最新研究成果
惑星衝撃波と電流層の相互作用に伴う磁気リコネクション
長谷川 洋 / 助教
超音速の太陽風と惑星との相互作用によって形成される衝撃波―バウショック―の近くでは,太陽風が無衝突プラズマであるがために,特徴的な構造や現象が発生します.準平行衝撃波(図1参照)の上流に形成される「フォアショック」と呼ばれる領域がその一例です.そこでは衝撃波面で反射された太陽風電子や陽子が観測されますが,この反射粒子やフォアショックは無衝突衝撃波に特有のものです.
図1. クラスター衛星(C3)によって観測された地球磁気圏シース高温異常流(HFA)の模式図.赤い矢印は対流電場の向きと大きさを示す.
太陽風中では,太陽表面付近の磁場構造やコロナ質量放出などの活動現象に由来する,磁場やプラズマの非一様性が観測されます.例えば人工衛星が太陽風中の電流層を通過すると,磁場の向きが急激に変化するのが観測されます(図2a).このような太陽風中の電流層―より正確には,接不連続面(tangential discontinuity: TD)―がバウショックにぶつかった時にしばしば発生するのが,ここで紹介する高温異常流(hot flow anomaly: HFA)と呼ばれるプラズマの爆発現象です(Schwartz, 1995).
衝撃波面で反射された熱いイオンは,太陽風中の対流電場が電流層(TD)の中心方向を向いている場合(図1)には,電場によって加速されながら電流層のほうへと集まってきます.その結果,電流層と衝撃波面が接触する付近でプラズマの圧力が急上昇し,熱いプラズマの領域がまわりの太陽風を押しのけて電流層の両側へ,そして電流層沿いにも爆発的に膨張することになります.これがHFAの発生の仕組みです.HFA(高温異常流)という名前は,HFA中では熱いプラズマ(図2e)が普段の太陽風とは全く異なる向きに(場合によっては太陽方向に)流れている(図2f)ことから来ています.HFAが単なるバウショックの下流(通常の磁気圏シース)ではないことは明らかです.衝撃波ではプラズマや磁場が圧縮され,衝撃波の下流のプラズマ密度や磁場強度は上流よりも数倍程度大きくなるのに対して,HFA中ではどちらの物理量も上流の値とほとんど変わらないか,むしろ小さくなることもあります(図2c, d).
図2. 2004年3月1日のACE衛星によるバウショック上流の太陽風磁場の観測(a)と,クラスター3号機(C3)による磁気圏シースHFAの観測(b-h)(GSE座標系).緑の点線はHFAの境界.HFAの前には準平行衝撃波の下流,後には準垂直衝撃波の下流が観測された.黒の一点鎖線はグラッド・シャフラノフ法(図3)を適用した時間帯の始まりと終わりを示す.
これまでの研究によって,HFAは磁気圏の大規模な変形や,オーロラの一時的で局所的な増光を引き起こしうることが分かってきました(Sibeck et al., 1999).今回の研究によって明らかになったのは,HFAの磁気圏シースに浸かった部分で磁気リコネクションが発生しうるということです(図1).HFAの形成や成長に伴うリコネクションの発生は計算機シミュレーションによって予測されていた現象ですが(Lin, 1997),その観測的兆候が発見されたのは初めてです.
図2b, cは,クラスター衛星によって磁気圏シース中で観測されたHFAの内部に,磁場強度が上昇し,磁場の向きが大きく回転している領域があることを示しています.この時間帯に磁場構造の二次元像を再現する手法―グラッド・シャフラノフ法―を適用した結果が図3です.磁気フラックスロープがHFAの内部に存在していたことが分かります.バウショック上流の太陽風中ではフラックスロープは観測されなかったこと(図2a),またフラックスロープは太陽方向に動いていたという事実などを考慮すると,この構造は磁気圏シース中のリコネクションによって形成されたと考えるのが自然です.
図3. グラッド・シャフラノフ法によって再現されたHFA中の磁気フラックスロープの二次元構造.黒線は磁力線,色は紙面垂直磁場成分,白い矢印は実際に観測された磁場ベクトルを紙面に投影したもの.
興味深いのは,高エネルギー(100 keV帯)の電子がフラックスロープの内部や周辺で観測されたという事実です(図2g).高エネルギー電子がHFAに伴って観測されることは昔から知られていましたが,電子がどのようにして加速・加熱されるのかは,まだよく分かっていません.本研究は,高エネルギー電子の生成メカニズムの一つとして,HFAに伴って発生する磁気リコネクションもあるのではないかという可能性を提示しています.一方で,HFA中のアルヴェン速度は秒速100 km程度とそれほど大きくないので,リコネクションによってそこまで強い粒子加速が起こるのかという疑問は残されています.HFAは金星や火星など磁気圏がない惑星のバウショックや,巨大磁化惑星である土星のバウショックでも観測されています.HFAに伴うリコネクションがどれぐらい一般的な現象なのか,高エネルギー電子の生成に本当に寄与しているのかどうか,今後調べていく必要がありそうです.
以上の結果は,Journal of Geophysical Research-Space Physicsに出版されました.
Hasegawa, H., H. Zhang, Y. Lin, B. U. O. Sonnerup, S. J. Schwartz, B. Lavraud, and Q.-G. Zong (2012), Magnetic flux rope formation within a magnetosheath hot flow anomaly, J. Geophys. Res., 117, A09214, doi:10.1029/2012JA017920.
参考文献:
Lin, Y. (1997), Generation of anomalous flows near the bow shock by its interaction with interplanetary discontinuities, J. Geophys. Res., 102(A11), 24,265-24,281.
Schwartz, S. J. (1995), Hot flow anomalies near the Earth's bow shock, Adv. Space Res., 15, 107-116.
Sibeck, D. G., N. L. Borodkova, S. J. Schwartz, et al. (1999), Comprehensive study of the magnetospheric response to a hot flow anomaly, J. Geophys. Res., 104(A3), 4577-4593.