この一連の変化が、図3(a)(b)で見られる、オーロラ発光強度が朝側で最大になり、夕方側で最小になる特徴を説明する。土星のオーロラ発光は、太陽風-磁気圏相互作用と惑星自転の両方の影響を反映したものである。

 

以上の結果は、JGR-Space Physicsに出版されました。

参考文献:

Badman et al. (2012), Rotational modulation and local time dependence of Saturn's infrared H3+ auroral intensity, J. Geophys. Res., 117, http://dx.doi.org/10.1029/2012JA017990.

Andrews et al. (2010), Comparison of equatorial and high-latitude magnetic field periods with north and south Saturn kilometric radiation periods, J. Geophys. Res., 115, http://dx.doi.org/10.1029/2010JA015666.

Mitchell et al. (2009), The dynamics of Saturn's magnetosphere, in Saturn from Cassini-Huygens, edited by Dougherty, M. K., Esposito, L. W., & Krimigis, S. M., doi:10.1007/978-1-4020-9217-6.


<和訳: 垰 千尋>